ある日のこと……
「よう! 独裁者!」
クラフォードはリリアリスに元気よくそう言うとリリアリスは苦言を呈した。
「人聞きの悪いこと言うんじゃないよ、
私ら特別執行官の立場が議会に承認されただけで別に何が変わったわけじゃないんだからさ――」
そう、ということはつまり……
「でも、それって言うのはクラウディアスでの立場としてさらに強い権限を持つことになったってことだろ?
今まで王族だけの権限だけでしか動けなかったのがクラウディアスの隅々にまで行き渡るようになったというわけだからな?」
ということである、それがリリアリスなら独裁者……言い分としては真っ当な気がするが。
「で、例のイドラスの裁判は終わったんだろ?」
クラフォードが聞くとリリアリスは答えた。
「イドラスというかは第2課の当事者全体ってところね。
もちろん、クラウディアスにも責任があるということで責任の5割を負担することで決着したわね。」
「残りの5割は首謀者陣にってわけか。
さっき、下で見たんだが、ありゃなんだ?」
下で首謀者陣営を見かけていたクラフォード、リリアリスは答えた。
「昔の慣例に習って吊るし首よ、もっとも本当に吊るしたりせず、単なる見せしめよ。
昔の柵に囚われている連中だから調度いいんじゃあないかしら?」
クラフォードは悩んでいた。
「大罪を犯し貴族位を剥奪され、そうなった者は吊るし首にされるっていうアレか……。
命までは取り上げないとはいえ、あれは精神的に来るものがあるな……」
「そうよ、貴族様なんだからきちんと責任ある行動を取ってもらいたいものね。
無論、元上司も同罪ってことで仲良く揃って国家侮辱罪としての罰金刑と禁固刑の両方を課せられた上、
手始めに吊るし首ってわけよ。」
因果応報だな、クラフォードは呆れていた。
「それで不正防止監視強化のためにあんたの地位向上ってところか」
「でも、それだけ責任があるってことにもなるからね、
下手なことしようもんならその時点で人生ゲームオーバーですってよ。
ま、犯罪なんて、んなリスク背負ってまでやることとは到底思えないけどね。」
この人、いろいろとおかしいことは散々言われていることだが、
それでも一応常識人で善人であることだけは唯一の救いであることにクラフォードは感謝していた。
しかし、それにしてもやっぱりこの人の思考回路はエグい。
とはいえ、そういうエグいところがあるからこそクラウディアスは段々晴れていくんだなぁと考えていた……
いや、クラウディアスどころかエンブリア丸ごとなんだが。
「で、そう言えば今日は何の用?」
リリアリスは訊いた。
「まだあんたの裁判は始まってもいないんだよな? 理不尽に散々閉じ込めていたやつ。
今後どうするんだって思ってな、アンブラシア編に移行するんだろ?」
クラフォードが訊くとリリアリスは頷いた。
「そっちは大丈夫、シューテル氏に一任してあるからね。
多分、王室直属の者に対する冒涜ってことで死罪ってことも考えられるけど……
ま、でも、個人的には生き恥さらしておいてほしいからね、できるだけそうなるようにお願いしたところよ。」
「生き恥て……生きているってことは金かかるってことだぞ、つまり税金で生かすってことじゃねーか」
「はぁ? 税金? んなもんに血税使うわけねーだろ。
働けよ。無論、死んで楽になれると思ったら大間違いよ、一生涯強制労働だわ。」
怖い……。
とはいえ、流石に大昔のような家畜のように鞭でひっぱたいて何某をさせるというそれではなく、
監獄の中の監視の下でせっせと何かしらを作らされるそれということである。
時代は変わって流石にそのあたりはちゃんとしているのだが――
それでも罪人に対する世間の評価についてはそこまで変わっていない。
そんなこんなで貴族会にて――あれ、まだ貴族会が残っている!?
残党とかでなくて組織として残っているようだ、どういうことだろう――
「いよいよアブレイズ共も暴かれレンドワールらも貴族位剥奪、
残りは我ら4人だけになってしまったようだな」
「ったく……だからあの女に手を出さんほうがいいと言ったばかりなのにな」
「まさか、かのシューテル=ロブライドが潜伏していたとは。
というか、やつは国を脱した国賊なるものなのでは?」
「それが、かつてのローファルの件もあり、クラウディアスとしてはやむなしという判断となったそうだ。
それに、セラフィック・ランドとも話をつけてきた立役者という面もある、
つまり、クラウディアスの外に出たこと自体が外交のためと言われたらそれまでということだ、
レンドワール共の国を捨てて逃げだした行為とはまるでわけが違う……」
「流石に抜かりはないな、ローファル共に与していただけのことはある。」
「それはそうと、次はどうする気だ?」
「どうってなんだ? 触らぬ神に祟りなし……もう、これ以上はいいだろう。
大貴族でパンドラの箱とも呼ばれたアガロフィスを初め、多くの仲間が暴かれた――
そしてあの女は今や議会の承認まで得られ、クラウディアスでの地位をさらに強化したのだ、
もうそれで良いではないか?」
「何を言う! あの女、このままにしとくわけにはいくまい!」
「ふっ、何を言うか? このままでよかろう?
そして今後はあの女につくということ……それでよいではないか?」
「な、なんだと貴様! 裏切るつもりか!?」
「辞めんか! 好きなようにさせておけ!
もはや貴族会は崩壊したも同じ! その存在意義から問われることとなっておる!
こうなってしまってはもはや裏切り者が出ようが造反が出ようが致し方あるまい!」
だが――彼らの規約になっている貴族会、そもそもこの存在がネックとなっていているのだった……。