次の日のテラスにて、リリアリスは何かを飲んでいると――
「げぇ……まじぃ……こんなもん、飲めたもんじゃないわぁ――」
流しでそれを吐いていた。
「まだ完成していないのですから今無理に試さなくたって――」
アリエーラは心配そうに訊くとリリアリスは態度を変えて言った。
「いや、完成してなくても残りの材料を考えるに大体の味は想定可能だからね。
となると……これだと100%飲むぐらいなら死ぬって言われてもしゃあないからね、
いい感じの味になるように調整していくわよ。」
「でも、作って持っていくのですか? 残りの材料を考えると現地で作ることになりそうですが――」
「ええそう、つまり現地の材料を使って飲めるものにすることになるわね、そのほうが楽だしさ。
だからあっちには薬の部分だけを持っていけばいいってことね。
現地には恐らく何でもあるような気がするから何を入れればいいか今考えてもいいってわけよね。」
なんだかんだで用意周到なんだなぁ……アリエーラは嬉しそうにそう思いながらリリアリスを見守っていた。
そんなテラスにとある者がやってきた、それは――
「リリアさん!」
その声にリリアリスは反応した。
「あら! イドラス君じゃん! もう解放されたのね!」
そう、彼である。イドラスは嬉しそうにしていた。
「ええ、おかげさまで、リリアさんの言うとおりに……いえ!
パワハラについて相談に乗ってくださったおかげですよ!」
言いかけたな……やっぱりリリアリスかっ!
「情状酌量ってわけね。ようやく、クラウディアスの膿がまたひとつ浄化されそうね。」
イドラスは頷いた。
「はい! ですから、今日はあいさつに伺おうと思いまして――」
リリアリスは遠慮がちに言った。
「あらぁ……別にいいのに。これからもしっかりとクラウディアスを支えてくれればさあ――」
が、しかし――
「すみません、実は本日限りで辞めることにしまして――」
え、そうなの!? リリアリスは訊いた。
「上司たちの強要とパワハラを見過ごしていた僕も同罪ですからね。
それに、あそこにはあんまりいい思い出がないんです。
クラウディアスはいい国ですが、やっぱり――」
確かに、人によっては苦い思い出となることもあるのか、リリアリスは考えた。
「ごめんね、力及ばずこんな不正まであることなんて……私のミスでもあるわ――」
「そんなことありませんよ! リリアさんはこの国にはびこる不正をどんどん暴いて行っているじゃないですか!
この国にはいろんな闇があったハズですがだいぶ晴れてきているんだと思います! リリアさんのおかげで!
すごいことではないですか!?」
しかし、当たり前ベースに物事をこなしているこの女にそう言ったところですごいことだとは考えないのが玉に瑕である。
「とにかく、僕は実家に帰ろうと思います。
実家はフェラントにあるんで近くに立ち寄った際には是非いらしてくださいね!」
その後、彼は去って行った――。
「完全にあんたの思い描いた通りのシナリオだったというわけか」
ヒュウガはイドラスが去ってからやってくるとそう言った。リリアリスは答えた。
「まあ、シナリオはね。
そもそもタレコミがあってね、2課にはどぎつい試練というか、
上司が部下を平気でぶん殴ってはヤバイことをやらされている的な話があるって聞いていてね、
もっとも、ろくに調べもしないで犯人と決めつけられ、
挙句自供させるのに何日も何週間も何か月も閉じ込めておくとかあり得ねえし。
悪いけど、これに関しては後日改めて抗議させていただくことにするわね。
まあそれはとにかく、2課のパワハラについてヴァドスに相談したんだけど、そしたらシューテル氏が出てきてね。
そしたら2課には昔から一部貴族との癒着があって不正が常態化しているって言うもんだからそれを暴くために手を貸してもらったのよ。
内情を調査してくるっていってたもんだから、まさか問題の上司にまで直談判してくるとは思いもしなかったけど――
まあ、そこは流石はクラウディアスに名を連ねる大貴族ね、怖いものなしって感じで堂々と話を聞いて来たそうよ。」
確かにその通りだが、怖いものなしって感じで堂々としているで言えばあんたに勝る者はいねえよ。
「前情報はあったから後はどう実行に移すかってことだったってわけだな。
確かに、あんたみたいなクラウディアスを無双する女になら誰だって相談したくなってもおかしくないわな」
ヒュウガはそう言うとリリアリスは得意げに答えた。
「ったく! ヒー様ったら!
クラウディアスを無双する女だなんてあたかもすごいことしてそうな女って感じじゃん!
いくら何でもそれは言いすぎじゃないかしら!?」
だからなんで自覚してねえんだとあれほど以下略で。
「そうですよヒュウガさん、リリアさんがそう言うのですから別にそこまでではないんじゃないですか?」
いや、あの、アリエーラさん同調しないで……。