エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ライフ・ワーク・ログ 第1部 風精の戯れ 第3章 安定の策士ライフ

第40節 もう降参したほうがいいと思います

 だが、アブレイズは――
「しかし! このような証拠が出てきたのですよ!  これは立派な犯罪ではないですか!?」
 と、シューテルに訴えるが、彼は――
「どれ、貸してみよ――」
 シューテルはそう言いつつ、彼が持っているクリアファイルごと書類を取り上げて確認すると――
「これは偽物だな」
 偽物だって!? だって、確かに――上司は焦っていた。
「いえ! 確かにこれはシルグランディアのデスクから……」
「シルグランディア……下はなんと言ったかな?」
「”シルグランディア・コーポレーション”です!」
 するとシューテルは指をさしていった。
「そうなのか、私にはそう読めなかったのだが――」
 と、なんと、そこには……
「”シルグランディア・コンビネーション”!?  ちょっと! 何よその会社! 訊いたことないわよ!?」
 リリアリスは訴えていた。
「で、でも、書類に書く名前はなんでもよろしいのでは!?  そもそも1人で見えないところで金を流せばよいハズですから、別にそんな事せずとも――」
 と、アブレイズは言うが――
「それはそれで否だ。 書類上でクラウディアスの名をかたっている以上、そのうえでミスがある状態で取引したとならば罪は重い。 判例では王族印の事例でそのミスが後に見つかって該当者が死罪になったという者もあったからな…… ま、大昔の時代だがな」
 シューテルはそう語った。横領・収賄よりも罪が重いって偉いこっちゃ……何人かは震えていた。
「となると当然、リリアリス本人がそんなミスを犯すはずもないだろう、例え横領・収賄をしていたとしてもな。 ここまでリスクを背負う意味は彼女にはないのだよ、そうだろう?」
 シューテルはそう続けるとリリアリスは言った。
「そうね、そもそも紙で残しているってことはまずは書面上のミスがあるかどうかをチェックしているはずだからね。 言ったでしょ? 資源は大事にしろって。 確かに、ミスのまま印刷したってことも考えられるけど、そもそも私、紙で残すっていう趣味はないのよ。 だからデスクを調べていてどうしてそれ”だけ”があるのかしら? おかしいわよねえ?  それに、そもそも1人で見えないところで金を流せばよいハズならわざわざこんな証紙残す必要ないんじゃあないかしら?  あんたたち、何から何まで言ってることが矛盾してんのよ?  気が付いてるかしら? つまり、私を貶めるためにでっち上げているとしか思えないわよねぇ?」
 リリアリスはそう訊くと、とうとうイドラスが――
「も、申し訳ございません! 私が、私がやりましたぁ!  その領収書を作ったのは私です! どうしても、どうしてもやらないといけなかったので!」
 自白し、その場で立ち崩れていた。それに対して上司が――
「何だと!? 貴様ぁ! こんなことをして許されると思うてかぁ!」
 と、イドラスの襟をぐっとつかんで怒ると、彼に向けて拳を――
「オラァ! んなことすんじゃないわよ、危ないわねえ!  今の、私が入んなかったら彼の鼻の骨が折れ曲がっていたわよ!?  とにかく、10時27分、現行犯で逮捕するわね!」
 と、なんと、リリアリスは上司のその拳めがけてハイキックをすかさずくらわすと、 その腕をもぎ取るように引っ張り出し、すかさず手錠をかけた!
「がぁぁぁぁっ――」
 上司は痛そうにしていた。
「無論、お前たちもだぞ。 知らなかったでは済まさぬ……強要罪として既に証拠が挙がっているのだ、おとなしくすることだな……」
 シューテルはアブレイズら3人の前に堂々と立ち塞がった。

 あの後、リリアリスはテラスへと何食わぬ顔で戻ってくると腕をまくり、薬を作る作業を続けた。
「さてと、未来に向かって頑張って作りますか!」
 いや、じゃなくて……そこへと既にやってきたクラフォードたちは悩んでいた。
「一体、何があったんだ?」
 そこへアリエーラがやってきて言った。
「今回はパワハラ案件ですね。」
 そう、そう言うことである。
「しかも今しがた、パワハラの現行犯で捕らえたところよ。 後は治安維持部門第1課に引き渡して即時完了って感じね。 さらに上司もその上の連中もそろって部下たちに不正を強要していたということでまとめて豚箱送りってわけね。」
 やっぱりこの人に手を出しちゃいかん……その場にいた何人かはそう思っているが、オリエンネストとアリエーラは――
「やっぱりリリアさん! 流石だね! そんなことまでできるなんてすごいなぁ――」
「ですよね! リリアさんにしかできませんからね!」
 ははは……まあ、その表現も一応あってはいるのだが。
「でも、よくもまあ逮捕にまで行ったもんだな」
 スレアが訊くとリリアリスは頷いた。
「まあね、やっぱり運がよかったのかしらね?  3日前にさ、たまたま上司のパワハラに参っていて飲みつぶれていた2課のイドラス君に会ったからね。 ちなみにこれはここだけの話なんだけど、不正を促したのは私ってことでもあるからね。」
 えっ……何人かは凍り付いた。
「上からは常にでっち上げでもいいから証拠を押さえて私を貶めろって命令があったみたい。 それでシクったらパワハラ……彼はパワハラから逃れたいがために不正に手を染めることにしたってわけよ。 そこで私は彼のオーダーで偽造文書を作り、クライアント様の指定通りに進めることにしたってわけよ。」
 なんだよ! ってことはやっぱりあの文書を作ったのはあんたってことじゃないか!
「違うわよ、私は作り手、クライアントの注文通りにしただけ。それ以上はクライアント様の判断よ。 でも、今回の彼の行動は度重なるパワハラによる精神異常によって正常な状態でやれたことではないという判断になるから彼についてはお咎めなし、 代わりに上司が責任を取らされることになるわね。」
 いや! 絶対にクライアント様じゃなくてあんたの作戦だろ! つくづくこの女は危険だ!  あの場ですぐさま上司に手錠をかけたうえ、治安維持部門第1課まで呼びつけておくなんてどう考えてもあんたの策だろうが!