エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ライフ・ワーク・ログ 第1部 風精の戯れ 第3章 安定の策士ライフ

第39節 腹が減っては戦はできぬ

 彼女を前にしてどうしようかと悩んでいたイドラス、2つの理由で。 1つはもちろん、自分たちの手で彼女を失墜させようとしているからであるのだが、もう一つは安定のリリアリスである。
「それ……全部食べるんですか……!?」
 テーブルの上には山のような量の御馳走が持ち込まれていた。
「そうよ、ちょっとばっかしムシャクシャしててね。 暴飲暴食の後、しばらくしたらダイエットのつもりで大暴れしようと考えているところよ。 明日は20人ぐらいの手練れを一度にぶっころ……手合わせ願いたいって訊いたからその前の腹ごしらえでもあるわけね。」
 やっぱりやばいよこの人。
「そういやあんた、治安維持部第2課ってことは私を家宅捜索した連中ってことよね?」
 やっぱり知っていたか……イドラスは悩んでいた。
「どう? 何も見つかんないでしょ? やっぱりね。」
 何も言ってないのに……イドラスはますます悩んでいた。 それにしてもそんな相手に向かって一切気にも留めるような様子もないリリアリスにイドラスは不思議に思っていた。
「そもそも私は潔白だからね、何をどうしても塵一つ出てくるわけないのよ、でっち上げでもない限りはね。」
 そう言いつつ、リリアリスはスマートフォンを取り出しつつ何かをじっと見ながらずっと食べていた。
「な、何を見ているんです?」
 イドラスはそう訊くとリリアリスは答えた。
「これ? 薬の調合方法の確認よ。 焦れば焦るほど失敗しちゃうから冷静になるためにこうして頭に叩き込むつもりでじっと見ていることにしてんのよ。」
 あまりに熱心な彼女……これは彼女をずっと留めておくのは厳しそうだ、イドラスはそう思った。 自分に知らされている内容としては3日後当たりに彼女を1年閉じ込めておくという計画を知らされている、 どうしようか――彼女を信じたいし、イドラスは悩んでいた。
「ん?」
 リリアリスはイドラスの様子に気が付いた。
「ま、見つかりもしない証拠を見つけろなんて言うミッション、不毛としか言いようがないわよね、 そういう星のもとに生まれてきたんだからどこかで腹をくくらないといけないと考えると悩みたくもなるわけか……」
 そう言われたイドラス、持っていたビールジョッキを一気に飲み干していた。
「いい飲みっぷりね、私も次に捕まる直前に飲んでしばらく死んどこうかしら?」
 この女は絶対にやるな。

 だが、やらなかった。それもそのはず3日後――
「リリアリス! 横領・収賄の容疑で逮捕する!」
 テラスにて、治安維持部第2課が彼女の前に現れてそう言った。 薬を作っていたリリアリスは手を止めることなくそのまま話を聞いていた。
「うるさいわね、今それどころじゃないのよ。」
「黙りなさい! 逮捕状が出ているんだ! 手を止めておとなしく言うことを聞きなさい!」
 だが、リリアリスは譲ろうとしない。
「作業中よ、後にして。 だいたい逮捕状って、私何か悪いことでもしたかしら?」
「先日の件、とうとう証拠が出たのだ! これで逃げも隠れもできまい! おとなしくすることだな!」
 そう言われてリリアリスは手を止めると……
「やれやれ、根拠は出てきたってところね、また嘘だろうと思うけど。 いいわ、オリ君、とりあえず乾燥しないように面倒見といてくれる?」
 一緒にいたオリエンネストは頷いた。
「もちろんだよ! リリアさん、頑張ってね!」
 頑張って……でいいのだろうか。

 リリアリスは手錠を……かけられずに言われたまま連行されてきた。
「貴様ら! また手錠をかけないまま!」
「前回もこうだったじゃないですか、かけたってすぐ外してしまうんですから効果ないんですよ。 おとなしく来てくれているんですからいいことにしません?」
 上司に対してイドラスはそう訊くと――上司はもやもやしつつも話を変えた。
「残念だったなリリアリス! とうとう証拠が出てきてしまったな!  これでお前はもう終わりだ! さあ……おとなしくするがいい!」
 だが、リリアリスは腕を組みつつ得意げに言った。
「へえ、証拠ねえ。証拠能力として真っ当なものなのかしら?」
 すると、そこに例のアブレイズら3人組が現れた。
「これが証拠の書類だ。 これはクラウディアスから自分の会社に送金していたことを示す領収書だ!  とうとうボロが出てしまったようだな!」
 なんだって!? リリアリスは驚いていた。
「何言ってんのよ!? そんなのがあるわけないでしょ!?  やってもいないことなのにどうしてそんなに簡単にでっち上げられることができんのよ!?」
 するとアブレイズが得意げに答えた。
「そうかな? これはでっち上げではない、紛れもなくキミの会社のデスクから見つかった領収書だったのだよ!  確かにでっち上げを考えもしたがなぁ! しかし、本当にまさか不正をやらかしているとは思ってもみなかったのだよ!」
 だが、リリアリスは……ニヤっとしていた。
「あらそう……考えたのね、でっち上げをね。で、名目は? アドバイザー料とかかしら?」
 それに対してアブレイズは上からものを言うように言った。
「そんなものどうでもいいだろう? お前は犯罪者、クラウディアスを冒涜したのだ。 さあ、今後は牢屋の中で一生暮らせばいいだろう!」

 しかし、そこに――
「なるほどな、この国の冤罪はこうして生まれるものなのだな――」
 そこに現れたのはまさかのロブライド様だった。
「これはこれはロブライド様! ようやく、悪人を懲らしめることができました!  これもひとえにロブライド様の助言あってこそです!」
 上司はよいしょする一方で、あの3人組は――
「なんだと!? まさか、ロブライドの者が関与していたというのか!?」
 口々にそんなことを言って驚いていた。
「ふん、浅はかな――ローファルと言えばボロを出すかと思うてな。 そしたら案の定……功を焦ったというわけだな」
 まさか、ロブライドがローファルの名を出してきただなんて……3人はビビっていた。
「それにしてもリリアリス嬢、相変わらずというか、流石としか言いようがありませんな。 こうして、クラウディアスにたまっている膿を払いのけているわけですな?」
 ロブライドはそう訊くとリリアリスは得意げに言った。
「ええそう、人間焦っている時が一番ミスしやすいからね。」
 しかもまさかの伏線回収。常に回収しているなあんた。
「でも、あんたのおかげでいろいろと助かったわ、シューテル氏。」
 と、彼女は続ける――そう、ロブライドとは…… かつてのクラウディアスの重鎮の1人シューテル=ロブライドのことだったのだ。