イドラスは冷や汗をかきながら報告していた。
その話を聞いていた上司もまた冷や汗をかいていた。
「ぐ……そ、それを私は貴族会様に報告しろというのか……?」
上司の顔は怒りに満ちていた、これはマズイ……
「申し訳ございません! どうしてもダメなのです! あの女を出し抜くのは容易なことではありません!」
「ふざけるなぁー!」
するとそこへ――
「ほう、貴族会への報告とな? なるほど……」
ロブライドが口を挟んできた。
「も、申し訳ございませんロブライト様! リリアリスを貶める口実を用意するには相当の時間がかかっておりまして!」
ロブライドは頷いた。
「まったくだ、怪しからんことだな。時に……貴族会の誰に報告する内容なのだ?」
上司は間髪入れずに答えた。
「大変申し訳ございません! 報告相手はアブレイズ様にございます!」
そう言われてロブライドは考えた。
「アブレイズ? ああ、あやつか、思い出したぞ、なるほど――まだ権力に執着しておったのか」
それは――2人はどうリアクションしていいのかわからなかった。
「ならば訊いた話を素直に提案するがよい。
それでもし機嫌を損ねるようなら……そうだな、かのローファル=ヘバリトスならそれで受諾したはずだと伝えよ、よいな?」
えっ……
それを受けて大役3人、アブレイズを初めとする3人は悩んでいた。
「ろ、ローファル=ヘバリトスだと……!? 何故、ローファルの名前が……」
「それは思ったが恐らく、何者かが関与している可能性は高いということだな――」
「何者とは? 誰だ?」
「ローファルの名を出すぐらいだ、ある程度は絞られる――」
「少なくともグラエスタの貴族ということだな。
しかもあえてローファルの名を出す程度だから下位貴族なのは確実……
連中、我々が分断しているスキを見計らって対等になろうと企んでいるに違いない」
「だが、ローファルならと言われれば我らとて見過ごしておくわけにはいかんのもまた事実……
確かに、ローファルはあれでも数々の難所を切り抜けてきたが故の権力者だったからな、
貴族会にはできぬのかと言われたら止む無しということか――」
と、3人は悩んでいた。プライドだけは高いな。
「まあよい、とりあえず、具体的に何者が関与しているのかを探そう。
そいつがもし、あのリリアリスの協力者だとしたら洗いざらい吐かせればよいのだ。
そして、いずれあの女も尻尾をつかませるハズ――さすれば我々の想いのままだということだ!」
それからまもなくして――
「ったく、やれやれ……何食べようかしら、また太るわね。」
貴族会の連中の判断によって早めに釈放されたリリアリス、
だったら食う量抑えろよ……そう思わざるを得ない。
「どうしよっかしら? こんな時間に食うもんじゃないとは言うけど、流石に飲まず食わずじゃあ辛いだけよねぇ……」
だったら今までどう過ごしてきたんだよ、どう考えてもそう思わざるを得ない。すると――
「あれ、お城の食堂、まだ空いてるじゃん♪」
まだ明かりがついているらしいその一角、彼女はそう言いつつ楽しそうにやってきた。そこには――
「あれ? リリアさん? もうおしまいですよ?」
と、お城の騎士たちがそう言うと、彼女は――
「うそっ!? 何にもないの!?」
食堂のスタッフはエプロンで手を拭きながら答えた。
「すみません、残念ですがもうおしまいですね。
今しがたお皿を全部洗い終えたばかりなんですよ――」
そう言われ、彼女は項垂れた様子で食堂を出て行った。
「どうしたんでしょう?」
スタッフは心配そうに見守る中、1人の騎士が言った。
「リリアリス被疑者の件でやっと解放されたんじゃないんですか?
それでここ数日間しばらく飲まず食わずのハズですから――」
そ、そんな! そう言われてスタッフは慌ててリリアリスを引き留めようとしたが……
「い、いない……」
いないということは他の場所を求めてどこかに行ったということだろう。
「そ、そういうことだったら食べて行ってほしかったなぁ――」
後悔しても遅い。
リリアリスは真夜中のクラウディアスの街中を散策していた、
時刻はすでに天辺を超えて1時になりそうな頃だ。すると――
「おっ、開いてるー?」
彼女は居酒屋にやってきた。
「へいらっしゃい! クラウディアス特別執行官様じゃねえっすか!
もちろん! うちは夜中の5時まで営業してますからねぇ!」
長ぇな……気さくな亭主は楽しそうにそう言うが――
「でも生憎、席がいっぱいなんで相席とかになっちまうんだがいいか?」
確かに、こんな時間なのに繁盛しているな……でも、メシのためなら!
もはや自分で作る気力もないし他を探す気もなくなっているリリアリスはこの店に決めた。
「問題なしよ♪ とにかく、腹減ったからうまいもん沢山持ってきてよ。」
「あんたがこんな時間にたらふく食おうなんて珍しいねえ!
余程腹減ってんのか!? いいよ! 特別サービスしておくぜ!」
と、亭主はそう言って彼女を促した。
「ごめんね、隣、いいかしら?」
リリアリスはそう言ってとある席で酔いつぶれている先客に向かって訊いた。
すると、その先客は――
「……え!? まさか、リリアリスさん!?」
彼女の姿を見てとても驚いていた。
「見てのとおりね。そう言うあんたはクラウディアスの……その制服は治安維持部第2課だったかしら?」
と、その治安維持部第2課の人物はまさかのイドラスだった、まさに自分のターゲットを目の前にして彼は驚いていた。