かといって本当に捏造したらしたで自分の身が危うくなるのは事実……
過去に本当にやって首を切られた者を何人か見ているイドラス、今度は自分の番か――悩んでいた。
無論、自分がこの仕事を続けているのもそのためであり、大役や上司には問題が及ばないためのトカゲの尻尾という存在……
とにかく、止む無くグレート・グランドの大使の発言を訊くことにしたイドラス、
言われたように近くにいたヒュウガに話を聞くことにした。
リファリウスなんてほぼ当事者みたいなもんだから、とりあえず、それ以外の人に訊けば十分だろう――
そう考えてのヒュウガである。
「あんたたちも懲りないな、またあの女閉じ込めてなんだかんだしてんのか。
でも、それもそろそろやめたほうがいいと思うぞ。
アンブラシアの扉が開いたばかりなんだ、
あっちでやりたいことが山積みらしいから解放してやんないと後で大変なことになるぞ」
彼はつくづく運がない……リリアリスの発言の根拠をそのまま持っているんじゃないかこの人――悩んでいた。
「しかも……もしかしたらだが、アンブラシアでは不治の病と言われるやつに挑戦している可能性がすこぶる高い、
となると……おそらくあの女が既にある程度何かをつかんでいる以上、他の誰かにやらせるってわけにはいかないだろうな」
訊くんじゃなかった、イドラスは悩んでいた。
「そ、そんなに大事なことだったら情報共有とかしないんですか?
そしたらあなたにだってできるハズでしょう?」
イドラスは希望にかけてそう訊いた、だが――
「それはそうなんだがな。
でもムリだろうな、俺達は”ネームレス”……アンブラシアが開くまでは記憶が定かじゃなったから共有しようがなかったんだろう」
でも、今は開いてるじゃないか、イドラスはそう訊くが――
「あのな、昨日今日話を聞かされてはいそうですかで出来たら医者なんかいらねえっつーの。
不治の病っぽいっつったろ?
お前さ、これから難攻不落のアガロフィスを暴くミッション与えます、だからそれを理解して今日中に済ませろ……
そう言われてできると思うか?」
まさに自分の今の状態がほぼその状態なんだが――イドラスは悩んでいた。
「しかもあの女が挑もうとしているのは人の命、つまりは医学における専門分野だ。
その難攻不落さは推して知るべし、たとえどんな医者に話したとて一朝一夕でできれば大したもんだ。
だから――まずは腕のいいドクターから探すこったな。
もっとも、不治の病って言うからにはそっちのほうも骨が折れそうだけどな。
だからあの女は自らの力でやろうとしているわけだ」
な、なるほど……イドラスはぐうの音も出なかった。
どう報告しようか……イドラスは上司のいる部屋を前にして項垂れていた。
するとそこへ――
「貴様はなんだ? 邪魔だ、さっさと退かぬか――」
と、そう言われたイドラス、振り返ってみると――なんだ、貴族かよ……
声の主の身なりからそう判断し、しぶしぶと道を開けた。
「ったく、しつけがなっておらんな……」
そりゃあ悪かったな! イドラスの心の中は煮えくり返っていた、
お前らが満足するようなことをするために自分たちはクラウディアス中を駆け回っているんだ!
声を大にしてそう言いたいところだが、相手が相手なのでそう言えないのが彼の辛いところである。
「さて、邪魔をするぞ――」
貴族の男はそう言いつつ部屋の中へと入って行った、すると――
「ん!? ま、まさか――ロブライド様ではございませんか!」
と、あの上司が媚びへつらいつつ部屋の中へと促していた、やっぱり貴族か。その際――
「ん? なんだ貴様は? 今は忙しい! 報告は後で聞かせよ!」
と、上司はイドラスの存在に気が付いてそう言った。だが――
「ん? なんだ、先約だったのか――」
ロブライド様はそう言うと、上司は否定した。
「そんな、とんでもございません! ロブライド様を待たせるなど! 冗談にもほどがありましょう!」
だが、ロブライドは――
「否、私も疲れておるのでな、だからお前と話をする前に一呼吸置きたかったところだ。
だから先に用事を済ませてしまえばよい」
えっ……上司は悩んでいた。
「よ、よろしいのでしょうか……?」
「構わん。
そもそも部下からの報告というだけのことであればかかる時間もたかが知れておるからな、
上司は部下の話をうまく吸い上げるのが仕事……ゆえにお前の聞き取る力にもかかっているというわけだな?」
そ、それは――上司にはプレッシャーがのしかかっていた。
「それはそうと、私はその間好きなように過ごさせてもらうぞ。
茶など自分で入れよう、最近拘りの入れ方があるのでな……」
と、ロブライドはそう言いつつ上司からカップを奪い取って自分でお茶を入れていた。
「な、ならば早速報告せよ!」
上司はイドラスにそう訊いた。