エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ライフ・ワーク・ログ 第1部 風精の戯れ 第3章 安定の策士ライフ

第28節 エンブリア裏世界を牛耳るドン

 ユーシェリアはカスミと話をしていた。
「まさか犯人を暴くのに税金を利用するなんてすごいよね!」
 カスミは首を振った。
「税金操作して発覚したのはたまたま。 お姉ちゃんの目的、あくまで紙大切にしろ、意識させただけ」
 たまたま! それはすごい……ユーシェリアは舌を巻いていた。
「そ、そうなんだ――犯人が出てきたのって結果論に過ぎないんだね……」
 するとそこに、またしても検挙された貴族風の男が大勢の兵士に連れられている光景が――
「ほらまた――後ろの人……人? 多分生きてるよね……?」
 後ろの人はまず間違いなく例の女にボコボコにされたのだろう、顔が原形をとどめていない――お察しします。
「お姉様の手にかかればどんな男でも目じゃないもんね!」
 心配しておきながら嬉しそうに言うユーシェリア、それに対してカスミは頷きつつ言った。
「ユーシィの手にかかっても男の末路は大体同じ」
 そう言われてユーシェリアは得意げに答えた。
「もちろん! あのぐらいの男なんかコテンパンにしてやるんだからね!」
 流石っす。
「資源は大切にしないとだよねー♪ さーて、ティレックスにメッセージ入れとこっと♪  明日は……お姉様とルーティスを交えてネットワークの構築会議だから寝坊しないようにっと……」
 うーん……寝坊したら間違いなく彼の顔も原型をとどめないな。

 一方でリリアリスはクラウディアス南東部の森へとやってきていた。
「なるほどね、間伐自体は適正に行われていたってことね。 ということはつまり――」
 そう言われて議員は悩んでいた。
「間伐は適性でその他の紙の原材料についても適正に収穫されている…… ということはつまり――そういうことですね?」
 リリアリスは頷いた。
「確かめる方法は他にないわね。」
 それにしても南東部の森――リリアリスはあたりを見渡していた。
「そういえば、こっちも森が広がっているのよねぇ……」
 どうしたのだろうか、議員は訊いた。
「いえ、森と言ったらだいたい西側の天使の森だからさ。 だからなんというか――この森からなんだか妙な気配がするのよねぇ、 意識的に森に行くのなら西に行くように誘導されているというか――」
 言われてみれば確かに、議員も思った。ただ、それは――
「それは天使の森が特別だからということではないですか?  幻界碑石があるということはそう言うことですからね、 古のクラウディアス王族や貴族が幻界碑石を求めてやってきたというのもそう言うことだと思いますよ」
 そう言われてリリアリスは悩んでいた。
「いや、だからこそ、こっちの森には向かわせないという強力な力が働いているんじゃないかって言ってるんだけどね――」
 そうだろうか、議員は不思議に思っているとリリアリスは続けた。
「もっとも、あんたたちや一般庶民のレベルじゃあ天使の森に行くこと自体が稀なんだっけ、 昔は王族も貴族もって言ってたけど彼らでさえトピックとしてはリアスティンとローファル、 そしてエミーリアの件ぐらい?」
 議員は頷いた。
「言われてみれば、私も森に入ること自体が初めてでした。 とにかく、収穫後の経路を確認しに行きましょうか――」
 するとリリアリス、その場を立ち去りながら考えていた。
「この森、何かあるって思わせないような妙な仕掛けがあるわね、 近づこうと考えれば考えるほど気が付いたら気持ちが遠ざかっているわね……。 まあいいわ、不思議と害はなさそうだし、今は無理だけどそのうち森の謎を解明して見せるわね。」
 つまり、この森には何かがあるということか――。

 リリアリスは城に戻りいつもの会議室へ入ると、 そこにはヴァドスとエミーリア、そしてユーシェリアとカスミとウィーニアがいた。
「あら? お揃いでどうしたの?」
 リリアリスが訊くとヴァドスが答えた。
「計算は全部しておいたぞ、あんたの行動で国内の企業がそろいもそろって申告してきたんだ。 クラフォードやティレックスも協力して対応してくれたんだぞ」
 そうだったのか――リリアリスは頷いた。
「なるほどね、そういうことならお礼にまたビシバシ鍛える時間を作ってあげないといけないわね。」
 ヴァドスは冷や汗かいていた。
「いや、あの、お礼ならできればそういうんじゃないほうがいいと思うぞ――」
 が、しかし――
「はい! ティレックスは絶対そういうやつのほうが喜ぶと思います! だから思う存分に鍛えてあげてください!」
「是非是非♪ リリアさんいくらでもクラフォードと一戦交えてあげてくださいな♪」
 と、ユーシェリアとウィーニア……ヴァドスは返す言葉もなかった――原型をとどめないの決定!

 ところで他はともかく、ウィーニアがいることに気になったリリアリス、ウィーニアが答えた。
「バルティオス・ウォータを利用した不正が発覚してね、本土では大騒ぎになっちゃったのよね。 調べたらグラエスタの貴族が関与していたことが発覚して調査をすることになったのよ」
 なんだって!? リリアリスは驚いていた。
「でだ、それについてこちらで調査を続けたら例のアガロフィスが闇のオーナーとして取り締まっていたことが分かったんだ。 確かに氷山の一角だったな、この件――叩けば叩くほど問題が明るみになっていくぞ」
 リリアリスは悩んでいた。
「さっきルーティスからも連絡があってね、奨学金融資制度の手数料のうち、 少額ではあるけれども使途不明の支出について調査したらクラウディアスに流れているって話があったのよ。 そしたらそれもアガロフィスに流れている金だってことが分かったのよ、所謂”口利き料”っていう名目らしいわね。 そっか、バルティオスもターゲットにされていたのね――」
 カスミが口を開いた。
「アルディアスの製鉄業、ルシルメアの不動産と一部のレジスタンスを介した傭兵業にも加担してる。 傭兵業は相場よりもちょっと高い額で政府関係者と契約までしてる」
 なんだって!? リリアリスは驚いた。
「あいつ、そこまで!?」
「それだけじゃねーぞ、多くの国の産業の裏には”メルトアシスのドン”が潜んでいるって一部の界隈じゃあ有名の言葉らしい。 ”メルトアシス”っていうのは古いルシルメアの言い方でな、エンブリアの神話には一切出てこない単語だが、 大昔のグレート・グランドやルシルメアの歴史資料だと出てくる単語だそうだ」
 ウィーニアが続けた。
「で、そのアガロフィスなんだけど、発祥はそのメルトアシス…… つまりルシルメアからクラウディアスの移住した商人が起源だったみたいね。 ルシルメアの国の成り立ちは私たちバラトールの民とは関係が深いから―― ま、バフィンスを見ればわかる通り、昔のバラトール民には荒くれ者が多いのよねぇ、 だからアガロフィスみたいな常識的にやばいのが現れても無理もないかもしんないわねぇ――」
 バフィンスは恐らくくしゃみをしていることだろう。
「なるほどね――メルトアシスのドンがクラウディアスに居城を移すと裏で手広くやって行ったっていう事が起こりえたってわけなのね。 とどのつまりはクラウディアスのパンドラの箱じゃなくって、エンブリアのパンドラの箱だったということになるわけねぇ――」
 リリアリスは憂いでいた。じゃねえよ、あんたはそいつを暴いたんだよ。