その日のうちに雌雄は決した……。
「あー! 疲れた! いっただっきまーす♪」
リリアリスは目の前の鰤かまの塩焼きに勢い良く食らいついていた。
「お疲れ様です、リリアさん! いかがでしたか?」
アリエーラはそう訊くとリリアリスは何食わぬ顔で答えた。
「ん? うん、大したことなかったわね、クラウディアス貴族を暴くのって並大抵のことじゃないって方々から言われていたけど、
一番デカイと言われているやつでこの程度なら全員暴いてくのも時間の問題って感じ?」
アリエーラは嬉しそうに答えた。
「そうですか! それはよかったです!」
いやいやいや、そんなシンプルな返しもなんかおかしくない?
それもそのはずだった、スレアとラシルは共に悩んでいた。
「あのアガロフィスを白状させたって――マジかよあの女……」
そう、そう言うことである……。
「まあ、リリアさんならあり得るかなって思いましたけど、それでもまさか――」
「そうだよな、そこなんだよな、やるのはリリアリスだから不思議ではないって思うのはなんだろうな?
だけど、それでも相手はまさにパンドラの箱と呼ばれたアガロフィスの陰謀説だからな。
言ってしまえばクラウディアスの歴史をひっくり返すような出来事、俺らはそれを目の当たりにしているんだ……」
「ですよね、よく考えたらそう言うことなんですよね。
本当に、リリアさんって何者なんだろう――」
クラフォードとティレックスも一緒に話し合っていた。
「とうとうやったぞあの女。
アガロフィスってあれだろ? パンドラの箱ってやつだろ?
それなのにあの女……とうとうやったな」
「はあ……歴代のクラウディアスの査察部がことごとく玉砕しているっていうパンドラの箱なのに……
あの人どう考えてもおかしいよ――」
「しかもあれだろ、邸宅にある証拠をすべてそろえきる前に本人の口から自白させたって話だろ?」
「そうなのか!? ますますどういう頭してるんだよあの人!」
「ったくだ……。
体力に関してはわかる、あの女は1年ぐらいは無睡でも平気で過ごしたことがあるなんて言ってるからな、
それ自身が理解しがたいが……それを考えるとただの根競べじゃああの女に絶大なアドバンテージがあるのは明らかだ」
「アガロフィスさんも弁護士先生をつければもっと抵抗で来たんじゃないかな?」
「かもな。だが、言ってもそこは天下のアガロフィスだ、その名前だけで圧せるって考えたんだろうな、
確かに――アガロフィスの手口はこれまでもそうだったという噂だ。
アガロフィスが前に出れば誰だって怖気ずく……だが、あの怖いものなしの女にはそれが通用しなかった、
アガロフィスの主な敗因はやっぱり相手が悪かったという一点に集約されるだろうな」
「だろうね、俺もリリアさんを目に前にされると勝てる気がしないからなあ……」
「まったく、世の中とんでもない女がいたもんだ、剣はおろか剣での戦い以外でも無敵とは――」
「しかも生死を賭していることじゃないから、あくまでゲーム感覚にしかとらえてないんだよなぁ……」
「それな。ギャンブラーだからな」
「はぁ……真にパンドラの箱と呼べるのはリリアさんの頭だってことか――」
そして……貴族会についてはアガロフィスの失脚を受けて大きな影響を受けていた。
「ど、どうしたというのだ!?」
レンドワールは慌てていた。
「どうしたもこうしたもあるか、あのアガロフィスさえも暴かれたのだぞ、
このままいけば我々のレベルの貴族など、破滅する未来しか見えん。
だから悪いが手を引かせてもらう、すまぬな――」
そう、貴族会を脱退しようという動きが加速していた。だが――
「抜け駆けは許されんぞ。
何故なら貴族会は王家のお墨付きを受けておるのだ、
それに離反しようという者はそれ相応の処罰を受けてしかるべきなのだ、
それを覚悟してのことであろうな?」
「もちろんだ、だが――我々に関してはその制約を受けることはない」
「何を言うか!? そのような例外などあるものか!」
それをレンドワールは静止した。
「お墨付きの印を受けた際のリストに名が載っていない……ということか、
そうなると、そもそも貴族会に与する者であることを立証できぬというわけか――」
何だって!? それについて問いだそうとする者がいるが――
「残念だがそれが現実ということらしい……言うなれば、
法律の壁を超えるのは我々を以てしても不可能だということだ、
それならば好きなようにさせるしかあるまい。
だが――如何なることがあろうと最後に笑うのはこの我々なのだ!
かつてあのローファル共に苦汁をなめさせたあの時の屈辱! やつがいない今!
今度は我々がクラウディアスを支配するのだ! そのためには如何なる犠牲をも厭わぬ!
そうとも……次はクラウディアスを守るための代償をクラウディアスの民たちの命で支払わせるのだ!
私の掲げる”アクアレア有事法”! それで現行のクラウディアスを担うあの女が失脚すればすべては解決するのだ!」
だが……そもそもそのアクアレア有事法は通ることなく、
その法案の最大の要因であるディスタードとの戦争の折に彼らはそろってあの女に追放させられることになるとは――
ますますリリアリスという女は恐ろしい存在である。
もっとも、その有事法は内容が内容なだけにそもそもリリアリスを前にして通ることはかなわないんだが。