完全に根競べ! クラウディアスの某会議室内にて、クセモノ同士の対決は1週間続いていた。
「フン……丸1週間、飯だけは手を抜かずに用意してもらえるとはな、まあ当然と言えば当然のことだが……」
アガロフィスは高圧的に言うとリリアリスもまた高圧的に言った。
「何言ってんの、当たり前でしょ?
あんた被疑者であって確定したわけじゃあないんだから最低限の権利ぐらいあったっていいでしょうよ? 違う?」
アガロフィスは呆れていた。
「やれやれ、私はいつになったら帰れるというのかね? 貴様らの仕事はトロいのではないか?」
リリアリスは得意げに答えた。
「あんたさあ、天下のアガロフィス様を語る者でしょ? ちょっと考えればわかることなんじゃない?
天下のアガロフィス様の大豪邸なんだから調べるのに時間がかかるのよ、そんな当たり前のこともわかんないのかしら?」
「いくら家が大きかろうと限度というものがあるだろう? まさかその考え方は世界標準とやらで定められておらんのか?」
「もちろん……だけどあんたの家は世界標準にしては規格外過ぎるから特権を行使して特別に調査期間を6週間まで延長してよいことになっているのよ。」
ろ、6週間……寄りにもよって法律を行使して――アガロフィスは悩んでいた。
「これもアガロフィスという大きなお家の宿命と思って受け止めてもらえればいいんじゃないかしら?
普通のお宅だったらこんなことあり得ないはずだからねぇ♪」
ペースは完全にリリアリスベースで進行していた。
さらに昼食時――
「フン……飯だけは間違いないな、そこはなんであろうとクラウディアスはクラウディアスということか。
まあいい……帰り間際にこれを作ったシェフを雇ってやることにするか」
飯だけはどうも不満が出ない食事を出してもらえるようで、なんとも穏やかな様子で過ごしているアガロフィス。
そこへリリアリスがやってきた。
「飯食ってる時だけ満足そうな顔しているわね。」
するとアガロフィス、意地が悪そうに訊いた。
「貴様にはわかるまいな、これが王家に仕える者の食事というものだ。
贅沢なのは認めよう、我々はそこまでのことをしているのだからな、当然の権利というものだ。
だが、貴様のような庶民が決して口にしてよいものではないのだよ?
だかしかし……事と次第によっては特別に許可してもやってもいいのだぞ? どうだ? 食ってみたいか?」
リリアリスは得意げに返した。
「さっき食べてきたから遠慮しておくわね。」
アガロフィスはさらに挑発してきた。
「ほう、なんとももったいないことを言うものだな。
たとえばこれ……クラウディアスのブランド牛テラピラッサのシャトーブリアンというものでな……」
リリアリスは頷いた。
「知ってるわよ、しかもそれはさらにそこから厳選したエンペラーブリアンと呼ばれるものでね、
それを焼くときは流石の私も結構緊張するものよ、
最近はじゃんじゃん食うやつがいるからだんだん慣れてきているんだけどねー♪」
焼く!? まさか――
「そうよ、あんたが食ってる飯、私が作ったやつよ。
ああそうそう、雇われたって構わないけど――その代わり高いわよ?
そうねぇ……クラウディアスの国家予算並の報酬は頂こうかしら?」
「な、なに……」
「調味料の配合については企業秘密ね。
ああ、でも、そっちのサラダにかけているドレッシングは特別に市販のエルクレンシャル・ソースを用意させてるわね、
あんたが好きなやつだって聞いたからさぁ……ふふっ、案外庶民的なところがあるじゃないの♪」
こ、この女――
だが……3週間目となると、流石にアガロフィスも辛くなってきた。
あからさまに顔から疲れの色が出てきており、口数も減ってきていた。
そして、4週間目――
「さーてと、次の取り調べでもしましょうかしらねぇ?」
その一方で、こちらの女はまるで堪えるということを知らない……。
「貴様……このようなことをいつまで続けるつもりだというのだ……?」
「ん? うん、もちろん白状するまでよ♪」
この女もアガロフィスにほぼかかりっきりで缶詰状態……
たまに目の前で薬を作っていたり端末を持って何かをしていたり、
そのうえ寝ずにこの部屋にやってきたり……アガロフィスは寝ているが。
それなのに、何故この女は無睡で平然と精神を保っていられるのだろうか……アガロフィスは悩んでいた。
「さっきさ、証拠となりそうなものがだいぶそろったって報告が上がってきたのよね。
まだまだ精査している段階でだいぶ時間がかかっているんだけどさ、ここまで来たら時間の問題よね♪」
しかも何やら楽しそう……アガロフィスはますます悩んでいた。
そして次の日……もはや僅かな楽しい食事の時間でさえほぼ地獄に等しいものとなりつつあったアガロフィス、
完全に精神が参っており、その日は食事に手を付けることすらやめていた。
「どうしたの? 食べないのかしら?
せっかくあんたのためにいい素材を厳選して作ってやったんだからちゃんと食べなさいよ?
しかもなんと今日は鰤かまの塩焼き! アルディアス産のクイーンの部位を贅沢に使用した、
まさに貴族仕様のものなんだからちゃんと食べなさいよね?」
そう言われ、少しずつ食事に手を付け始めたアガロフィスだったが次第に目から涙が――
「そうそう、それでいいのよ♪ さあさ、ちゃーんと食べなさいよね♪」
やってることがもはや完全にアメとムチである。
これは精神的にぐっとくる……正常な精神を保っていなければもはや彼女のペースにしかならない。