エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ライフ・ワーク・ログ 第1部 風精の戯れ 第3章 安定の策士ライフ

第24節 クセモノvsクセモノ

 そもそも今回はどうしてこうなったかを説明しなければいけないだろう。
 話の冒頭では資源税の話を出していた。 これについては資源に対して課税したいのではなく、 資源の取引状況を見てみたいというリリアリスの思惑によるものである。
 取引状況だけなら何かしらの書類などがあるのでそれを見ればわかりそうなものだが、 それでもどこかしらで不自然な差分が発生し、資源が消えていることを突き止めたリリアリス、 なんだかわからないけれどもこの歪みは明らかにおかしい。 そのため、あえて税金をかけることで方向が変わってくるんじゃないかと踏み実際に流れを見たところ、 何故か問題は海外へと波及していたようで、そちらでは紙の高騰化が発生していたということがわかったのである。
 順を追って説明しよう。 クラウディアス国内では原材料費に製造費とさらに消費にまで特別資源税がかかっているため、 重課税ゆえにそこそこの価格となってしまっている。 が、それを見越しての少ない税率なのでそこまで高騰しているわけでもなく、ここはこの際どうでもいいだろう。
 だが、それが海外向けとなると事情が変わってくるのである。 それは、特別資源税による課税に加え、 さらに既存の”循環資源利用促進税”制度の影響である。 クラウディアスでは特定資源の取り扱いについて、 国外に出す場合は国内向けよりもやや多めに課税されるという仕組みがあり、 それもまた僅かな差でしかないのだが、資源の管理については国でしっかりと行っているため、 国内で売り上げた分と国外に向けて売り上げた分の税金についても当然見ているわけだ。
 無論、資源は国家の所有物という考え方からその使用量については国家で独自に抑えてはいるのだが、 となると、税金の計算で食い違いが発生したらすぐにわかるということである。
 だが、消えている売上分の税金までしっかりと納付されているため、事態が明るみになるわけでもなく、 しばらくリリアリスの頭を悩ませる結果となった、失策だろうか、次の手は―― そうこう考えているうちに意外なところから紙についての重要なヒントが得られた、 そう、各国首脳人らとのウェブ会議である……問題はやはり海外向けに起きていることは確実なようだということである。
 訊くところによると、いくらかの国ではここ最近紙の値段が僅かに高騰しているという現象が起きているという。 ただし、複数の国で一度に起きていることなので結びつけて考えられるかどうかは微妙なところだが、 リリアリスは各国に実態調査を提案するに至った。
 するとなんと、とんでもない事実が浮上したのだった、 そう、クラウディアス産の紙が海外に不正流出されていたということである。 あえて課税分を含めた金の流れにしているあたりは表ルートから堂々と流してのことだと思っていい…… 意外とわかりづらいものである。 だが……そのバイヤーというのはまさに闇ルートによる商取引といっても過言ではないような流れとなっているのが実のところで、 クラウディアス産の紙を相場の1.2倍程度の値段で流しているという実態があらわとなったのである。
 そして、それを取り仕切っているのが渦中の人物であるアガロフィスであり、 ここ100年200年の長きに渡って組織的に行われていることだと発覚したことだった。 もちろん、そのアガロフィスの名が挙がったことでこれ以上の調査を辞めようという働きも出てきたことは事実…… クラウディアスにおけるパンドラの箱の一つとしても知られており、 触れた者は謎の不審死を遂げたり自殺に追い込まれたりすることで有名なんだそうだ。 もちろん、それらについてはアガロフィスが何かをしたということは間違いなさそうな気もするのだが、 残念ながら紙の件共々アガロフィスにたどり着くまでは証拠は大体握りつぶされている…… 暴くのは容易なことではない。
 なお、その対象はエンブリアにおいてもそれ相応に消費されている紙……反発が多いことは目に見えていた。 無論、安易な税金操作をするとなると後の始末が大変となるのだが、その詳細については後ほど。

「さあ、どうなんだね? 何か答えたらどうかね?  事と次第によってはクラウディアスに抗議しなければならん、何故お前のような者がクラウディアスを動かしているのかとな――」
 アガロフィスは挑発してきた。 だがしかし、そんなものに乗るはずのないリリアリスは何食わぬ顔で話した。
「まあ……実行犯がそろいもそろって一応口にしているからねえ――」
「だから、それは連中の嫉妬ではないのかねと訊いているのだが? そのようなこともわからないのかね?」
「さあてねえ? 名前が挙がっている以上は調べないわけにはいかないでしょう?  私、別に相手が貴族だろうが平民だろうが忖度しないのよ。 だから何度も言うけど、アガロフィスを名指ししている以上、 我々としてはあんたたちを調べないといけないのは別に特別なことでも何でもない、当たり前のことしかしてないわけなのよ。 つまり、私のやっていることは世界の常識でしかないのよ、お分かり?」
 いつものように得意げに話すリリアリス、そんな彼女に対してアガロフィスは次第に苛立ってきていた。
「それはつまり他所の常識であってクラウディアスの常識ではない。 我々には我々独自の文化があるのだ、強国クラウディアスとしての立場がな!  訊くところによると、貴様という女はそんなことも知らず各国に働きかけておるというではないか!  つまり、貴様はクラウディアスの名を汚しているということなのだぞ!  それがどういうことなのか貴様にわかっているのか!?」
 リリアリスはやはり得意げに答えた。
「あら? おかしいわねぇ? 私がいるおかげでクラウディアスの価値が高まっているのよ?  知ってるかしら? 最近は各国のお偉いさんもクラウディアス様っていうよりも先にリリアリス様って呼んでくださるのよ?  これってつまりクラウディアスを動かす者として私という個人が認められた証じゃあないかしら?」
「世迷言を……他所の国は他所の国、クラウディアスはクラウディアスなのだ。 まあいい、話がそれてしまったようだが――とにかく、私はクラウディアスのやり方でやらせてもらうのでな、 ここで失礼させてもらうよ……」
 だが……リリアリスは――
「あら? 逃げるおつもり? この場からさっさと逃げたいって感じがにじみ出ているわよ?  常識的に考えると、何か都合の悪いことがあるようにしか思えないわねぇ?  ああそうそう、私は世界標準でやらせてもらうけど、 実は今の世界標準を作ったのはあんたが言うクラウディアスであることをお忘れなく。 それってのはつまり、私もクラウディアスのやり方でやらせてもらっているということでもあるわけね。」
 この女……アガロフィスはリリアリスを睨めつけていた。
「いいだろう、そこまで言うのであれば好きなだけ調べるといい。 ただし、もし何も出なかったら……その時はどのように責任を取ってもらおうか?」
「ええ、そん時は”ごめんね♪”って言うだけよ、ったりまえでしょ?  私らは仕事でやっているに過ぎないんだからね。 それに、あんただってやってないって言うんなら疑いが晴れたほうが嬉しいでしょうよ?  だから私らのやっている行為に対して感謝はされても文句言われる筋合いはないんだけど?」
 この女もまた相当のクセモノである……確かに、この大物に彼女をぶつけるというのは選択としては間違いなさそうだ。 そんなこともあり、クラウディアスの査察はアガロフィスを暴こうと本格的に乗り出すことを決意した背景があった。