ある日のこと、クラウディアスの某所にて――
「そっちに逃げたぞ! 取り押さえろ!」
「くっ、逃げ足の速い奴め!」
「大丈夫よ、私が来たからにはもう逃がさなくってよ。」
「リリアさん! すみません、お願いします!」
なんとも穏やかではない状況になっているようだ。
「さあ捕まえたわよ、諦めてもらえる?」
「へっ! しぶとい女だ!
だがいい女だ! 特別に俺の女にしてやるぜ! フヘヘヘヘヘヘヘ!」
と、逆にリリアリスに襲い掛かってきた! が……
「はぁ!? 何ですってこの変態物好き魔が!
今すぐ死にたいですって!? だったらその願い……今すぐかなえてやろうかああああああ!」
確かに変態物好き魔。奇しくもその認識は私とも一致しているな。
その後、変態物好き魔の姿を見たものはいない……
「オルァ! なんか言えや! このウジ虫が!」
監獄の中、リリアリスは床に突っ伏している変態物好き魔の身体を勢いよく蹴り上げると、
変態物好き魔の身体はサッカーボールかってぐらい勢いよく跳ね上がった!
そして、そいつが壁にぶつかって崩れ落ちると、あたりはけたたましい程までの轟音が鳴り響いた!
「がぁっ! だ、だずげ……」
「あぁん? 助けろだと? もちろんいいぜ……死ねば楽になれるもんなぁ!」
そ、そんな! 殺す気満々!?
「ちょっと、どう考えても完全に問題のある行動ではないですかねぇ?」
兵士たちはリリアリスのその様を眺めながら冷や汗を垂らしていた。
「んー、まあ……それはそうなんですが、先ほどの被疑者の行動と言い放ったセリフを考えるに、
リリアさんがあそこまで激昂するのも無理はないかと……逆らったら絶対に殺されるし……。
だから、被疑者については因果応報だと思って諦めてもらいましょう!」
み、見捨てた……。
これが法治国家……いや、まだ法整備が不完全なところがあるのか……ならしゃあない! (書いている人も見捨てた!)
「本当だろうな!?
嘘だったら死よりも恐ろしい目に遭わせてやるからな、例えば××××とか××××とか!
××××して××××とかするっつーこともできんだぞ!?
それともなんだぁ!? ××××するっていうのも面白そうだよなぁ!」
「ひっ! ヒィイ! ど、どうしてそんなひでぇことが考えられるんだこの女!
本当にあんた、人間なのか!? いやそんなことより! 言ったことは間違いねえ! 絶対だ! 誓ってもいい!
俺はやつに言われてやっただけだ! 頼むから信じてくれえええええ! この通りだあああああ!」
「おぉ、そうか……だったら蹴り一発で勘弁してやるとするかあ!」
え……
「そっ、そんなあ!」
「はぁ!? じゃあ嘘だってのかぁ!? 白状するまで”助けて”やってもいいんだぞ!? あぁん!?」
「ひっ! ヒィイ!」
ここから先はクラウディアス国の美しい風景をお楽しみください。
クラウディアスと言えば、中心部にはまるで童話に出てくるようなメルヘンチックで可愛らしいお城が有名である。
そのお城の前には城下が立ち並んでおり、その建物も漏れなくメルヘンチックな造形をなしており、
まるで童話の世界にでも入ったかのような印象を受ける。
だが、それ以上にメルヘンな印象を与えているのは城下から僅かに離れている森である。
その森はまるで城下を守るように取り囲んでおり、外から来たものは森の中へと入ると、
そこはまさにワンダーランド……まさに童話の世界に――おっと、そろそろ問題が解決しそうだ。
ともかく、この世で最も恐ろしいもの……ただの”鬼”と呼ぶには生易しい……
否、むしろ”鬼”すらをも気を悪くするような真の恐怖を見た変態物好き魔だった。
だがしかし、それがリリアリスであるというのなら仕方がないことである、それは何故か?
そう、何を隠そう彼女こそが”安定のリリアリス”、
如何なる手段を以てしてもそこいらの一般人や悪漢程度がかなうような存在ではないからである。
そして、それから数日後のこと……。
「レンドワール、あれを見てみろ……」
グラエスタにて、貴族会の連中がその様子を眺めていた、その様子というのは――
「ほう? まさかあのリリアリスという女、
今度はかの”パンドラの箱”と呼ばれたアガロフィスに挑む気か?
フッ、身の程知らずもいいところだな――」
と、彼をはじめ、多くの貴族たちがなんとも得意げな態度で眺めていた、
今回はその家に査察が入ったようである。
「まさかアガロフィスにまで手を伸ばすとはな。
まあいい、この際だからあえて語るとするが――
確かにアガロフィスは不正に手を染めているのは間違いないのだろう。
だが、そのカラクリを知る者はおらず、我々としても当人から”黒”だと訊いたことはあるが、
その実態は聞かされてはおらなんだ」
レンドワールも得意げに言った。
「そうとも。
ゆえに、例え当人が”黒”だと宣言したとて、証拠が闇に葬られて……否、それは流石に失言だったな、
証拠が出てこぬ以上はどうにもならんのだよ!」
さらに追随して他の貴族たちも言う。
「ああ、そういうことだ。
それに、アガロフィスに挑む者は何人たりとも破滅を見ることなるのだ――
そう、歴代のクラウディアスの査察官はすべからく破滅したのだからな!」
「ある者は謎の死を遂げ、またある者は自らの首を吊り、中には自らの家に火を放った者や、崖から飛び降りた者も……」
「クラウディアス様に継ぐ、クラウディアスナンバーツーの家に楯突こうなどとは……
ククッ、あの女もまた身をもって知ることとなるだろうな……」
どうやら今度の標的は触れること自体がタブーなお方のようである。
果たして――
が、しかし――リリアリスはそんな相手を前にしても臆することなく話をしていた、単に知らないだけなのかもしれないが――
「なるほど、それが証拠だというのだな。
して、それが我がアガロフィスと何の関係があるというのだ?
貴様が暴いたという犯人は確かに我が家を語ったとのことだが、
これでも貴族を名乗る家柄なのでな、その手の嫉妬や怨嗟など日常的に受けているに過ぎん……
これはクラウディアスを動かす者の宿命なのだよ。
つまりそいつらは我がアガロフィスを貶めるために語ったにすぎぬのではないのかね?
まさか連中の証言だけで我がアガロフィスの名を傷つける気なのかね?」
これは確かにクセ者だ、これを楯に権力を振りかざそうものなら――いろいろとやばそうだ。