エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ライフ・ワーク・ログ 第1部 風精の戯れ 第3章 安定の策士ライフ

第22節 嵐を呼ぶ風精の女

 リリアリスの計画はすぐにわかった、 それは、買収したエルクレンシャルとアジャールの部門についてはシルグランディア・コーポレーション本体とは分社化させ、 それらを上場するという事だった。 一方のシルグランディア本体は上場廃止を継続したまま経営を続けるという算段だったようだ。
 分社化の手続きについては既に済ませているようで、 これから上場手続きをしにいくということらしい。
「なるほど、そういうことですか――」
「上場した目的についてもとりあえず達成しているからね。」
 確かに……ということにしておこうか、どう考えてもやっぱりカオス……。
「つまり、元ある形に戻すような感じにするということですか?」
「完全に元の形に戻すことはできないけど、まあ、買収した分の責任はきちんと取らせてもらうつもりよ、 エルクレンシャルの残りが泣きついてくる可能性も含めてね。」
 そこはやっぱり計画のうちなのね。ますますヤバイ女。
「だったら先に上場廃止なんかしないで、本体だけ上場廃止にすればよかったんじゃ?」
 ラシルは訊くとリリアリスは頷いた。
「ええ、気が付くのが遅かったわね。」
 そういうことですか……この人、案外こういう人なのよ。

 言うまでもないが、この人によるこの手の騒動については今に始まったことではない。 例えばクラウディアスの改革はもちろんだが民間レベルでの改革についても結構なもので、 一番影響することと言えば民衆の生活が変わったことである。
 それについては、かつてこんなことがあった――。
「し、資源税ですって!?」
 リリアリスは頷いた。
「あのねぇ、単刀直入に言うけどさぁ、みんなそろいもそろって紙の使いすぎなのよ。 資源は無限じゃないんだしさ、じゃんじゃん使えばいいってもんじゃないのよねぇ。」
 そんなこと言ったって! 議員たちは慌てていた。
「何をするにも紙は必要なんです! だから――」
「だから、その考え方が間違ってるって言ってんのよ。 そもそも紙って何でできているかわかる? 紙は植物……主に木材からできてんのよ。 資源ってのはいつかは枯渇する、いずれかはそういう時代が来るのよ、わかる?  だったらそれに代わる何かを早いうちに用意する必要がある、そうは思わない?」
 その話を聞いてアリエーラも悩んでいた。
「確かにその通りですよね。 エーテル紙という手もありますが、 いずれも自然のマナを消費しているのは同じですので枯渇対策はどこかでしなければなりませんね。」
 この人も簡単に言う! 議員たちはますます悩んでいた。
「仰ることはわかります、 リリアさんのように電子でやり取りしているのを見るにそれがベストだというのは承知しているのですが、 それにしては……あんまりではないですかね?  そもそも資源については各々適当と言える方法で課税の対象となっていまして――」
「だからただの資源税ではなく、”特別資源税”なのよ。 そして気になる金額だけど、現行の消費税に対してさらに上乗せで0.3%を課税させていただく予定ね。」
 0.3%!? なんだかやけに少ないような――
「それだと税法上、消費者からの徴収は難しいんじゃないでしょうか?」
 税金の徴収額は基本的にローダ通貨単位の上で小数点以下は切り捨てられる、 つまり購入単価が小さくなる一般の消費者レベルでは徴収額が期待できないのである。 ということはつまり――
「ええそう、紙を大量購入する業者や紙の原料を使って製造する製紙会社向けの税金ってわけね。 ついでにこれはあくまで意識改革の一環で紙を大事に使ってほしいっていう意味合いでのものでしかないから、 額なんてほぼ関係ないのよね。」
 まあ、それなら――そもそも何やら企んで……いや、計画しているようなので、 それならと、議員たちは話に乗ることにしたのだった。
「次は何を始めるんですかねー?」

 あれから数か月が経過したある日のこと。 リリアリスはウェブ会議システムで各国の首脳陣と話をしていた。
「いやあ結構結構! 流石はクラウディアス様!  もはやディスタード帝国などというものは敵ではありませんなあ!」
 アルディアスが楽しそうに言うとリリアリスは得意げに答えた。
「そうね、まだまだ予断は許さないけれども、 それでも、私の立てた計画でいけばいい具合に処理できそうな感じでしょ?  別にそれを自慢したいんじゃなくって、言った通りにしてもらえると助かるって意味よ。 言っても、そんなの計画というより、ただの芋づる式でしかないんだけどね。」
「それがただの芋づる式であれば確かにその通りなんでしょうが、 それにしたっていくら何でもお話しいただいた内容は流石に我々では考え着くことは難しいですね――」
「だけど、それでかえって各国に負担を強いる形になってしまうのが申し訳ないんだけどね。」
「いえいえ! 長年の問題が一挙に解決するとあらば安いもんですよ!  そうですよね! ルシルメアさん!」
 アルディアスに急に振られたルシルメア、何故か焦り気味に答えた。
「……ん? え!? ええ、まあ……確かにその通りですね――」
 なんだろう、どうしたんだろうか、リリアリスは訊いた。
「すみませんね、ひとつお伺いしたいことがあったのですが、そのための資料が見つかりませんで――」
 見つからない? どうしたのだろうか、ルーティスが訊いた。
「そういえば今回は紙の資料を用意されていないようですが……どうかされたのでしょうか?」
 紙と言えば――リリアリスが気にする前にルシルメアが答えた。
「紙の資料なら一応ここにあるんですよ、ほら――」
 と言いつつ資料を出してきたのだが、それにしては――
「おやルシルメア殿、奇遇ですな。実はこちらもほれ、この通り――」
 と、いくつかの国はなんと息を合わせたかのように紙の資料を出してきたのだが、 その枚数と言えば……
「あれ? 皆さん少ないですね?」
 ルーティスは疑問に思っていた。
「左様。質問したい事項に関する資料は紙で一通り抑えているのですがそれでも限界がありまして、 それで止む無くこの端末とやらに資料をデータで保存しているのですが、 生憎こいつの操作に未だに慣れないものでして――」
 どうしたのだろうか、何かあったのかリリアリスはその実態を聞くと――
「ねえ! ちょっとみんな! 協力してほしいことがあるんだけど!」
 何かを提案し始めていた、何かが起きていることは想像に難くない。