そして、その時が来た。
「そっか、そんなことがあったんだね――」
リリアリスはカスミの話を聞いて考えていた。
彼女らのいる場所はアクアレアの大使館通りで、まだ建設予定地の立て看板のみがある区画だった。
「私、間違ってた。
私がいたからこそ、クラウディアスで実現できたことがあったこと――」
リリアリスはにっこりしていた。
「私らが来る前は一本柱としてやっててくれたじゃないの。
それに、私としてもカスミのことは頼りにしているし、それに、何より私自身がすごく癒されてるし――」
そう言われてカスミはにっこりとしていた。そんな笑顔に対してリリアリスは――
「ふふっ、やっぱり可愛いわね、可愛いけど――
これで私そっくりってのが解せないわね、私なんかよりも断然カワイイと思うんだけど。
ま、でも、とにかくそれでこそカスミなんだから――って、私はそう思うけどね。」
2人の間には風が吹いていた。
「でも……私、このまま大きくならなかったらどうしよう」
それに対してリリアリスは言った。
「ならなくていいんじゃない? そもそも、その姿こそがカスミの成人の姿ってことなんじゃないのかな。
いわゆる座敷童なんていうのがそんなじゃない?
ずっとかわいい子供の姿のままを維持して生き続けるのよ。
まあ、それが嫌って言うのなら別だけど――」
カスミは首を振った。
「ううん、それならそれで私全然かまわない――けど……」
けど――何か引っかかるものがあるのね、リリアリスはそう思った。
「なるほど、気にしているのはそういうことか、
幼子のままの姿だから自分の能力もそこから上がっているのか心配ってことか――」
そう言われてカスミは少々落ち込み気味だった。
「確かに、自分の姿は一つの能力の指標と言えそうだもんね。
でも、カスミの場合は違うんじゃないかしら、
今言ったように、カスミの姿はその姿こそが成人の証なんじゃないかなってさ。
だって、女の子なりに恋もしたことがあるんだしさ、年下なんかあからさまに目下に見ているところがあるじゃない?
特にあのユーシェリアなんかはカスミの扱いはほぼお姉ちゃんだしね、あの子も結構甘えんぼなところがあるからね。
召喚主のエミーリアだってそう、彼女に対してもあなたは完全におねーちゃんやってるじゃない?」
そう言われると確かにそうなんだけど――思い当たる節があったカスミ。するとリリアリスは――
「そうね……そういうことなら、こういうのはどうかしら?
ここは今、何もないところだから暴れるのにはちょうどいい場所だしさ……」
と、彼女はそう言うとその場にすさまじい勢いで風が吹き荒れた――。
それに呼応したカスミ、彼女は懐の剣に手を差し伸べた――。
「リリアお姉ちゃん――ひとつ、勝負をお願いする」
アクアレアのその場所にはギャラリーが集っていた。
「おいおいおい! なんだ、どうなっているんだ!?」
クラフォードが訊くとティレックスが答えた。
「何か外が騒がしいと思ったら――」
場所は大使館通りの区画ということもあって、
アルディアスの大使館にいたティレックスが真っ先に飛び出してきたのである。
そこではなんと、リリアリスとカスミが真剣を持って互いに激しい戦闘を繰り出していた!
「おい! 嘘だろ! どうしてあの2人があんなに激しく激突しているんだ!」
しかしリリアリスが手加減しているのは明らかだったが、
「リリアリスさん、全力じゃね?」
アーシェリスがそう言うとクラフォードが言った。
「全力だったら使うべき技を使っているハズだが、それがないことから加減はしているみたいだ。
でも、確かに動作のほうはむしろ全力だな」
そこへユーシェリアら女性陣は声援を上げていた。
「リリアお姉様ー! カスミちゃーん! 二人ともがんばれー!」
「カスミちゃーん! 頑張ってー! リリアお姉様に負けるなー!」
フラウディアがそう言うとフロレンティーナも……。
「カスミ! がんばって! リリアは手ごわいわよー!」
そして、決着はついた。
確実に年齢は上でブレイド・マスターとしての才を備えたリリアリスの勝利である。
そんなリリアリスは剣先をカスミの目に前にピタリと止めながらそう言った、だが――
「つ、強くなったわね――」
リリアリスは明らかに汗びっしょりで息も荒くなっていた、
もちろん、カスミも同じく汗びっしょりで、リリアリスの剣を前にその場でひざをついている状況だった。
以前はフロレンティーナ相手にした時もこんな感じだったが、リリアリスのこれは彼女の時以上だった。
「久しぶりのマジ勝負でこんな――流石に疲れたわね――」
リリアリスは剣を納めると、カスミの元へとゆっくりと駆け寄り、彼女の隣に座り込んだ。
リリアリスは思いのほか余裕がない感じ、これは相当カスミが強かったということらしい。
そして、2人のもとへギャラリーが詰めかけていた。
「ふーっ、身体が熱いわね、こんなに汗かいたのってなんだか久しぶり。
あちこち出かけて汗かくことはよくあるけど、タイマンでこんな汗かいたのってフローラの時以来よ。
流石は鬼夜叉姫って名があるだけのことはあるわね、ここまで苦戦するなんて――」
それに対してカスミは訊いた。
「お姉ちゃん強い、只者じゃないことよくわかる。
でも、そのお姉ちゃんに私ついていった、お姉ちゃん、今の全力、私わかってる。
全力のお姉ちゃんには勝てなかった、手加減もされてる、それもわかる――」
するとカスミは間髪入れずに言った。
「私わかった、自分のことわかった。私、成長してる、あの時より成長してる。
”現身の珠”、でき始めているわかる。でも――」
でも――それに対してリリアリスは優しく言った。
「でもカスミんとしては、このリリアおねーさんに甘えていたいんでしょ♪」
そう言われると――カスミはリリアリスに甘えた。
「お姉ちゃん!」
リリアリスはにっこりとしていた。
「うふふっ、本当にかわいいわよねぇ、そう、これがカスミんなのよ。
どんなに成長したってどんなになったってカスミんはカスミん、
これはこれでいいのよ、これこそがあなたの持ちうる最高のポテンシャルであり、特殊能力なんだからね――」
えぇ……男性陣はどういうこっちゃと悩んでいた。しかし逆に女性陣は――
「そうです! これこそがカスミさんなんです! やっぱりカスミさんは可愛いですよね!」
アリエーラは絶賛していた。カスミの可愛さはもはや犯罪の香りしかしない。
「可愛くて強い! それこそがカスミちゃん! 見た目は子供! 頭脳は大人!
見た目通りの甘えん坊なのにお姉さんとしてさらっと対応してくれるのがカスミちゃんの魅力なの!」
ユーシェリアも絶賛していた。甘えられるのも嬉しい、それでいて頼れるのも嬉しい。
「そうそう、それこそがソード・マスター鬼夜叉姫・剣姫 霞ってわけよ。
ほんと、またずいぶんと大胆でなかなかのステータスを持っている女ね――」
フロレンティーナも絶賛していた、もはやライバルと言わんばかりに。
とまあ女性陣からの人望はそれだけ分厚かったのは確かである。
「なるほど、要するに侮れない存在という文字通りの状態を地で行く存在ってわけか」
「ソード・マスター……私も負けていられないですね――」
最後に、ヒュウガは彼女のことを考察し、ディスティアも嬉しそうにしていた。