ある日のこと、当時はまだアリヴァール編の攻略を間近に控えていた時のことである。
いろんな”ネームレス”たち、
各々が自らの存在について葛藤や自問自答を繰り返している中でも、
一番自分自身というのが見えていないというあの2人と一緒に話をしていたカスミだった。
その2人とはフィリスとオリエンネスト、テラスのベンチに座っていた。
「にしてもさ、あんたって本当にリリアに似ているよね。あんたもそう思うでしょ?」
フィリスにそう言われてカスミは嬉しそうにしていたが、オリエンネストは困惑していた。
ただ……カスミは悩んでいた、自らの存在について、自分はどうしてこうなのだろうかと悩んでいたのである。
カスミのその様子を察してフィリスは言った。
「そういう時は誰にだってあるよ、私もそう。あんたもそういうことあるでしょ?」
フィリスはオリエンネストに訊いた。
「まあ、そうだけど――でも、僕らの意見って参考になるのかな?」
確かに――自分たちは”ネームレス”だ、お前らはお前らで特有の問題か変えているじゃんかよ、
フィリスは自問自答していた。するとフィリス、たまたま目に入ったあいつに訊いた。
「じゃあ、ちょうどいいのが来たからあいつに訊いてみようよ。ねえ?」
だが、そいつは聞いて正解と言えるのかわからないイールアーズだった……。
「はあ? 知らねーよ。んなもん、悩んでたって仕方がねえだろうよ。
んなことより、リファリウスのヤローはどこ行った?」
フィリスはため息をつきながら呆れていた。
「やれやれ、やっぱりあいつは話の出来ないやつってわけね。
居ないの見りゃわかるでしょ。
ったく、あんたの都合に合わせているわけじゃないのよ、わかった?」
ちっ、イールアーズは捨て台詞を吐いて去ろうとした。すると――
「……そうだな、俺に言わせれば、悩んだところでその時その時にならねえと何を正解にしていけばいいのかわかんねえ。
そして正解がわかればそこに向かって突き進むだけだ。
だから悩んでたって仕方がねえ、悩むぐらいならさっさと正解見つけてそこに真っすぐ突き進みゃあいいんだ」
それに対してカスミは間髪入れずに訊いた。
「正解見つけても、また悩んだら? 正解が見つからなかったらやっぱり悩み続けるの?」
イールアーズはため息をついた。
「……言い方がちょっと良くなかったなから少し言い換えるか。
悩んでいいんだよ、悩んでもいいが、悩んだまま立ち止まって何もしねぇってのが一番よくねえんだ。
ずっとどうしよう・どうしようって言ってるのが一番悪いんだ。
それに正解なんぞ見つからなくたってそんなに気にするこたねえ、
見つけたところで万事解決するわけじゃねえからな、些細なことだ。
んじゃあ、そもそも悩みたくなければどうすればいいか?
簡単なことだ、自分が悩まずにいられるにはどうすればいいかを考えるしかない、それが正解と言えば正解だ。
でもな、悩まずにいられるにはどうすればいいか探していても結局そのためにまた悩んじまうんだ」
イールアーズはさらに話を続けた。
「ま、結局は堂々巡りになっちまうわけだが、世の中そんなもん――そう思ってりゃ諦めもつくってもんだ。
だからこう考えればいい、悩みなんてあって当たり前ってな。悩みなんてのは誰だって抱えてる、大なり小なりな。
”悩み事があればいくらでも悩め”、俺が唯一親父に教わった言葉だ。
悩んで悩みぬいて、そしてその悩みが解決したとき、真の強さってのが得られるんだとよ。
だから、大きな悩み抱えて生き続けているやつは……そいつはきっと、大物になるに違いねえ。
悩んだ数の分だけ人は大きくなる……そういうことらしいぜ。
だからとりあえず、まずは自分のやるべきことやこなすべきことを少しずつ片付けていけばいいんじゃねぇのか?
自分にしかできないことがあるんだったらそれを優先的に実践すればいいしな。
そしたらそのうち、自分の悩みなんていつの間にかなくなっているかもしんねえだろ?」
こいつ……”あんな”キャラのクセしてまともなこと言うじゃねえか、3人はそう思った。
それを察したのか、イールアーズは首を振り、
「無駄話しちまったようだな」
そう言いつつ、なんだか満足げな表情をしながらその場を去った。
イールアーズの言ったことに対してずっと絶句していた3人だが、カスミは立ち上がって言った。
「私……自分のこと卑下しすぎてた。私、もう少し自分を信じてみる。
私、幻獣、ルスト・ティターンの住人、私にしかできないこともあるハズ――」
オリエンネストはワクワクしながら言った。
「そうそう! その調子です! そうですよね、僕も立ち止まっていらんないな!」
「ほんと、その通りよね。まさかそれをあいつに教えられるなんて……試してみるか」
フィリスも呆れ気味だが嬉しそうにそう言った。