エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第4部 女剣士の憂鬱 第7章 憂い

第110節 夜姫の能力

 カスミはテラスでの話の後に一旦自分の部屋に戻り、そしてまた戻ってきた。
「これが花鳥風月――」
 リリアリスはテーブルの上に出された扇をしっかりと眺め、そして手に取った。
「確かにとんでもない合金でできているけど、 まさに幻獣としての能力がどれほどのものかというのを示しているってワケね。 これなら直せないことはないけど、やっぱりあくまで珠の片割れを探し出して修復したいのね?」
 カスミは頷いた。
「見つけたい。見つけだして直したい――」
 ティレックスは頭を掻いていた。
「でも、今の話聞いてると召喚先ってこの世界だけじゃないんだろ?  召喚されてずっとこっちにいるのに他所の世界に行って探すことはできるのか?」
 カスミはそう言われて俯いていた。それに対してリリアリスが言った。
「召喚獣が大量に死ぬ事例か――それこそ、あっちの世界だったらありうるわね――」
 リリアリスがそう言うとフロレンティーナが言った。
「まさか、異世界アンブラシア!?」
 アリエーラが頷いて言った。
「”インフェリア・デザイア”ですね、確かにあの力は幻獣を脅かす能力だと思います――」
「確かにそうね、あっちの世界に行ったら片割れを探してみる価値はありそうね。 今はそのままじゃあかわいそうだから暫定措置をとることにして、見つけたらきちんと直してあげましょ。」
 それに対してカスミはリリアリスに懇願した。
「お姉ちゃんお願い、お姉ちゃんに直してほしい――」
 リリアリスは嬉しそうに答えた。
「うふふっ、カワイイ”妹”の為だもの、二つ返事で引き受けてあげるわよ。」

 その夜、ティレックスとユーシェリアは寝室で話をしていた。
「カスミの話ってさ、結局何が問題だったんだ?  最後まで聞いている分には悲しいことつらいこと、全部乗り越えている気がするんだが。 確かに扇の片割れがないことは気がかりと思うが、別に物に執着するような感じでもなさそうだし――」
 ユーシェリアは答えた。
「そうかな、なんていうか、寂しい過去を送っていたけどなんかまだ全然それを埋め切れていない気がするよ。 普段を見ている分には全然そんな気がしないようには見えるけど、 でもカスミちゃん、時々ものすごく寂しそうな顔をする時があるの、だからあれを考えると――」
 そんなことがあるのか、ティレックスは訊き返すとユーシェリアは頷いた。
「お姉さんの扇のこともあるんだろうけど、根本はもっと根深いものなんだと思うよ――」
 するとその部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「あっ、ティレックスお願い!」
 ユーシェリアはそう言うとティレックスは部屋の扉を開けようとした――
「誰だよ、こんな時間に――」
 するとなんと、そこには和装を思いっきり着崩し、ド派手な花魁姿の遊女が入ってきた!
「うふふふふっ、ここにいるのかい? 健全でドヘンタイなティレックスっていう男がいるのは?」
 そう言われてティレックスは項垂れていた。
「あのなぁ……リリアさんだろ……」
 そう言われるとその女は舌を出し、可愛げに悪びれた様子で答えた。
「エヘヘヘヘ♪ さすがは健全なティレックス君ね! 大正解!  この豊満なバストでセクシーでナイスバディな筐体の美女は美人のリリアおねーさんに間違いないだなんて!  おねーさんも嬉しいな♪」
 違うわ! 誰がんなこと言うか!  ティレックスは怒りながらそう言っているがユーシェリアも楽しそうだった。
「あっははは! でも流石はお姉様ね! そんな花魁姿も様になっているなんて!  確かにティレックスの言うとおり、大きな胸も映えてて身体も脚も綺麗でとってもセクシーでナイスバディな美人のおねーさん!」
 だからそんなこと一言も言ってないってば……ティレックスは項垂れていた。
 確かに肩は大きく露出し、胸元も大きく開けており、美脚もちらりと披露するそのスタイル、男目を引きそうである。 その格好に対してユーシェリアが言った。
「あっ、もしかしてその格好がカスミちゃんのお姉さんのスタイル?」
 髪の色も紫の光沢が強いその色と、かなり寄せているようだった。 するとリリアリスの脇に潜んでいたカスミが言った。
「そう。リリアお姉ちゃん、オウカお姉ちゃんに顔そっくり。 だから服寄せるとほぼ本人、ワンチャン生き写し」
 そう言われてリリアリスは照れていた。
「まあ……私がまさかの高名な剣姫・桜花様の生き写しだなんて……嬉しいわね!」
「ワンチャン剣姫・佳乃様」
「えっ、”夜姫”のお母様!? ヤダ……どーしましょ、まさに稀代の魔女様じゃないのよ♪」
 何言ってんだ、ティレックスは呆れていた。 するとリリアリスは扇を取り出した、その扇は――
「これはカスミんのお母様の扇なんですって! その名も”玉の輿”♪  せっかく直したんだから、どこかで試し切りをしてみたいと思ってね♪」
 と、なんだかノリノリだった。てか、試し切りって――明日にしろよ、ティレックスはそう思った、すると――
「はいユーシィ♪ どうせ試し切りするんだからあなたが試したほうがいいわよねぇ♪」
 えっ、ユーシェリアは戸惑っていた、私がするの?
「いいから持って見て♪ そしたらわかるわよぉん♪」
 そう言われてユーシェリアは恐る恐る持ってみると、なんといきなりユーシェリアが――
「えっ!?」
 ユーシェリアの身体が急に光に包まれていた!
「なっ!? ユーシィ!?」
 ティレックスは焦っていた。すると――
「わあ、びっくりしたー」
 なっ、なんと! ユーシェリアの服装はリリアリスと同じようなセクシーな花魁のような遊女姿へと変貌していた!
「なっ、ユーシィ!? 一体――」
 するとユーシェリアは自分の姿を見てとても驚いていた。
「わーお♪ 私って大胆♪」
 いや、じゃなくて……なんで他人事なんだよ……ティレックスは呆れていた。 そしてユーシェリアは何かに気が付いた。
「わっ、すごい! この”玉の輿”の妖気! これがこの扇の力なんだね!」
 カスミは頷いた。
「試し切りしてみる、この男相手に」
 は!? 俺を切るって!? ティレックスは驚き、身構えていた。だが――
「うふふっ、ティレックスったら遅いわよ♪」
 ユーシェリアは巧みに”玉の輿”を操ると、その場にユーシェリアの妖気が漂う――
「うっ、こっ、これは――」
「さあティレックス♪ 私に抱かれてお眠りなさいな♪ うっふぅん♥」
 うっ、ううっ……ティレックスはそのまま倒れるように眠り込んだ。
「すっごい威力……これが”玉の輿”の力――」
 ユーシェリアはそう言いながらリリアリスに扇を手渡した。 そしてリリアリスはカスミにそれを返した。 なお、服装はただの変身術によるものであり、この扇の力とは無関係である。 扇のほうにリリアリスが変身術の力を仕掛けておいたようで、ユーシェリアがそれを受け取ることで反応したようである。 いや、むしろそれがどういう力なのよ。
「お姉ちゃんすごい、お母さんの扇も直してくれた。切れ味も抜群」
 カスミは嬉しそうにそう言った。 お母さんの扇は力が失われつつあっただけで力を入れなおしただけのようだがティレックスは犠牲となったのだ……。
 カスミはさらに続けた。
「健全なティレックス、今多分ユーシェリアに怪しからんことしてる夢見てる、健全が健全たる所以」
 ユーシェリアは少し恥ずかしそうに言った。
「やだ♪ 健全なティレックスのエッチ♪ ヘンタイ♪ ……本当にそんなことしているのかな?」
 リリアリスは得意げに言った。
「後でシエーナに訊いたら全部教えてくれるハズよ。」
 ティレックス、大ピンチ!
「さーてと、そうと決まったらカスミんは早く寝ましょうねー♪」
 と、リリアリス……いや、オウカだかヨシノだか、 どちらかに扮したその女はカスミを抱え上げると、その場を去っていった。そしてカスミも――
「ふわぁい! お姉ちゃん♪」
 楽しそうだった。
「私も”夜姫のヨシノ”様の御身に抱かれて眠りたぁい♪」
 ユーシェリアも一緒にその場を飛び出すと2人についていった。 もちろん、ティレックスは幸せに包まれながら一人置き去りである。