エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第4部 女剣士の憂鬱 第7章 憂い

第109節 私はカスミ

 カスミは”八雲山”の山頂へとやってきた。 山頂にはお堂があり、カスミは中へと入った。ここが”死出の祠”と呼ばれるものらしい。
「何もない――」
 お堂の中には何もなく、ただ無の空間がそこに広がっているだけだった。 しかしお堂から出てくると――
「ん? そこにいるの誰?」
 人影を察したカスミ、そっちのほうへと向かっていった。 するとその人影は再び姿を現し――再び姿を消した。
「待って!」
 カスミはそっちのほうへと慌てて走っていった。 どこに行ったのだろう、見失っていると今度は小さな祠が――
 カスミは祠の前に立つと、そこには閂のようなもので封がされていた。 しかしその閂、何かの魔力でしっかりと封じられていた。ところが――
「この魔力、まさか!」
 カスミは自分の刀を抜くとその閂を叩き切った! そしてその中には――

 カスミは山から戻って来た。
「おおカスミ、どうした、何もなかったじゃろ?」
 するとカスミは長老の目の前に何かを差し出した。それに対して長老は驚いていた。
「これはまさか! ヨシノの扇では!? そうか、隠されていたのか――」
 カスミは頷くと手紙を差し出した。手紙は2通あった。
 1つ目の手紙はヨシノ、カスミの母からの手紙である。 オウカが生まれたと同時にあの場所に扇を封じたことが書かれていた。 カンのいい自分の娘のことだからもしかしたら見つけるかもと思ってあそこに封じたらしい。
 だが、それは既にオウカが見つけており、2通目の手紙はオウカからのものだった。 自分が一旦封を破ったのだが、自分の魔力で改めて封じたことが書かれていた。 あれを受け取るべきは自分じゃなくカスミだということが書かれていた。
「ソード・マスターとしてより素質があるのは自分ではなく妹のカスミ、 そしてカスミはずっと泣いておったから、母の形見はお前に託したかったのだろうな――」
 長老はそう言うとカスミは決心した。
「私、もう泣かない。 でも、長老死んだとき、たくさん泣く。 長老の生きた証残したいから――」
 こんないたいけな子が――長老はとても嬉しかった。
「いやいやいや、そんな、無理に泣くことはないんだぞ、 儂はただのつなぐもの、それに――儂が死んだときは、出来れば笑って送り出してほしいものだな――」
 そしてその1週間後、長老は静かに息を引き取った。 カスミは言われた通り笑顔で長老を見送ることにした、長老、ありがとう、と。

 そして、運命の仕事が――
「何? また随分と珍しい仕事が舞い込んできたもんだな、どういうことだ?  ここ1,000年近くはそんなことなかったのではないか?」
 狛犬が――いや、今や彼は新しい長老だ、新長老がそれに反応した。
「それはわからんがぜひとも力を借りたい。それに――大至急、考えてほしい――」
 新長老は慌てて話した。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! そんな人材、こっちにはいないぞ!」
 そいつは別の幻界からのお達しであり、以前断った相手と同じ者だった。 するとそいつは考えながら話した。
「今回の依頼は以前の話とはまるで違う内容だからそこは安心してほしい。 それに召喚主の話だが……能力は高いがそれにしては随分と幼い能力だ。 つまりは幼い者が行使しているのだろう――」

 新長老はカスミの元へとやってきた。
「ということだ。確かに年齢的には随分と年下、 それこそカスミの見た目相応ぐらいには幼いらしい。 さらに調べたところ、召喚場所からすると古来から”護衛召喚”の儀をやっていた王国からだということもわかった。 最近久しくやっていなかったと聞いたがどういうことなんだろうな――」
 あくまで幼い者が儀式的なものを行使しているに過ぎないためすぐに戦いに行けとか、 そういう仕事ではない可能性が高いことを伝えた新長老。 確かに幼い者が儀式的なものを実行しているだけなら、 言ってしまえば試しにただ召喚してみただけという可能性が高い。
 さらに新長老は話した。
「これは休暇と思って望んでくれればいい。 お前には幼き時よりいろいろとありすぎたからな、流石の俺にも目に余る出来事だった。 だから落ち着いた場所でゆっくりと力をつけ、そして”真の一人前”になって帰ってくればそれでいいだろう。 カスミはいつも精神が安定していない、”現身の珠”が出来ないぐらいにな。 だから、それができるように立派になって帰ってきてくれればいいってことだ」

 そしてクラウディアス城内の某所にて――
「エミーリア様! 大丈夫でしょうか!?」
 エミーリアはその場で立ち崩れていた。 それをおつきの者たちが慌てて駆け寄り、心配していた。
「うっ、ううっ――」
「やはり、無理があったのでしょうか――」
 すると彼女らが目前していた魔法陣から反応が――
「ん? これはまさか――」
 魔法陣の中央から激しく荒ぶっている桜吹雪が舞い、周囲を引き裂くかのように無数の剣閃が――
「なっ、なんですかこれは! 一体、何が呼び出されたというのです!?」
 おつきの者が驚きながらそう言うと、やがて魔法陣は落ち着きを取り戻し、 その魔法陣の中央からは和装の小さな女の子が――
 そしてその女の子は目を見開くと、目の前で力尽きて項垂れているエミーリアのそばに駆け寄った。
「大丈夫?」
 エミーリアはその声に反応した。
「だっ、大丈夫……だけど、あなた――」
 するとその女の子はエミーリアをしっかりと抱きしめ―― 当時はその女の子よりも小さいエミーリアに向かって言った。
「私はカスミ、剣姫・霞。あなたの声に応じて呼ばれた幻獣。よろしく」
 それに対してエミーリアは嬉しそうに答えた。
「幻獣! あなたが!? 嬉しい! カワイイ幻獣さんでよかった!」
 えっ、カスミは驚いていた。
「だって、いきなりこわーいドラゴンさんとかが出てきたら嫌だなーって思ってたんだ――」
 それは――その気持ちはわからなくもなかったカスミだった。