しかしそんなカスミだが、彼女は一応幻獣としての能力については申し分なく、いつの間にか頭角を現すようになっていた。
精神が不安定なりにも召喚獣としては一定の能力を備えていた。
「剣の業はすべて申し分なし――はっきり言ってしまうと私なんかよりも比べ物にならないほどの業の使い手よね。
剣を携えたときの気迫なんかも私なんかとはダンチの差だけど――」
オウカはそう考えていた。
カスミと一緒に現地戦闘していた時のこと、幻獣たちが労い、酒を飲み交わしていた時のことである。
「にしてもカスミちゃん、随分と強くなったよなあ?」
カスミはただ黙って頷いているだけだった。
「でもなあ、全然大きくならねえんだよなぁ――」
カスミは頷いた。
「私、これで十分。敵の攻撃よくかわせる、殺す分、差し障りない」
一人前とはいえまだ修行中の身、それでもカスミの業についてはベテラン勢でも舌を巻くほどのものだったようだ。
「流石は大親方様の子だよなあ、こりゃあ将来が楽しみだなあ?」
と、そう言いながら酒瓶を出したが、カスミはただ黙ってそれをじっと見つめているだけだった。そこへ――
「ちょっと! カスミにはまだ早いって言ってるでしょ! 私に寄越しなさい!」
オウカは酒瓶をひったくると、それを自分のコップに注いでいた。
「うふふふふっ、いっただきまーす♪」
と、オウカはそれを一気に飲み干していた。
「うーん♪ おいし♥」
オウカはご満悦だった。するとほかの幻獣が――
「いいねぇオウカちゃん、いい飲みっぷりだなァ!
なあオウカちゃん! 俺にお酌してくれよ!」
俺も俺も! 男たちが彼女に集ってきた。だが――
「じゃかしいわ! テメーラでやれや!
言っとくけどイケメン以外はお断りじゃあ!
そうじゃなければ金積めや! このボンクラ共が!」
と、オウカはブチギレていた。
「おっ、オウカちゃん……やっぱりたまらんなァ……」
「怒ったオウカちゃんもたまんねぇ……」
超ウゼー! ドM男共にオウカは呆れていた。
「私、もう帰る! 行こ、カスミ!」
オウカはそう言って立ち上がると、カスミは頷き、オウカの手を握った。
「そっ、そんな! 待ってくれやオウカちゃん!」
「うるせえ! アタシに話しかけんじゃねえ! しばくぞ!」
そのまま岐路についた2人。
「お姉ちゃん、ご飯できた――」
カスミは幼子よろしく彼女の袖を引っ張りながらそう言った。
彼女は頭を抱えながら起き上がった。
「あっ、ごめんねカスミ……
ちょっと疲れちゃったからいつの間にか寝込んでいたわね――」
すると、彼女の目の前には豪華なお膳が――
「うわっ! オイシソー♪
って、あれ? 今日は使用人たちいないハズじゃあ……
ってことはつまり――カスミってすごいわよね! だんだん女子力高くなっていくってカンジ?」
そう言われたカスミはにっこりしていた。
「このぐらい余裕」
とまあ、そんなこんなで毎日楽しく過ごしていた。
カスミがどんどん成長していくにつれ、彼女は様々な経験をし、
それこそ恋もしたりといろいろである。
だが、彼女のその幼い見た目だけは変わることがなかった。
「いいわねカスミったら、女子してるって感じよね――」
オウカは嬉しそうにカスミの話を聞いていた。
「お姉ちゃんは?」
オウカは面倒くさそうに答えた。
「私はねえ……まあ、今となっちゃ昔の話だし。
そろそろ跡継ぎの為に相手も決めないといけないのはわかっているんだけど――
つっても私もまだ1,000年しか生きてないし、お母さんみたく隠居するのはまだ早いかなーって……」
するとオウカはニヤっとしていた。
「それよりもカスミのほうが先に相手が決まるんじゃないかしら?
特にあの爽やかイケメンとかいいんじゃない?
お誂え向きに婿養子としてはピッタリすぎる逸材みたいじゃないのよ、
印付けるんだったら早いほうがいいわよ?」
カスミは困惑していた。
確かに優しいイケメンであることからも、カスミはその人には密かに思いをはせていたのは事実だが。
そして――
「なんだか厄介な話ね、同胞たちが次々と殺されているって?
現地に行ったって話は聞かないけど単なる召喚とは違うって言うの?」
オウカはそう言った、相手はいつもの狛犬である。
一口に召喚するとは言っても精神だけ出張して一時的に業を放つ方法もあれば、
実際に現場に赴いて業を放つ方法もあるようだ。
無論、実際に現場に行ったほうが効力は高いが、召喚手が相応の使い手でなければそれをこなすことは難しい。
当然、精神だけの出張だとしても実体に与える影響はありうるためリスクは相応にあるわけだが、
実際に現場に赴くことのほうがリスクが大きいことは言うまでもない。
だが、今回はリスクが低いほうのそれで幻獣たちが次々とやられているという。
「召喚方法についてはこれまでとは何ら変わらん。
確かなことは特定の世界で呼び出された場合にそれが起きているということ。
例の”出口”がはっきりしている世界だ。
だからまさか罠じゃないだろうなって声もあるようだがそう言うわけでもないらしい。
というのも、召喚手もろとも殺されているというからな――」
つまりは敵がそれほど強いということか、オウカは考えた。
「もう一つ気になるんだけど、”出口”あるクセして割と需要が少ない世界よね、そこって。なんか知ってる?」
狛犬は答えた。
「いや、なんにも。
一つ言えるとしたらあの世界では異世界間移動ってのを実現しようとしていたって誰かが聞いたことあるみたいだぞ。
”出口”をわざわざ構えている世界だからな、異世界の存在を意識しているわけだ。
ま、言えることとしてはせいぜいそのぐらいかな。
もっとも、その誰かってのは既にやられたヤツの中にいるみたいだが――」
そう言われてオウカは悩んでいた。
「いいわ、その話、次は私が引き受けるわ。
実体召喚だからスタンバイしていればいいのよね?」
狛犬は頷いた。
「おし、話は決まったようだな、頼んだぞ――」