エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第3部 堕ちた天使の心 第6章 エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ

第89節 妖魔の要素

 ヒュウガたちは今度はフロレンティーナを置いてリリアリスと一緒にプレイ・ルームで話をしていた。
「なるほど、女性陣とその下僕たちは先に突入させたと、そういうワケね。」
「問題あったか?」
「うん、ない。ていうか、結局何しても同じだと思うから、 あとは現地の人間がどうするかという判断に委ねるしかないのが正直なところ。」
 ヒュウガは頭をかいていた。
「なんだか珍しいな、何も考えてないとは」
「まあね、今回は急すぎたから、アンタとお母様とユーシィに全面的にお願いすることにしたワケよ。」
 そう言われてヒュウガはユーシェリアのことを思い出し、リリアリスに疑問をぶつけた。
「ところでユーシィに何故アレを教えることになったんだ?」
 何の話だろうか、リリアリスはそう思っているとすぐに気が付いた。
「ああ、ユーシィの乙女心よ、忘れたの?」
 忘れたのって……あ、そう言えば思い出したヒュウガ。
「そうだそうだ、いろいろありすぎて忘れてたな、ティレックスの件か。 でも、だからってあそこまでやんなくたって……この前ユーシィの健康診断でものすごいデータが出てきたぞ。 そのデータだけは見ていいって許可得ているから見られるぞ」
 そう言われてリリアリスはそのデータを見せてもらった。
「あーこれね、確かにこれじゃあ彼女、改造ラミアになっちゃうわねぇ……」
「マズイんじゃないのかソレ?」
「ん? ううん、別にマズくはないと思う。というのもあの子、元々そういう素質があるのよ。 前回の診断の結果も見るとわかるけど、ラミアとしての下地だけはそろっていて、肝心の妖魔値が足りていないだけ。」
 妖魔値……また、随分と安直なネーミングだな。とはいえ、とりあえずヒュウガは改めて訊いた。
「普通の女性とプリズム族の女性とで何が違うのかなって、それで調べることにしたのよ。 妖魔の血と身体の作りが違うって言うのは当然だけれども、 それによってどんな違いが出るだろうって科学的に調べると何か発見があると思ってさ。」
 ほう、科学的に――ヒュウガは身を乗り出していた。
「それで妖魔値ってのに違いが出たと、そういうことか?」
 リリアリスは頷いた。
「未知の物質なのかそもそもの人体を構成する物質上必要なのか、 それはわからないから便宜的に妖魔値って私が考えた名前で便宜的に表現しているだけなんだけど。 要はその妖魔値の基準を示すような物質が普通の女性とプリズム族の女性とでどのぐらいの差分があるのかを調べてみようってことなのよ。」
 リリアリスはデータを出して話を続けた。
「ちなみにその構成物質にはほかにもいろいろあるハズなんだけども、この値だけが特別突き抜けていることだけは確かだった。 まあ、具体例は後で示すとして、いろいろと調べてみると意外と面白いデータが取れるかもしれないのよね。」
 と、リリアリスは何やら検査キットを出しながら言った。
「ん、何を調べるつもりだ?」
「女性は何人かサンプルとってみたんだけど、男のデータはあまりとってなくてね。 で、せっかくだからとってみようかと思ってさ♪」
 マジかよ……ヒュウガは悩んでいた。

 ヒュウガは検査キットを手に取った。
「なんでもいいが、その、妖魔値だったか? どうやって取ったんだ?  どんな物質を使ってふるい分けできたのかがちょっと不安だな」
 リリアリスは答えた。
「純粋に体液からでも取れるわよ。 血液採取なら確実性が高いけど、それでもよければ――」
 するとヒュウガは躊躇なく注射器をとった、手慣れている――
「採取法はスタンダードなやり方なんだな、だったら安心だ。てか、そんぐらいなら自分でやるか」
 するとリリアリスは――
「ディア様のは私が採って差し上げるからこっちにいらっしゃいな♪」
 はっ!? 私も!? ディスティアは驚いていた。
「ほーら、お姉さんが優しくしてあげるからさ♪」
 リリアリスは楽しそうにしているが、ディスティアにとっては例によって例によるので、ここは逆らわないことにした。
「お手柔らかにお願いしますよ――」
 ヒュウガは腕を抑えて止血しながら言った。
「一応確認だが、体液でもいいってことか?」
「確実性はともかく、そういうことね。」
 リリアリスはディスティアに注射をしながら答えた。
「はーい♪ 巨乳のお姉さんがちゃんとしてあげるからねー♪  頑張ったら巨乳のお姉さんが後でいい子いい子してあげるからねー♪」
 逆らったらこの前みたいにまたひどい目に遭う……ディスティアは話を合わせることにした。
「そっ、それは楽しみです――」
 その話を聞いていたヒュウガ、よっぽどひどい目に遭ったんだなと思っていた。 とはいえ、リリアリスとしては何の気なしにネタのつもりで言っている可能性が高いのだが。

 ディスティアは何か布切れを2枚持ってきた。
「ティレックスさんとスレアさんの汗ですが、そういえばプレイルームで血も流していましたね。 どっちがどっちのだかわかりませんが、お互い種族が違うのでそれで判断できますよね?」
 リリアリスは頷いた。
「血があるだなんて好都合ね。 ま、それならそれで、この際だからその点はその線で考えましょ。いいわね?」
 ヒュウガはなにやら作業をしながら答えた。
「それはこっちのセリフだ。 まあいい、わかってんなら十分だ、そこまで言及してたらキリがないしな。 どっちかの血であることが確実なら、それに従ってどっちの種族の血なのかを調べて識別すれば十分だろう」
 ヒュウガはさらにリリアリスに訊いた。
「なんでもいいんだが、その妖魔値ってのはどうやったら検出できる?」
 すると、リリアリスは自分の血液を採取していた。
「これを使うのよ、プリズム族の血をね。 これをエンチャント溶液でちょいと加工して出来た試薬を使ってあぶりだすのよ。 ただ、検出できなくなる物質もあるから、今言ったように、 どっちの血液かわからないという場合はサンプルを分けたほうがいいわね。」
 なるほど、ヒュウガは頷いた。
「OK。じゃあとりあえず、サンプルを分けて用意する。 俺は種族をあぶりだしとく」