エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第3部 堕ちた天使の心 第6章 エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ

第84節 服

 なんとか善戦しているが持ちこたえられそうにない。そう、敵の数が多すぎるのである。
「殺せ殺せ殺せ! 皆殺しだ!」
 なんだかキャロリーヌは怒り狂っていた。それもそのはず――
「なんか下僕をがっつりとやられてお怒りモードだな、俺らってそんなにひどいことをしたか?」
 と、ティレックス。それに対してスレアは、
「きっとそうなんだろうな。 だが、流石にキャロリーヌ様の従順なる下僕っていうだけあってしっかりとどめ刺さないといくらでも襲ってくる一方で、 そうでないやつはいくらでも這い上がってくる。それでだいぶ殺っちまってるから気に入らないんだろうよ」
 さしづめ、ゾンビである。
「げっ、つまりはまだやんのかよ――」
 ティレックスは目の前の光景を見て愕然としていた。ドレスと踏み台が這い上がってきていた……。
 そう、ティレックスとスレアはあの2人を降していた。 恐らく、誘惑状態だと僅かな抵抗心が働いているのか本領を発揮できないという枷があるらしく、 そのおかげで割と善戦していたのだが、逆にしぶといという能力が身についてしまったということらしい。
「大丈夫、俺はもともと覚悟していた。 だって、イールだぞ? あいつ、一番ゾンビに近いやつだからな」
 それは……。
「そうか、何とかは死ななきゃ治らないってか。 だったらやってやるよ、いくらでも相手してやるぜ!」
 ティレックスは少々ムキになっていた。

 そして、お怒りモードのキャロリーヌに対してシオラが――
「なっ!? シオりん、貴様ァ!」
 とうとうキャロリーヌに傷を負わせた!
「キャロリーヌ! とうとう追い詰めたわよ! これでも食らいなさい!」
 するとシオラ、目の前で炎魔法を発してキャロリーヌの顔を吹き飛ばそうとした! だが――
「甘いわよシオりん! その程度でアタシを倒せると思ったら大間違いね!」
 キャロリーヌはなんとか巧みに攻撃をかわしている。
「当然! こんな小手先の攻撃で倒せるなんて思ってない! まだまだこれからよ、覚悟なさい!」
 シオラはさらに立て続けにキャロリーヌを攻めていった。
「ちっ、このアマ! かくなる上は――」
 するとキャロリーヌ、魔法を発動して周囲に何人かの下僕を集めた!
「エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様ァ! この日を心よりお待ちいたしておりましたァ!  さあ、我々一同、エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌの麗しき美しき素晴らしい御身を包む布としてお使いください!  デヘヘヘヘヘヘ……」
 と、代表してドレスがそう言うと――
「ウフフッ、そうするわねぇ……」
 すると周囲にいた下僕たちの姿はどこかへと消え失せてしまった――
「えっ!?」
 そしてキャロリーヌはコロンを脱ぎ去ると、なんと彼女はとてもセクシーでゴージャスな服装に身を包んでいた!
「ウフフッ、その通り、私の身を包んでいるのは全部オトコよぉん♪  しかも布一枚ずつが全部オトコなのよぉん♥ 羨ましいでしょぉん♪  だからひょっとしたら……あなたの知り合いのオトコもこの中にいるかもしれないわねぇ!  もしかしてアタシの胸を包んでくれているのかしら? それとも……お尻かしらん? ……フフッ」
 こいつっ! シオラは再び剣を握りしめて再び立ち向かった!
「私は、私はあきらめないっ!」

 それでも下僕の数が多すぎてなかなか応えない。もはやじり貧状態である。
「なんか、あの服全部男なんだそうだが――あれにフォームチェンジして以来、 面倒なドレスも踏み台もいなくなった分だけものすごい魔力が飛び交っている気がするな――」
 ティレックスは攻撃をよけながらそう言った。
「男かどうかについてはともかく、生の生物を身にまとっているってことはその生物の魔力をも利用しているってわけか、 単に男を身にまとって自己満足というだけではなさそうだ」
 スレアがそう言うとティレックスは頷いた。
「てことはつまり、あれがロサピアーナ軍の生物兵器の正体ってことか、 あいつらをドレスとか踏み台とか、そういう扱いをしているのはただのネタでもないみたいだな」
 つまりは酷くてヤバイを通り越して究極的に酷くてヤバイということだそうだ。
「つまり、イールはあまり魔力が無いから踏み台にされているのか」
「どうだろうか、クラフォードもそこまで魔力があるようには思えないのだが――まあ、 言ってもそこそこに持っていれば十分っていうことでもあるかも知んないけどな、 事実、多数の男を身にまとっている、むしろ何でもいいのかもしれないが、 だったら自分の好みで男を選別しているだけなのかもしれないな」
 と、話をしている間にさらに下僕たちが流入してきた!
「やばいな、このままだと本当にこっちが持たないな。 ララーナさんもよくやるよ、俺が相手していたやつ、ほとんど肩代わりしてくれているからな」
「俺の分もな、まさにあれぞ”ネームレス”って感じだ」
 ララーナの戦い方、相手が男ばかりということを見越してか、誘惑魔法を使いながら戦いを展開していた。
「でも、ほぼほぼキャロリーヌの下僕じゃないのか? そんな連中に誘惑魔法なんて効くのだろうか?」
 ティレックスがそう言うとスレアが答えた。
「全く効いていないわけでもなさそうだ。 見てみろ、ララーナさんに近づいた男から順番に攻撃を躊躇ってる、スキが生まれているんだ。 だから結果はどうであれ、少なくとも効果はあるらしい」
 本当につくづく便利な能力だな……ティレックスはそう思った。

 するとその時、建物の下層の方から激しい音が聞こえてきた!
「ん、なんか下の方で戦っている感じじゃないか?」
 激しい音は金属音、剣と剣がぶつかり合っているような音と銃撃の音だった。 スレアがそう言うとティレックスも反応した。
「まさか、援軍か? 音がなんか近くなってきているな、ここに来るかもしれないぞ」
 すると――
「覚悟なさーい!」
 階段の下の方から女性が一人、大きな剣をふるって敵を次々と蹴散らしていった!
「なんだあの人は!」
 ティレックスは圧倒されていたが、スレアはよそに目をやると、
「おい、もう一人いるぞ――」
 もう一人いることに気が付いたが、その人はどこからどう見ても――
「おい! まさかあの人ってクラウディアスで休んでいるハズの人!」
 えっ、まさかそれって――
「ふふっ、私に挑んでくるだなんて1,000年早いですから!」
 まさかリリアリス!? いや、アリエーラさん!? って、なんかどちらとも印象が違うような――でもどちらにも似てるような……

 2人の女性は階段を登りきると周囲を見渡していた、するとそこへ――
「俺が話を聞いてくる、状況的に恐らく仲間でいいと思う」
 ティレックスはそう言うとスレアは敵のほうに突入していった。
「ああ、頼んだぜ――」
 そしてティレックスは2人の女性の元へと駆け寄っていった。
「あなた方は一体?」
 するともう片方の女性はすぐさま敵の方へと接近し、敵を次々と蹴散らしていった。
「行っちゃった……」
 ティレックスは唖然としていると、もう片方のリリア……いや、アリ……いや、両方似の女性が話をした。 服装はゆったりとしたワンピースなので印象的にはリリアリスそのものなのだが――
「や! なんかずいぶんと苦戦しているみたいですね!  どうしましょう、手伝った方がいいですか? それともかっこいいところ見せてやるから俺についてこいってクチですか!?」
 なんだか物腰はずいぶんとていねいで第一印象も魅力的な美女そのものというお方だが、 話の内容はずいぶんと土足……まるでリリアリスのような性格のアリエーラさんと話をしているような感じ、 つまり見た目そのままの印象の人と話しているようでその点についてはさほど違和感はなかった。 とはいえ、その2人が合体した印象の人というのがむしろ変な感じなのだが。
 するとそこへ――
「うらぁ! エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の邪魔をするものは皆殺しだあ!」
 大男が斧を振りかぶってその女性の背後から襲い掛かってきた!
「なっ!? しまった!」
 ティレックスは油断していた、だが――
「うるさいですよー? 人がお話している最中にそういうオイタはいけませんよ。黙ってその場でおねんねしていましょうねー♪」
 すると彼女は腰の剣を取り出すと、勢いよく男の胴体を切り上げ、それと同時に雷光が敵を貫いた!
「えっ……」
 そして男は絶命、女はティレックスの方を振り返るとにっこりとしていた。その表情、まるでアリエーラさんのようである。
「ふふっ、こんなどこの馬の骨とも知らない雑魚にやられる私ではありません♪  だから安心してくださいね♪」
 何この人――綺麗な顔して言ってることが妙にエグい。そのあたり、やっぱりリリアリスを思わせる。
「もしかして、リリアさんですか?」
 ティレックスは意を決して訊くと彼女は答えた。
「りりあさん? 誰ですか? 私はルルーナと申します! よろしくお願いいたしますね♪」
 ルルーナ……彼女は可愛らしいしぐさでそう答えた。 名前の感じからすると恐らくプリズム族である印象を受けるのだが、 それでもやっぱりリリアリス同様の”残念な美女”臭が漂ってきたティレックスだった。
「うふふっ、そんなことよりも早いところ敵を倒してしまいましょうね、ティレックスさん!」
 ん、なんで俺の名前を知ってるんだこの人は――ティレックスはそう思った。 彼女はそう言うと敵を次々と蹴散らしていった、しかも――
「あれは誘惑魔法? やっぱりプリズム族か何かってところか――」
 敵はララーナを相手にしたとき同様に彼女を攻撃するのを躊躇っているようだ。