エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第3部 堕ちた天使の心 第6章 エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ

第83節 隷

 そして最初に女性陣が連れてこられたあの部屋の目前、施設の4階へと通ずる階段の目の前へとたどり着いた。
「洞窟を通ってきたはずなのにいつの間にか建物の中だな、どこらへんだここは……」
 スレアはそう言うとティレックスが言った。
「ロサピアーナ側ではあくまでスプリッチア研究所って言われているらしいけどな」
 ヒュウガ情報。だからといってそれが何というような情報でしかないが。 だが少なくとも、ロサピアーナの施設であることは確かである。
「でも、そういえば今更ですが、そのヒュウガさんとディスティアさんがいないみたいですが……」
 ララーナが言うとスレアが呆れ気味に言った。
「なーんか策があるらしい、よくわからんが。 それで俺らに先にここに行っててくれって頼んできたのはいいが、一体何をするつもりなのやら――」
 そしてティレックスは階段を上り始めるとスレアが言った。
「それにしてもプリズム族の能力を悪用とかなかなかひどいもんだな。 エレイアさんにフラウディアとフローラさん、そしてプリシラさ……いや、あれはそもそも茶番だったか。 とにかくプリズム族がひっそりと暮らしている気持ちもよくわかるよな」
 それに対してララーナがにっこりていた。
「お察しいただきましてありがとうございます。 本当はそんなことを気にせずにのびのびと暮らせるような環境があればいいのですけどね、 それでも身の内に宿る魔性をコントロールするすべを持つのは一部の者しかおらず、 そして常にずっとコントロールし続けるのは容易なことではありません」
「でも、ララーナさんはずっとコントロールし続けているんだよな?」
 スレアはそう聞き返した。
「ええ、外に出てお使いをするという都合、番人クラスになればこの程度は造作もない事です。 ましてや長になる者は番人より選ばれるという慣習的に長自身も例外ではありません」
 ん、待てよ――スレアは少し考えた。
「あれ、じゃあフラウディアの場合はどうなんだ?」
 ララーナは再びにっこりとしていた。
「フラウディアの持つ魔性はスレアさん、あなたが吸い取っているではないですか。 本当はフラウディアにその訓練をさせることを考えていたのですが、あなたがいることで彼女の精神は保たれています。 彼女が魔性を解放しているときはあなたがそれを受け入れていますので、訓練は必要ないと思っていますね」
 なんか聞かない方がよかった気がする――スレアはいいんだか悪いんだが、複雑な気分になっていた。
「スレア、どうかしたの?」
 いきなりフラウディアにそう呼ばれ、スレアはとても焦った。
「いや、別に……それよりもだ、終わったら一緒にどこかに出かけようぜ」
「ウン! スレア♪ どこに行くのか楽しみー♪」
 しかし、ヒュウガがそっと言った。
「なあ、当然訓練させているよな。 ま、スレアに伝える分にはあれが正解だと思うんだが――」
 ララーナは頷いた。
「もちろんです、彼女にはそれをマスターさせてからラブリズを出発させています」
「本当に、男児を獲得するためなら言葉をも操るってわけか、たくましいことで――」
「お褒めにあずかり、光栄にございますわ――」
「いやいや、褒めてねぇし」

 再びキャロリーヌの御前にて。キャロリーヌ様はなんだかセクシーな様相で待ち構えていた。
「あーら、せっかく捕まえたのに出てきちゃったってワケ、大人しくしていれば幸せになれたものを――」
 対し、ティレックスは訴えた。
「何が幸せだ! お前が捕まえていたプリズム族の人やデュロンドの人たちは全員逃がしたからな!」
 キャロリーヌは面倒くさそうに答えた。
「うっさいわね、別の女の毒牙にかかっている男の言い分なんて聞きたくないわよ。 もっとも、別の女の言い分なんてのも聞きたくないわね」
 ずいぶんと自分勝手なやつ。
「まあいいわ、そしたら誰からも話が聞けないみたいだから聞いてあげるわよ。 で、逃がしたから何よ、また捕まえればいいだけの話でしょ?  それにアタシの隷たちはまだここにいるんだから、そんな些細なことで勝ち誇られても困るわねぇ――」
 するとキャロリーヌの足の下で踏み台になっているものがいきなり動き出した!  そして彼女自身が着ている服も動き出した! 彼女はその場でコロンを身にまとっていた。
「なっ!? なんだ!?」
 そいつらは人の姿をしている何かだった!
「おい、まさかとは思うが……」
 すると、踏み台がしゃべり始めた。
「俺は……素晴らしきエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の麗しくも美しく素晴らしい踏み台……」
 そして、服も――
「俺は……素晴らしきエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の麗しくも美しく素晴らしい御身を包み込むためのドレス……」
 そのまさかだった。
「お前ら、イールとクラフォードか!」
 スレアがそう言うと踏み台と服は怒り始めた――
「違う! 俺は素晴らしきエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の麗しくも美しく素晴らしい御み足に踏まれるために生まれてきた踏み台だ!」
「俺は素晴らしきエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の麗しくも美しく素晴らしい御身を包み込むためのドレスだ!  俺の手の部分は××で、足の部分は××! ××の部分は××! 部位ごとに素晴らしきエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の麗しくも美しく素晴らしい御身のどこを包むドレスなのか決まっているのだ!  そんな素晴らしきエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の麗しくも美しく素晴らしい御身を包み込むためのドレスである俺のことをそんな下品な呼び方をするとは断じて許すまじ!」
 なんかまたひどいことをしれっと言ってる、下品ってお前のほうが絶対的にアウトじゃんよ……
「アハハハハハ! そういうことよ! まあ、そういうわけだから、アタシの聖域を汚そうとする輩は生かしとくわけにはいかないわよねぇ――」
 すると、踏み台とドレスが前に立ちはだかった。 踏み台のほうはなんだか変に無骨な感じの服装をしているが、 それとは対照的にドレスのほうは女性の衣服を意識しているだけあってか、 上から下までスカートの時よりも増して全体的にフリフリでリボンまでついているという可愛げな格好をしていた。 さらにボトムスもやっぱり可愛げなスカート姿、まるで女子と言えばあながちそういう感じの服装で整っている。
「なんか拍子抜けするがいいだろう、相手をしてやろう。 予定通りだティレックス、お前はクラ……ドレスを何とかしてくれ。 踏み台は踏み台らしく俺が踏みつぶしてやるぜ」
 スレアがそう言うとティレックスは頷いた。
「ぬかるなよ」
 すると踏み台が怒った。
「俺は素晴らしきエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の麗しくも美しく素晴らしい御み足に踏まれるために生まれてきた踏み台だ!  貴様の様なものに踏ませはしない!」
「いいから、とっととやろうぜ」
 スレアは面倒くさそうに剣を構えていた。そしてティレックスも面倒くさそうに剣を構えた。
「にしても、ドレスと言うか、下着含めて一式って感じに聞こえたんだが、それってずいぶんとひどくないか?」
 ドレスは得意げに答えた。
「ククッ、お前は頭がいいな、まさにその通り! だが、そのように考えるとは哀れなものだな。 いいか? 素晴らしきエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の麗しくも美しく素晴らしい御身を包み込むためのドレスになることは大変名誉なことなのだ。 いやしかし――素晴らしきエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の麗しくも美しく素晴らしい御身を包み込むためのドレスであることの喜び、 俺以外にはわかるわけ……いや、わからせようとも思わないけどな! そうとも! 他の連中には味わえぬこの至高の喜び!  素晴らしきエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の麗しくも美しく素晴らしい御身を包み込むためのドレスとは俺だけの特権なのだからな!  フハハハハハハ! フハハハハハハ!」
 やめろバカ。ティレックスよ、頼むから今すぐこの18禁をぬっ殺してくれ。

 そしてさらに次々と隷たちが呼び出されると、その場はカオスな状態へと発展していった。
「急に敵が多くなったな!?」
「仕方がないさ、全部このキャロリーヌ様とやらにそそのかされた哀れな連中だ。 これまでの例のようにこの手の敵が相手だとむしろ数を攻略していくのが課題になってくるのは必然だ、 図らずも、これまでの茶番でそれを教えられたようだ」
 ティレックスとスレアが話し合っていると、その間からフラウディアとユーシェリアが出てきて敵を蹴散らしていた。
「このっ!」
「次から次へとキリがないね……」
 さらにララーナとシオラも敵を相手にしていた。
「キャロリーヌの隷のみならずロサピアーナ兵も入り乱れていますね、いけますか?」
「いけるけど……どうしてもキャロリーヌには届かないなあ……」
 そこでララーナは――
「では、私がひきつけますのでシオラさんはキャロリーヌに集中してください!」
「えっ、いいんですか?」
「どのみちこのままではじり貧ですし、それにキャロリーヌは間違いなくアレです。 いずれにせよ、彼女に直接決定打を与えられなければ制することはかないません。 ですから、やれることはたった一つ、それだけです」
 そしてシオラは息を飲むと、剣を引き抜きながら覚悟した。
「わかりました! ララーナさんもお気をつけて!」