エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第3部 堕ちた天使の心 第6章 エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ

第81節 潜入

 それからある程度時間が経ち――
「つまりはスラクダージャ研究所の入口はロサピアーナ側にもあるってわけか、ヒュウガの言った通りだったな」
 スレアがそう言うとティレックスは考えていた。
「ネット使うと行ったこともないところまでわかるのか……」
 2人は今、ロサピアーナ領に侵入していた。 ロサピアーナ領からスラクダージャに直接乗り込もうと考えており、 実際に訪れてみると研究所らしきものの入り口は単なる洞穴のようにしか見えなかったが、 それでも”如何にも”という感じだった。
「にしても……ロサピアーナに不法侵入しているのに誰も襲ってこないって妙だよな、しかもスラクダージャの入り口にいるのにだぜ?  やっぱり、マンディウどころかクラルンベル東部一帯は既にロサピアーナの手に落ちているってことでいいのか?  国境も何もあったもんじゃないな――」
「あのテミアって人の正体がキャロリーヌで、しかもそれがあのシャルロンって人だって……頭がこんがらがって来たな、何が何やらだ」
「それが狙いだろ?  いずれにせよ、少なくともあの女は曲者だってことで間違いないのは確かだ、 だったらそれ以上は気にしなくたっていいだろ?」
 まあ、それもそうなんだが。 だが、言われてみればそうやって他人の目を欺いている人物が1人いたような。 その人とは何かと共通するところがあるようだ。
 とにかくティレックスは施設内に手早く侵入し、スレアに合図をした。
「入るなら今しかない。 仲間がとらえられているというのなら早めに行こう」
 そう言われてスレアは悩みながら侵入した。
「だが、問題はクラフォードとイールアーズをどうするかだ。 事と次第によっちゃあ差し違える覚悟が必要となってくるわけだが、 よりにもよって相手はあの万人狩りと鬼人剣だからな、流石に骨が折れるな」
 ティレックスは頷いた。
「ああ、でも、やってやれなくもない相手だ、2人一度に来られるとさすがにキツイが――」
 スレアは肩を抜きつつ話した。
「確かに2対2ならなんとかやれそうだ。 特にイールの相手をするのなら俺に任せろ――」
「イールか……やれんのか?」
「あいつは攻撃全振りだからな、そこさえ攻略すれば糸口は見える。 どっかの誰かさんとは比べ物になるような腕じゃないが魔法剣士に任せてくれ。 むしろ、そうなるとお前はクラフォードが相手だぞ? 俺としてはあっちの方が面倒なんだが――」
「確かに面倒だけど、ああいう堅実タイプは堅実に相手をするのが一番だ、時間はかかるけどな。 ま、持久戦は得意なほうだから、そこは安心してくれ」
「なるほど、お互いに相手の性質とはかみ合っているようだな、なら任せた」
 果たして2人は”ネーム持ち”にどこまで対抗できるのか? もっとも、”ネーム無し”に比べれば……

 さらに2人は先に進むと地下への階段が見えてきた。
「行ってみないか?」
 スレアがそう言うとティレックスは頷いた。
「行ってみよう!」
 しかしその時、スレアがティレックスを制止した。
「待った、何か来る……」
 背後から気配を感じ、2人は素早く階段の裏の方に隠れた。 そいつらはロサピアーナ兵の2人組で、どうやら地下の方へと入っていくようだった。
「今階段を降りるとやつらに気づかれそうだな――」
 スレアがそう言うとティレックスは思い立って階段の方へと駆け寄っていった!
「えっ!? おい、どうする気だ!」
 するとティレックス、なんとロサピアーナ兵の2人の背後から強襲!
「ぐはぁ!」
「なっ、何をする……」
 そこへスレアが駆け寄ると、ティレックスに感心していた。
「やるもんだな」
「死体を運んだら服を剥がすぞ」
 ティレックスの妙案通りに事を運ぶことにした。

 ロサピアーナ兵に成りすましているティレックスとスレア、 そのまま地下へと潜りこむと、そこそこに広い空間であることを思い知らされた。
「なんだこれは、本当に研究所なのか……」
「スラクダージャ研究所、ロサピアーナ側ではこんな状態になっているんだ」
 スレアとティレックスはそれぞれそう言うと、スレアは首をかしげていた。
「だが、それにしてもよくわからないな、どうしてここまでしてスラクダージャにこだわる?」
 どういうことだ? ティレックスは訊いた。
「考えてもみろ、研究所を作るぐらいならこんなに大掛かりなことをして他国へ侵すほどの事じゃあない気がする。 それこそ、ロサピアーナほどの大国なら自国内で研究所を作りゃあいいだけの話なのに、 わざわざこんなことをしているのはスラクダージャに何かあるからだろ?」
 確かに、そう言われてみればそうだ、昔からこんな大掛かりな空洞があったというのは確かに少々考えにくい。 地下に手を伸ばすぐらいなら地上側に増設した方が安上がりだ。
「地下にこんなのがあるのはスラクダージャを狙っているため、だったらじゃあなんでスラクダージャをってことになるわけか……」
 するとその時――
「牢獄だ! やっぱり地下にあったな!  見ろよあれ、デュロンド軍の制服だぞ!」
 スレアはそう言った、デュロンドの兵隊たちがつかまっていたのである。 地下に潜ったのは捕われた者を救出するためであり、地下牢があることを見越してのことだった。
「でも、思ったより少ない気がするな」
「まあ――キャロリーヌ様とやらの毒香にかかっちまったやつがいるからだろ、 逆を言えばそうじゃないのがここに残っているってわけだ。 見ろよ、ここに閉じ込められている人間のほとんどが女性ばかりだ」
 そして、2人は牢獄をしれっと横切っていた、周囲には見張りのロサピアーナ兵もいる、今はこらえて様子を見ているしかない。 だがその時、2人はとあることに気が付いた。
「今の、間違いないよな?」
「ああ、俺も気が付いた」
 ティレックスとスレアはお互いにそう言うと改めて問題の場所へとやってきた。
「ウィーニアさん、ここにいたのか――」
 そう、彼女は柱に貼り付けになっている状態で捕らえられていたのである。
「つまり、クラルンベルに駐留していたデュロンド軍とティルア軍は壊滅してしまったってワケか……」
「壊滅というか敵のものになってしまったって感じだが」
 どうやって救おうか、それを考えていると遠くから何者かが近づいてきた!
「そうだ、隠れる必要はないんだっけか」
 ティレックスはそう言うとスレアは頷いた。
「ああ、このままやり過ごそう。 何なら有益な情報がもらえればその方がいいだろう」
 2人は互いに顔を合わせつつ頷いた。