一方――
「うーん、バイタルがおかしいな……」
ばいたる? 何のことだ? スレアはヒュウガに訊いた。
「ん? ああ、ララーナお母様のバイタルだ。
もしも私に何かあったらとか言ってたんだが、何かってどう判断すればって訊いたら――
とりあえずそれがいいって言うもんだから……その、なんだ、ちょこっと仕掛けさせてもらったんだ」
その……なんだ? スレアは追求した。
「とにかく、バイタルはバイタルだ。んで、この通り……どういうわけかピンチな状況らしい」
するとスレアは意地悪そうに言った。
「ほうほうなるほど、つまりはこういうことだな。
あのララーナさんにそのバイタルを計るためという名目で服を脱がし、彼女の裸を拝んだということか!
うまくやるじゃねえかこの変態科学者め!」
ヒュウガはブチ切れながら答えた。てか、お前もなんてこと言うんだ! やってくれたな!
ただでさえ変態スカートの件とかでどう収集つけるか悩んでいるのに!
「んなわけあるか! 確かに裸になった方がいいかとか聞かれたがそういうことは一切していない!
お前と一緒にすんな!」
しかしスレアは攻撃を続けていた。
「ほう、そんなに必死ってことはつまりは図星だってことだな。
いいじゃねえかよ別に、男だろ? ゲロっちまえよ!」
「だから! いつもフラウディアを脱がせているお前と一緒にするな!」
ティレックスはその2人から離れていた。てか、スレアめそんなうらやましいことを以下略で。
「これは関わらない方がよさそうだな、とばっちり食うのはごめんだ……」
そんなことより、3人はスラクダージャ研究所に入る前に先程のアジトをさらに調べていると、地下牢にとある人物がとらわれていることを確認した。
「面目ありません、まさかこのようなことになるなんて――」
ディスティアは鎖で縛られていた。3人によって拘束が解かれると、そんな話をしていた。
「つまりは色香にハマっているクラフォードとイールアーズによって奇襲をかけられたってわけか」
ヒュウガはそう言うとスレアが――
「それだけじゃなさそうだけどな。多分、あのテミアって女が自分の身体を感じさせるために襲ってきたと、そんな感じだろ?」
まーたこいつはそんな話ばっかり……と思ったティレックスだが、ディスティアは物おじせずに答えた。
「まさにそういうことですね、つまりはあの人こそが例のエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌに間違いないということですね。
ですが、私は簡単には絆されませんよ」
こいつ、強ぇ……何このイケメン賢者補正……男3人はそう思った。
「相手が妖魔とくればこちらもそれなりの備えをしなければなりませんからね、警戒して意識を集中させていたのですが――あとは御覧の通りです」
それに対してティレックスが言った。
「となると、キャロリーヌは女性陣と一緒ってことだな。
しかもどうやらピンチな状況になっているらしい、心配だな……」
スレアも頷いた。
「ああ、フラウディアが心配だ。それもまさか男じゃなくて女の方を狙ってくるとは。
さんざん妖魔の話をしているから、女を先に抑えて後で俺らをじっくりと回収していく……そういう可能性があるな――」
ヒュウガは頷いた。
「エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ、
設計図通りなら妖魔の血を得てさらに能力を高めるということらしい……
ん、なんか、どこかで聞いたことがあるようなないような話だな、まあそれはそうと――
ということはつまり、これは早めに行動したほうがよさそうだな」
男たちが悩んでいる中、ヒュウガは端末を見つつ、ディスティアはその隣で考えていた。
「なんだ、どうかしたか?」
ヒュウガは端末を眺めながら訊くとディスティアは答えた。
「いえ、確かに女性陣のことは心配は心配ですが、それにしてもなんだか妙ですね、
だって、ララーナさんといえば”ネームレス”ですよね? そんな方がどうして危機に瀕しているんです?」
それに対してヒュウガが答えた。
「そうなんだよな、そこは俺も引っかかってるんだよな。
というより、お母様はずっとあのシャルロンって女を怪しんでいたからな、事あるごとに俺にも相談してきたぐらいだ。
それでずいぶん前から酷く警戒しているんだが……でも、いろんな小細工するせいでなかなか尻尾をつかまさないから、
何が目的なんだろうと思って様子を見ているしかなかったんだな。
結果的にまさかの魔女狩りが目的だったようだが、こんな大胆な犯行を計画的に実行するとは……
となると、やっぱり国が……ロサピアーナが絡んでいることは確実ってところだな」
それに対してディスティアは考えた。
「でも、シャルロンさんからはその手の気配を全く感じないと言っていたような気がしますが……」
ヒュウガは端末を操作しながら答えた。モニタにはキャロリーヌが胸から外していたのに酷似しているものが……
「こいつだ、よくある魔力グッズの類だな。
身体にこういうのをまとうことで自分の能力を抑える働きがある。
まあ、こんなんで抑えられる力なんかたかが知れている……と言いたいところだが、
使い手や使い方、後は作ったやつが俺ぐらいだったら実現可能だろうな、
現にこのグッズのような力を応用してそれをやっているやつを俺は1人知っている」
ディスティアは頷いた。
「リリアリスさんですね、あの人はまさに力を抑えるプロ、
別人に成りすますためには自分の力を抑え本人であるという気配を消すことは必須で、
そのうえで変装なんかされると本当に見分けがつきません」
するとヒュウガは少しだけ考えた。
「気配を消す……別人に……そうだな、ちょっと面白いことを思いついたんだが試してみないか?」
「いいですよ、付き合います!」
ヒュウガはニヤっとしていた。
「そうと決まったらまずは船に戻る、話はそれからだ」
「了解です! 早速行きましょう!」
なんだかやたらとノリがよいディスティア、これがこの人の本性なのだろうとヒュウガはそう思った。