エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第3部 堕ちた天使の心 第6章 エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ

第77節 女帝の高笑い

 ルプラドルでの話の続き、別室へと促されたクラフォードはそのまま部屋の真ん中で立ち崩れると、 そのまま跪いていた。
 一方でシャルロンは部屋の扉のカギをかけると、跪いているクラフォードの右の肩の上に片足を乗せ、 クラフォードを見下すような眼差しで上からものを言うような高圧的な口調で話し始めた。
「さて、報告の前に――どういうつもりかしら? なんでわざわざメス豚4匹連れてきたのよ!?  しかもそのうちの1匹がよりによってなんであの女なのよ!? どういうつもり!? 家畜は要らないって言ってるでしょ!?」
 すると、クラフォードは淡々と話し始めた。
「その前に報告をば……。 まず、クラウディアスの重鎮殺しについてですが、 申し訳ございませんが失敗してしまいました!」
 と言うと、彼女は――
「な!? なんですってぇ!?」
 すると、クラフォードは慌てて話を続けた。
「し、しかし……失敗したのにはれっきとした理由がございます、訊いていただけますか!?」
 それに対し、彼女は――
「……そう、いいわ、聞かせてちょうだい。 ただし、くだらない理由でしくじったというのなら、その時は――」
「もちろんでございます、そこはご安心を。理由は家畜であるメス豚のうちの1匹―― 一番背の高い女がエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様のお求めになるイケニエの魔女だからにございます――」
 それには彼女も食いついた。
「厳密には違います――違いますが、あの女はイケニエの魔女と同じ血が流れている者―― あの魔女の妨害のせいで殺害に失敗しました、魔女の力はホンモノのように思います――」
 そう言われて考えたキャロリーヌ。
「なるほど――アンタにクラウディアスの連中を殺すように命じたはずなのに、 あの女の血がアタシの力を妨害しているってわけね。 でも――フフッ、まさか、こんな思わぬ収穫があるなんて! アンタ、やっぱりやるじゃない♪」
 そう言われたクラフォードはとても嬉しそうにしていた。
「あの女からどんどん話を聞き出しましょう、同族ですのでイケニエの魔女の行動についてはとにかく詳しいハズ―― さすれば、すべてはエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の思いのままに…… 例え天下を名乗るクラウディアスであろうと、 エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の美しさを前にして叶うものはございません――」
 すると――
「ウフフッ♪ よくやったわ♪ やっぱりあんたは超とっても高性能な下僕ねぇ♪  さあ、早速選びなさいな♪ ちゃーんと見て決めなさいな♥」
 と、楽しそうに言うキャロリーヌに対し、クラフォードは……
「スカート……」
 と、たった一言。さらに続けた。
「俺は……エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様のスカートになりたい!  エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様のスカートになるのはこの俺……いや、俺だけだ!  俺はエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様のスカートになり!  美しいエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の美貌を立たせる唯一無二の存在となるのだ!」
 それに対してキャロリーヌはニヤッとしていた。
「アハハッ! そりゃそうよねえ!  あんたは最初っからアタシのスカート狙いだったものねえ!  しかも俺だけだなんて、なんとも欲張りな下僕ねえ!  そうねぇ、確かにスカートは短いほうが可愛いしねえ!  いいわ、アタシのスカートになる者はアンタ1人だけ…… これからはエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の可愛い可愛いスカートとして生きていくことを命ずるわ――」
「はっ! 仰せのままに! 今日から俺はエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の可愛い可愛いスカートだ!」
 もう好きにしやがれこん畜生。

 そんなこんなでクラフォードはエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様のスカートとなってしまったのだった。 だが、その一方で――
「エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様ァ! 俺もスカートに!」
 と、今度はイールアーズが――
「ああそうそう! 面白い話を聞かせてあげる!  こいつはかわいそうに今まで自分の妹以外で女というものを知らなかったんですって!  だからこのアタシの素晴らしさを教えてあげたら――ウフフッたちまちこの通りなのよぉん♥」
 この女――もはやその状況はカオス状態である、もはや収拾が――
「俺もエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の御身を是非!」
「黙れこの童貞! ちょっとアタシの香りを感じた程度でいい気になるんじゃないわよ!」
 キャロリーヌはムチを取り出すと、彼はお叱りを受けていた、 いずれにしても彼の威厳はもはや面影すらなくなってしまったようだ。
「あぁっ、エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様ァ……もっと、もっと俺をしかりつけて……」
 こいつら……もう完全にダメになってる……。
「……イールさん、女王様とは一線を敷かれているということですね」
「そ、そうみたいね……」
 と、フラウディアとユーシェリアはヒソヒソとそんな話をしていた。 それはそれでまた違う意味で可哀想な話であった、つくづく女運に恵まれない彼。

 とにかく4人はキャロリーヌ様のための忠実なる下僕変態共に抑え込まれ、捕縛された。 ララーナが軽くやられている当たり、キャロリーヌにはそれだけの秘密があるということである。
「シャルロンちゃん、どうしてこんなことを――」
 シオラは1本の柱に括りつけられていた。キャロリーヌはクラフォードスカートを身に着けたままである。
「シャルロンちゃんシャルロンちゃんうるさいわね!  でも、せっかく仲良くしてくれたシオりんがそんなにアタシのことを知りたいって言うんなら特別に教えてあげてもいいわよ。 いいこと? アタシはアンタと最初に会った時には既にロサピアーナ軍の生物兵器として生かされている状態だったのよ」
 なんですって!? シオラは耳を疑った。
「アタシの本当の名はキャロライン=ミスティリュート、トリビュート作戦ってのはアタシの名前をもじって考えられたものよ。 そう、クラルンベルの男共の身も心も奪い取ってアタシの下僕にすることが目的なのよ♪」
 つまりは最初から仕組まれていたことだったというのか……
「で、でもシャルロンちゃん、一緒に学校に行ってた時は全然そんな――」
「ええ、その時はまだ生物兵器として本格的に改造が施される前の状態だったからね。 でも、シオりんと分かれてディグラッドに到着した後に命令が下されてね、 一緒に乗っている男をみんなアタシの下僕にしておけって言われたから殺ったのよ。 そのあとは下僕ごとロサピアーナ軍に回収されたわ」
 命令って……キャロリーヌは話を続けた。
「その後は無事に身体を改造されて、こうしてエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様が完成したってワケよ。 ほぉら、見てよ? 前よりもとっても色っぽいでしょぉん? うっふぅん♥」
 こんなの、こんなのシャルロンちゃんじゃない! シオラは涙を浮かべていた。
「アハハハハハ! ま、そんなわけで♪  これからこのイロオトコのスカートにたっくさんのご褒美を取らせてあげないといけないからここでお暇するわね♪」
 それをシオラは制止するかのように訴えていた。
「あの人には! クラフォードさんにはウィーニアさんって人がいるんです! だからやめて!」
 しかしキャロリーヌは……
「その男は今後アタシのスカートを名乗ることにしたんだから勝手に変な名前つけないでよ。 それに、このスカートがそんなメス豚を欲するわけないでしょ、 このスカートにとってはこのアタシこそがすべてなんだから。 ほかのメス豚なんかその辺の石ころ……そうねぇ、場合によってはアタシの美貌のイケニエにしてあげたって構わないけど?  そうねぇ……アンタもイケニエにしてあげよっか!?」
 スカートが答えた……。
「俺はスカート……。 エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の素晴らしくも美しくてセクシーな下半身を支えるスカート……。 エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様こそが俺のすべて……」
 それに対して邪悪な笑みを浮かべながらキャロリーヌは言った。
「ウフフッ、そうよ、この変態スカートが必要としているのはこのアタシだけ、 この変態スカートの興味はまさにアタシだけ! それ以外にはまったく興味がないのよん♪」
 さらに――
「アハハハハ! そうだ! こいつがなんでスカートになりたいって言っていたのか教えてあげようか!?  こいつったらいっつも跪いた時にアタシのスカートの中を覗き込んでいるのよ!?  でも、その際のコイツの顔ときたら、もうイイオトコが台無しになるほど喜んじゃっててねえ!  それからはずっとアタシのスカートになりたいスカートになりたいって!  そのためだったらどんなことでも何でもしてくれるようになったんだったっけ! アハハハハ!」
 そ、そんな――
「アハハハハ! つまりそう言うことなのよ! だからその女に教えてあげなさいよ!  その男はアタシのスカートになることを夢見ていっつもアタシの下半身をなめ回すように眺めていたことを!  そして今はこのアタシのスカートとなり、アタシの身体をずっと感じ続ける毎日を過ごすことになったって!  アタシのスカートとして乱れ乱れて崩れ行った無様な末路でも教えてあげるのがいいわね!  それを聞いた女の顔が是非見てみたいわね! アハハハハ! アハハハハハハハハハ!」
 キャロリーヌは不敵な笑みを浮かべながらその場を去っていった。
「大丈夫、私は、私はまだ諦めてないから、シャルロンちゃん――」
 こんな絶望的な状況でもシオラは希望を抱いているようだ……