リファリウスとカスミはテラスへと戻ってくるとヒュウガが端末に向かって何やらしていた。
そして、その傍らにはクッキーがいくつかおいてあり、ヒュウガがそれに手を伸ばしていた。
「ほら、食べてるし。しかもたくさん砂糖がまぶしてあるやつ。」
それに気が付いたヒュウガは訊いた。
「ん? なんだ、何かダメだったか? んなとこにこんなのがあれば手伸ばすに決まってるだろ?」
リファリウスは首を振ってこたえた。
「いや、全然――いくらでも食べていいけど後にしたらどうかな?」
後? ヒュウガはクッキーを口に運ぶ前にそう訊くと、リファリウスは部屋に一旦戻って何かを持ってきた。
「久しぶりにこんなものを作ってみた。
本当はカレーを作る予定だったけど、天才は同じ材料でこれを作ると言うらしいからね、その通りにしてみた。」
それをヒュウガの端末の隣に出すと、ヒュウガはなんだか嬉しそうだった。
「うおっ! マジかよ! えっ、あんたが作ったのか!?」
ヒュウガは何故かワクワクしたような面持ちでそう訊いた。
「私の古い記憶だ、血の中に刻まれていると言ってもいいだろう。
遠い先祖が確かこれが好きだったような気がするんだ。
だから意外とヒー様が好きなんじゃないかと思ってとっておいたんだよ。」
「おお! 全然食う! えっ、いいのか?」
リファリウスは優しそうに頷くと電子レンジの中に突っ込んできた。
そして温まったそれをヒュウガの前に置くと、彼は嬉々として喜びながら食べていた。
「んまい! んまいぞ! なんか超懐かしいな!」
リファリウスはにこにことした顔のまま、ヒュウガの対面のベンチに座った。
なんだか妙な光景に出くわしたクラフォード、リファリウスに何があったのか聞いた。
「なんだ、ヒュウガのやつどうしたんだ?」
「見ればわかるでしょ、肉じゃがを食べて喜んでいるんだよ。」
肉じゃが? なんだそれ? クラフォードは訊いた。
「エンブリアのこのあたりじゃあ肉じゃがというものがないみたいだからね、
だから彼の中では久しぶりに食べられたことで革命が起きているだけだよ。」
革命って……クラフォードはあっけにとられていた。
「肉じゃがおいしい。マジ最高。革命納得」
カスミは淡々と答えた。
「そんなにうまいんなら一度食べてみたいもんだな」
クラフォードが言うとリファリウスは頷いた。
「どうも私のクリエイター魂に感化されたらしく、
町の各地に”アトリエ”と称し、いわゆるクリエイター専門学校的なものができるんだ。
調理コースでは初回はカレーは取りやめて肉じゃがの予定になったようだから、
今後はクラウディアスの家庭料理でも普及するハズだ。
無論、そうとなればレストランでも出されることとなるだろうね。」
クリエイター専門学校……今後のクラウディアスのさらなる発展に期待が持てそうだ。
アクアレア共立ルーティス特別校クラウディアス学園、その日はその大講堂にて、大勢が集まっていた。
全体的に6,000人は集まっているのではなかろうかというほどだ。
もちろん学校関係者だけでなく、様々な者がその場に臨んでいた、ティレックスやスレアら、
ガルヴィスやクラフォード、イールアーズなんかも含まれている。
そして講師らしき人が入場すると、早速講義が始まった、
その講師は恐らく言うまでもないだろうが、例のおねーさんである。
「みなさんこんにちは! リリアリスです! ここじゃあ初めてだけど、調子はどうかしら?」
そう、ルーティスにおける不定期開催の名物美人女講師による授業がクラウディアスの地にて開催されることとなったのである。
そして、彼女のペースは相変わらずである。
名物美人女講師というだけあって、男性陣からももんくなしの人気ぶり。
だが、例によってお転婆で妙なことを平然と行う破天荒な性格と頭の良さから来る変人振りによって
”残念な美女”の地位を不動のものにしているような彼女、人は言う、これさえなければ、と。
しかしそういったキャラクター性から来る彼女の人気の秘訣と言えば既に記した通り、
等身大の存在という高根の花感のなさからくる親しみやすい女性というところから来るものであり、
それについては主に女性陣からの評価の高さからもわかることだろう。
一方で、恋愛の対象からは完全に対象外――まあ、そんな人間性である。
「まったく、こんなに大勢を前にしたらお姉さん緊張しっぱなしでしょうがないわよ。
だから間違えたら勘弁ね。間違えていた部分についてはみんなの学力を駆使して脳内で補間してちょうだい。」
とにかく、彼女の軽快な、そんな緊張してねえだろうが感満載なオープニングトークのジョークは続き、場を盛り上げていた。
冗談を言いながらマジメな話も続く、そこはさすがは授業という名目なだけのことはあるが――
そしてここで毎回恒例のアシスタント紹介となるが、それが何気に贅沢なラインナップである。
「今回のアシスタントはねえ、みんなも大好きなあの方々にお越しいただきました! さあどうぞ、入って入って!」
すると、まずはみんな大好き伝説の美女の代名詞・アリエーラさんの入場! 場は盛り上がる!
続いてアリエーラさんに次ぐ伝説の美女の代名詞・フロレンティーナさんの入場! 場はさらに沸き立つ!
確かにこれは贅沢であるが話はそこでは終わらない、真の贅沢というのはこういうことを言うのだ!
3人目、入ってきたのはなんとイケメン戦士としては伝説の存在と化しているシャナン様!
さらに4人目ももちろんイケメン戦士のディスティア様!
そして最後にヒュウガ……実は何気にイケメンの名に連ねる御仁だが、
性格的にはリファリウスに近いような変なところがあり、所謂”残念なイケメン”である。
とはいえリファリウスのように男性陣から顰蹙を買うような性格ではないのが唯一の救いだが。
そんなイケメン男児3人が入ってくると、会場はさらに湧いた。
「やれやれ、面倒な話を引き受けちまったな」
と、ヒュウガが漏らすとリリアリスが小声でそっと言った。
「まあまあ、固いこと言わないの。一応イケメンに名を連ねる存在なんだからさ。」
「そいつは光栄なことで」