ラシルは会議室に連れられると、リファリウスは扉を閉めた。
周りには誰もいない、リファリウスとの対面での話し合いか。だが――
「2人じゃないよ。」
えっ、誰かいるのか? リファリウスに釘を刺されてラシルは改めて周囲を見渡すと、テーブルの影からゆっくりとカスミが現れた。
背が低くて隠れやすい彼女……
するとカスミは小皿を取り出し、その上に乗っているものをつまんで食べていた、クッキーのようである。
「食べる?」
カスミは小皿を向けてそう訊くとラシルは首を振った。
「いや、仕事中だから……」
そう……カスミはそう言いながら皿を自分の手元に戻し、もうひとつまみ食べていた。
するとリファリウスも、何やら可愛らしいデザインの小袋を取り出し、その中に手を突っ込み取り出すと、
それを口の中に運んでいた、こちらもクッキー?
「さて、キミを呼び出したのはほかでもない、クラウディアスの防衛に関する話だよ。」
クラウディアスの防衛? えっと、それだとこの人数で話をするものなのだろうか、
そう訊こうとするとリファリウスが先に話をした。
「防衛に関すると言ってもここで話題にしたいのはカスミんをアンブラシアに連れて行きたいということだね。
だから今回は当人を交えて騎士団長の意向を確かめようと思ってね。」
ということはクラウディアスの守り手の一人であるカスミが不在になることを意味する。
リファリウスはさらに話を続けた。
「ちなみにこの話は彼女の召喚主たるエミーリア姫からは既に了承をいただいている。
というか彼女としてはこれまで同様、カスミんには自由にのびのびとしてほしいということで最初から決着がついているみたいだからね。」
確かにエミーリアならそう言うだろう、ラシルはそう考えた。リファリウスはさらに話を続けた。
「ちなみにシャナンさんやフェラルさんも参戦予定なんだ。
言ってもお二方はOB・OGという立場で厳密には騎士団の一員というものではなくてほぼ顧問的な役割、
ほとんど雇われのようなものだからね、向こうの都合で動いてもらうことにしている。
シャナンさんはやっぱりリアスティンさんのことが気になるだろうし、
フェラルさんも”インフェリア・デザイア”が相手ということでこの世界を脅かす存在に対しては容赦しないっていう姿勢だ。」
とはいえ、ずっとアンブラシア編でずっと徒党を組んでいるというわけでもないようだ、必要に応じてということか。
「スレアやフラウディアさんもそうするって言ってたな、現地視察という名目で――」
リファリウスは頷いた。
「そう、つまるところ、最悪キミ1人でこの城の防衛責任者を担うことが発生しうるわけだ。
もっともキミは防衛責任者の中では最高責任者の地位にあるわけだけど――」
するとラシルは前向きに答えた。
「それで、カスミさんもいなくなるけどどうかってことですか、いいんじゃないですか?」
ラシルは臆せず話を続けた。
「確かに僕1人で騎士たちをまとめるということになるので、それはそれで大変になると思います。
ただ、完全に全員がいなくなるわけではないですよね? それならそれでいいですよ。
ヴァドスやラトラ、レミーネアさんもいますし、エミーリアもいる!
今まで頼ってきた分、今度はその恩に報いるためにみなさんの帰る場所を守ってみせますよ!」
それに対してカスミはゆっくりと拍手をはじめ、リファリウスも頷きつつ拍手をしていた。
えっ、何……ラシルは戸惑っていると、リファリウスのほうから彼に近づき、肩を叩いた。
「よく言った! 流石は次期国王陛下、やっぱり頭が上がらないね!」
だから次期国王陛下言うのやめようよ……ラシルはそう思っていた。
「最初に来たときは本当に頼りなかったキミだけど、ずいぶんと成長したもんだね……上からものを言うようだけどさ。」
頼りないとは今でも言われているが、当時と違ってほぼネタに近いものがあった。
でも、当時は本当に頼りなかったようで、それはラシル本人も自覚していることだった。
「いえいえ、確かにそうだったと思います。
リファリウスさんやカスミさんたちのおかげでクラウディアスはここまでやってこれたのですから、むしろ感謝したいぐらいです。
本当にありがとうございます! ですから、今度は皆さんがしたいように行動なさってください!」
するとカスミは小皿をラシルの前に出して言った。
「あげる、お腹いっぱい」
さらにリファリウスも小袋を差し出して言った。
「私もだ、流石にお腹いっぱいだよ。
さっきもお菓子食べたばかりなのに、これ以上は流石に太るね。
でも、キミはこのクッキーを食べていないみたいだし、代わりに食べてくれると助かる。」
えっ……ラシルは困惑していた、だから仕事中だって……
「仕事終わりに食べればいいじゃないか。それにクッキーの1つぐらい口に含んだってバチは当たらないよ。
女性陣はほぼほぼ食べているけど、男性陣は甘いもの苦手と言って受け付けてくれない、私とヒー様除いて。
けどこのクッキー、甘さ控えめだから何かとちょうどいいと思うよ。」
ヒュウガは甘いもの苦手ではなかったのか、そう訊くとリファリウスは言った。
「そうかな? 私としては何でも食べているイメージしかないけど。
手の伸びる範囲でテキトーなものをなんでもつまんでいる――エンジニアの習性みたいなもんだね……
ああそっか、だから太ることを気にして、頼めるときは甘いもの控えめなのかな?」
なるほど、そういうことか――ラシルはそう思った。
「でっ、では、そう言うことならいただきます――じゃあ、今は一口だけ――」
すると――
「おいしいですねこれ! リファリウスさんが作ったんですか?」
すると会議室にエミーリアが楽しそうな様子で乱入してきた。
「わーい! ラシルー♪ おいしいって言ってくれたー!」
えっ、えっ!? ラシルは困惑していた。
「それ、作ったのは彼女だよ。」
そうだったのか!? ラシルは驚いていた。
「えへへ♪ ラシルにおいしいって言われて嬉しいなー♪」
それに対してリファリウスは腕を組みながら言った。
「やっぱり、次期国王様にも例の計画をすべきだったかな?」
例の計画とは、スレアとティレックス、そしてクラフォードにやった、
女性陣による例のイタヅラである――いや、やめてくれ……ラシルは頭を抱えていた。
「彼女が心を込めてキミのために作ったんだからちゃんとしっかりとかみしめるんだよ?」
リファリウスはそう釘をさすと、ラシルは顔を真っ赤にしながら「はい……」と一言。
そんな彼に対してエミーリアはただにこにことしていた。