エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第3部 果てしなき旅の節目にて 第8章 幻想を抱いたまま死ね

第159節 アトリエ始動、王国よ永遠なれ

 開始8分程度、特別な話をすることなく毎回恒例でもある簡単な話から導入した後、 フロレンティーナとディスティアが手合いをしていた、デモンストレーションである。 そしてリリアリスが合図をすると、2人は手を止めた。
「美男美女が織りなす妙技の時間は一旦このぐらいにしといて。 多分共通の認識が合っていない部分もあると思うから今のデモンストレーションに関して、 とりあえず聞きたいことがあったらドーゾ♪ まずは質問ターイム♪」
 すると――
「あっそうそう、毎度のことだけど、 例によってこれまでデモンストレーションをしてくれた人からのクレームだけは一切受け付けないので、 そのつもりでお願いしますね♪」
 と言われ、ティレックスとスレアが真っ先に突き返されていた。会場は笑い声に包まれた。
「なんで俺らの時と違ってこんなに穏やかなんだ?」
「まったくだ、差別だよな差別――」
 どうやら積もりに積もったその2人の言いたかったことは儚くも棄却されたようだ。
 質問は流石に人数が多いことから各々の端末からの入力で、リリアリスはモニタ越しに確認しているようだった。 実は授業をしている会場こそクラウディアスだが、今回はルーティスの大講堂でもリモートでつながっており、 そちらにも5,000人ほどいる、合わせて1万人以上がこの講義に臨んでいるのである。
 さらにルーティスもリモートと言ってもただのモニタ越しによるそれではなく、 ヒュウガとリファリウスが共同で開発した”空間グリッド・フレーム・ワーク”というシステムを用いて、 いわゆるホログラムを投影しているのである、なんともハイテクな講義である。
 すると、
「おいおいおい、だから講義に関係する質問しろって言ってるでしょ。 クラウディアスでもハレンチな質問ばっかりか?」
 その質問内容一覧が、教壇上にあるスクリーンに映し出されると、笑いがどっと押し寄せてきた。
「ちょっと! 魔法剣に関する質問が3%って何よ! 分母増えているハズなのにどうなっているのよ!」
 会場の笑いは止まなかった。
「残り97%全部がプライベートに関する質問ってどんな学園なんだここは!  やってくれたなお前ら! クラウディアスの責任者の一員として恥ずかしすぎるわ!  こうなったら徹底的にクラウディアスの教育改革をしてやるから覚悟しとけ!」
 会場の笑いはさらにこみ上げてきた、もちろん本気ではなくネタで言っているだけである。 本来なら問題になりそうなのだが、彼女のこの手の発言については予め取り決めがあるらしく、 本人もネタで言っているだけなので本気にしないようにと一部関係者にはすでに釘を打っているらしい。
 なお、質問のカテゴリというのがあり、カテゴリは魔法剣に関する質問とプライベートに関する質問の2択しかないので、 魔法剣に関する質問以外はすべてプライベートに関する質問になるのは必然である。
「ったく。まあいいわ、とりあえずいつもどーり、 プライベートな質問から答えてあげようじゃあないのよ、 クラウディアスでも徹底的に切り込んでいくわよ。」
 いや、切り込むって自分たちのプライベートのことなんだが。

 ということで、プライベートの中でもセクハラ発言処理班を買って出たフロレンティーナは質問を読み上げて答えていた。
「まずは私とリリアと、アリのスリーサイズね。見ての通り、セクシーなおねーさんよ♥  次はバストサイズ、見ての通り、大きなバストの持ち主のおねーさんよん♥  次は年齢、見ての通り、年齢不詳なミステリアスなおねーさんよん♥」
 と、調子良さそうに言うと、今度は色っぽく艶めかしい様相で話し始めた。
「うふふっ、そうそう、私は105・67・101でアイカップ♥  つまり――ぼぉん♥きゅっ♥ぼぉおん♥のおねーさんよぉん♥  ちなみに今の情報なら”こちら”に書かれているわ――ウフフッ……」
 と、最後に不敵な意味を浮かべながら得意げに言い放った。 ちなみに”こちら”というのは彼女のスリーサイズなどが書かれている公式ファンサイトのURLだった。
 それに対して会場は笑いどころか、おおーっという歓声に包まれていた。
「ウフフッ、もしテストに出るとしたら、どっちか書いた賢い子を全員正解にしてア・ゲ・ル♥」
 まさに彼女からのリップサービス、流石はセクシー担当の彼女である。だが、彼女は態度を翻すと――
「ああそうそう、言っとくけど私もリリアもイケメンしか興味ないし、 アリにちょっかい出そうもんならそれ相応の覚悟をしてもらうことになるから、それだけは覚えときなさいよ?」
 すると、それに対して会場全体が一体となり、男女含めて「はーい!」と答えてきたのである。 流石はフロレンティーナさんである。 ちなみに、モニタには”アリと付き合うための条件はこの4つ! 1つ、付き合う前に死を覚悟しろ!  2つ、そもそもどこの馬の骨とも知らないヤローは却下! 人生から退場させられてももんく言うな!  そして3つ、アリと付き合いたいというやつはこの私を倒してからにしろ!  最後に、そもそも彼女を倒せるほどの力量がない男は却下!”と書かれていた。 これは講義でいつもリリアリスが語っているセリフである。
「本当にわかってんのかしら?  それにしても、また随分と面白い質問があるじゃないのよ、フローラさんの下着は何色、ですって!  うふふっ、いいわねえ――私にそんなに興味があるのかしら?」
 が、彼女はすかさず言った。
「あっ、でも、さっきも言ったとおりだけどイケメン以外はお断りだからね、それ以外は気安く話しかけないでよ。 例えば話しかけてもいいのはそこの席の、右から……一つ飛ばして一つ飛ばしてもう一つ飛ばして私のお隣にいるシャナンパパとディア様とヒー様ぐらいかしら♥」
 会場は笑いに包まれた、ってか居ねえのかよ! と突っ込まずにはいられない男性陣。 フロレンティーナはそのまま下着の色については答えなかったが――彼女がその場から退場する際、 振り向きざまにチラっと、スリットが大胆に入っているスカートの中が――銀……あなたもミスリルですか。 それもそのハズ、リリアリスが持っている予備を彼女も身にまとっているようだがサービス精神旺盛な彼女、できるだけ露出を高めようとしているらしい。
 と、ここで今までならリリアリスとアリエーラとフロレンティーナが下着代わりに身にまとっているミスリル銀繊維のそれの件になるのだが、今回はその件はなかった。 何故かというと……今回は別の話題が質問に乗っているからである、今回はもはや渡す相手もいないのだが。

 リリアリスの講義もとい、軽快なトークショーは続いた。
「ふふっ、ありがとうね、フローラ。 我らがクラウディアス特別執行官ではセクシー担当の彼女が私に任せてっていうもんだから代わりにやってもらったわ。 流石はできる女ね、特別執行官なんて役職が務まるだけのことはあるわ。」
 会場は笑いに包まれた、いやいや、そういうことじゃないだろ、と。
「さてと、プライベートな質問でもとうとう出てきたって感じの質問がきたわね。 もちろんこれについては前々からルーティスの講義でも少なからずあった質問で、 今までは講義時間外にまとめて回答していたにとどまっていた内容だけど、 今回は大多数の人が訊いてくれているから流石に講義で話をしないとね。」
 そして、リリアリスはその質問をモニタに表示させた。
「私らの武器はどこで買ったものなのかという質問もあったけれども、 すべてはこの質問の内容に踏襲されるからいいわよね。」
 その質問の内容は、リリアさんはどうやって武器が作れるようになったのか、である。
「どこで買った武器かは見ての通り、 私の武器はもちろん、アリの武器もフローラの武器もみんな私が作ったものだし販売もしていない逸品物よ。 ちなみに賢者ディア様の武器も私が作って差し上げたのよ♪」
 それに対してフロレンティーナが言った。
「ちょっと! 何よそれ! リリアったらまた随分と羨ましいことしているじゃない!  私にも作り方教えなさいよ!」
 だが、これはただの講義を円滑に進めるための合いの手である。以下もほぼ同様に見てもらえればいい。
「まあ、そうね――残念だけど、教えてあげられるほど簡単なものというわけではないわね。 何故かというと、やっぱりモノ作りっていうのは結局は自分の”センス”というのがモノを言うじゃない?  だから、教えたとしても同じようにできるかどうかは別だし、 さらに言えばモノになるまでに時間のかけ方も違ってくるだろうし、 もしかしたら私なんかよりもより効率的で、しかも完成系が私よりもいいものだっていうケースもありうるわけよ。 つまりは人によるところが大きいから、職人の腕を目で盗んでやってみて自分に合うかどうかを確認し、 そのうえで自分なりの正解を見つけていくという方法もありかもしれないわね――」
 それに対してフロレンティーナが言った。
「わかったわ、そうしてみるわね。 そう言えばクラウディアスの町の各地に新しくオープンしたっていう”アトリエ”で、 今度それをやるって言ってなかったかしら?」
「ええ、鍛冶デモンストレーションをやるのは今からちょうど5日後ね、もしだったら来てみてよ。 なお、”アトリエ”初公開の2日後には料理を予定しているからね。」
「ええ! 絶対に行く!」
 と、合いの手というよりは何気に宣伝をぶち込んでくるという茶番である。 それが指し示すかのように、その”アトリエ”の場所をモニタで示していたのである。 フェラント、アクアレア、グラエスタにウィンゲル、そしてクラウディアス中心地とクラウディアス城、 各拠点のそれぞれに所在地を示していた。
「茶番は茶番だが、こうもスムーズに都合のいい質問来るか普通……」
 ヒュウガは呆れ気味にそうつぶやいていた。

 エンブリアにはかつてエミーリアとレミーネアという姉妹がいたそうだ。 その2人はクラウディアスという王国を建て、英華を極めていった。
 時に衰退し、さらには戦争などという激動の時代を乗り越えることもあったが、 この王国には再びエミーリアとレミーネアという姉妹が現れると、 今度はかつてのエミーリアとレミーネアの再来と思しき2人の女性、 リリアリスとアリエーラが現れ、王国は再び安寧を取り戻したのである。