エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第3部 果てしなき旅の節目にて 第8章 幻想を抱いたまま死ね

第154節 魔法のお話、精霊の法

 それから数日後、リモート会議を終えたリファリウスとアリエーラはテラスでくつろいでいると、下からドラゴンが現れた。
「おや? なんかカワイイのが乗っているな?」
 ドラゴンにはティオとカスミの2人が仲良く乗っていた。
 するとそこへクラフォードとティレックスがやってきた。
「やあ知りたがり君、何が知りたいのかな?」
 クラフォードは頷いた。
「話が早くて助かるよ。まずは……完全型非……えっと、解呪魔法といえば”ディスペル”だと思うんだが、 あんたらが使っているその――」
 クラフォードは言葉に詰まりながらそう訊くと、それを察してリファリウスが答えた。
「私らの使う魔法のタイプは以前にも説明した通りだけど”フェドライナ・ソーサー”型なんだ。 これっていうのは実を言うと、そういう名前の魔法があるというのとは全く違うものなんだ。 まあ、その話をし始めると大変だから詳しい話は追々にするとして、 今回はその”スペキュレイション”が何というところに言及することにしようか。」
 リファリウスの説明はさらに続く。 クラフォードが言いたかったのは完全型非破壊式解呪魔法だが、ほかには完全型破壊式解呪魔法の”ディスペル”がある。 通常、解呪魔法といえばクラフォードの言うように”ディスペル”が定番だが、 これは相手のバリアを解呪というより破壊するのに特化している魔法であり、この効果が主流である。
 他には非完全型破壊式解呪魔法と非完全型非破壊式解呪魔法があることになるが、 非完全型だとその通り、解呪魔法としては効果が弱くなるのが欠点として挙げられる。 ”ニュートラル”という魔法がその非完全型破壊式解呪魔法にあたり、効果については基本的に同じものとなる。 つまり、完全型だろうが非完全型だろうが効力は変わらないということであるが――
 では、完全型非破壊式解呪魔法が何ということだが、”ディスペル”の例で言うと相手のバリアを破壊するため、 それによる衝撃が発生するのが特徴である。 通常であればそれで別に問題は起こらないのだが、”スペル・プロテクト”のような解呪耐性を得ている場合は挙動が大きく異なる。 ”ディスペル”では破壊が発生するのだが”スペル・プロテクト”はそれに対して反発するため、 場合によっては反作用効果によって激しい衝撃を生み出してしまうことがある。
「そういえばスクエア編で相手が解呪魔法を使ってきた際にブローを与えたな、 通常の”スペル・プロテクト”の挙動にしてはずいぶんと強烈な挙動だったような気がするが――」
 クラフォードが言うとリファリウスは頷いた。
「言ったように、”ディ・スペル・リフレクション”は”スペル・プロテクト”のそれを応用して、相手をぶっ飛ばすことに特化させた魔法なんだ。 そのため、効果の前提として解呪魔法が破壊式でなければその要件を満たせない。 で、問題の”スペキュレイション”はマナへと還元するという法として開発している、つまり破壊という動作が起こらないんだ。 故に”スペル・プロテクト”でも反発は起こらず、ただ抵抗するだけというのが効果の実態なんだ。 まあ、その時々によって破壊式がいいか非破壊式がいいかは変わってくるんだけどさ、 一般的には破壊式のほうが効果も簡単だし非破壊式である意味がないから解呪と言えば”ディスペル”と”ニュートラル”が定番になったんだろうけどね。」
「”ニュートラル”ってのもあったな、もっともあっちは聖属性の解呪魔法だからより高度……”ディスペル”よりも需要は薄いみたいだけど、 エンブリスの聖職者が使っているようなやつだな」
 そして、何故クラウディアスの屋上でアリエーラが行ったのは完全型非破壊式解呪魔法のほうが都合がよかったのかという問いだが、 その答えはどうやらアンカーに含まれている魔法にまで影響を与えるかどうかということが関係しているらしい。
「”ディスペル”はも破壊式だから衝撃も発生する、周囲への影響が強いんだ。 ”ニュートラル”は厳密には消滅式とも呼ばれるけど、魔法の区分としては破壊式にあたるため、結局は同じことにしかならないしね。 そのせいでアンカーにまで効果が到達する可能性も高く、そうしたらアンカーに含まれている魔法まで破壊されてしまう恐れがあった。 その点でも非破壊式を選択したことが有利に働いて、アンカーへの解呪効果は軽微で済んだということかもしれないね。 それに、あの”エンハンスド・クオーツ”の建物もだけど、下手に”ディ・スペル”しようものならあのままクラウディアス城に墜落し、 クラウディアスであの建物の魔力が暴走するという大惨事にもなりかねなかった。 端的に言うと非破壊式だから解呪対象の的を絞れたことになったし、それが大きな利点だったのかもしれないね。」
 なんともややこしい話だが、それぞれに魔法の用途があるということらしい。
「話は少し戻るが、”フェドライナ・ソーサー”型は”ディ・スペル”みたいな決まった魔法がないってことは――」
 ティレックスはそう訊くとリファリウスは頷いた。
「そう、その通り。”スペキュレイション”は私が作った魔法だよ。 なお、完全型非破壊式解呪魔法であるのはそもそも”フェドライナ・ソーサー”型だから解呪魔法を作るとそういう仕様になるため。 つまり、特にそのあたりを考えずに”フェドライナ・ソーサー”型で解呪魔法を作ると必然的に完全型非破壊式解呪魔法になってしまうんだよ。」
 性質故ということか。
「でも、決まった魔法がないって面倒じゃないか? つまりは全部作らないといけないんだろ?  てか、なんで決まった魔法がないんだ?」
 クラフォードは言うとリファリウスは頷いた。
「そう、全部作らないといけないんだ。でも、それが面倒とは思ったことはない。 そもそもなんで”フェドライナ・ソーサー”は決まった魔法がないのか?  答えは簡単、そもそも”フェドライナ・ソーサー”は普及していないから。 需要がないもんだからそもそも魔法自体が開発されていない。 だから好き勝手に魔法を開発していろいろとやっているってわけだ。」
 理由は案外シンプルだった。そもそも作ること自体はこいつにとっては苦になる要素ではなかったか、当人が良ければなんでもいいか。

 話題を切り替えて。
「次はランス・オブ・ハイなんたらってのを教えてくれ」
 リファリウスは少し考えてから答えた。
「ハイディーンね。 あっちの世界ではそれなりに名の通っている竜騎士の名前だね。 随分前に亡くなったって……私の記憶がなくなる前の話のハズだけど、 こんな感じの剛槍を持っていたことでも知られていて、割と名のある存在だった気がする。」
 そう言われ、後ろにいきたロッカクが言った。
「ハイディーン? ああ、なんか聞いた名だな。何者だっけ?」
 今の話聞いてなかったのか……クラフォードはそう思っていた。
「それよりどうしたの?」
 リファリウスは訊いた。
「おお、なんかガルヴィスが呼んでるぞ。 いや、ガルヴィスっていうか――なんか変なやつが来たんだが、どうするかなってな」
 変なやつ? クラフォードは訊いた。
「お前の目の前にいるこいつも変なやつだが――それに比べても変なやつってか?」
 リファリウスは大きく息を吸い込むと――
「いででででで! いでぇ! いでぇ!」
 クラフォードの背後へと即座に移動すると首を後ろから右腕で回し、左腕で後ろの首筋を抑えていた、ヘッドロックである。
「で、どんな変なやつ? こんなことほざく唐変木と比べてどっちが変?」
 リファリウスはヘッドロックしたまま何食わぬ顔でそう訊くが、ロッカクは苦笑いしつつ冷や汗をかいていた。
「いっ、いや――なんつーか、カイトのようでカイトじゃねえ、なんだかよくわかんねえやつだ」
 その時、クラフォードの首が逝った……。