リファリウスは赴くことはなくテラスに鎮座していた。
すると、面倒は向こうからやってきた。
「やあ! わざわざ来たんだね! 来なくたっていいのに!」
と、爽やかにえげつないことを言い放ったリファリウス、相手の男は何故か笑い倒していた。
「あははっ、来ちゃった!」
リファリウスは彼が何を言う前よりも真っ先に続けざまに話した。
「ははっ、じゃあ気が済んだよね、さっさと帰れ。
じゃなきゃ不法滞在として逮捕勾留監禁する。」
相手は呆れ気味に言った。
「やれやれ、やはりクラウディアス特別執行官というのは手ごわい相手だ、私が何をしたって?」
リファリウスは答えた。
「ティルフレイジアの男児は生きているだけで犯罪行為だ、それで十分じゃないかな?」
ティルフレイジアの男児でカイトのようなやつ――そう、彼はクラネシアである。
「あちゃー、それを言われたらどうしようもないね。
それよりもさ、セラフ・リスタート計画についてどうなっているのか訊きたいんだけどね――」
「セラフ・リスタート計画ぅ? 何それ? 外人? 歌?
ああ、あれか、もう終わったことだから何だっていいや。
どうしてもって言うのなら報告書を特別公開しているからそれ見ればいいじゃん。」
と、棒読み気味に全部言い切っていたリファリウス。
「いやいや、それはそうなんだけどさ、他にも聞きたいことが――」
「悪いけど、私としても知っていることは全部公開しているつもりだよ。
そもそも知っていることのほうが少ないんだ、ガル君とか腑に落ちない人も結構いるみたいだけど。
だからこれ以上は諦めてもらえないかな。」
「うーん、止む無しか……」
と、リファリウスの態度にクラネシアは残念そうにしていた。
クラネシアが去ると、クラフォードが改めてやってきた。
クラフォードは首をコキコキといわせながら来た。
「なんだ、まだいたんだ?」
クラフォードは訊いた。さっきのは何でもなかったかのようにふるまった。
「なんていうか、そのティルフレイジア男児に対するあたりが強すぎるのが気になるんだが――」
リファリウスは答えた。
「それは必然だね、彼らからはそういうオーラがにじみ出ている。
自分は危険な存在なんだ、だから近寄ったらいけないってね。
だから私は極力関わり合いにならないように心得ている、それだけの話だよ。」
わけがわからなかった、どういうことだよ、と。
「でも、クラネシアってやつ、あいつもティルフレイジアってやつなのか?
そもそもティルフレイジアってなんなんだ?」
「ティルフレイジアって名前だよ。恐らくカイトとは親戚関係なんだろう。
見ての通りキャラも完全にかぶっているけれども、あれがティルフレイジア男児のキャラってやつだ。
正直、あいつの話をすると寒気しかしてこないからそろそろいいかな?」
ますます訳が分からないが、親戚らしいということが分かったところで話を打ち切りに。
そしてクラフォードは話を切り替えた。
「じゃあそれはいいとして、公開している以外のことは知らないって言っていたのは――」
「本当の話だよ。
確かにそれ以外のことも知っているような気もしなくもないけれども、
正直なところ、プライベートなこともあれば話したところで”それで何?”みたいな内容もあって、
話をすべきという点においては適切ではないもののほうが多い。」
なんだか難しいな、クラフォードはそう思いつつ言った。
「まあ――おたくらにしてみれば新しく現れた未知の世界でなくて、
もともといたこれまで生活していた世界ってことになるわけだから別に何が特別っていうわけでもないのか。
でも、俺らとしてはその”インフェリア・デザイア”ってのがやっぱりどうしても見過ごしておけない存在なんだが、
それだけでも教えてほしいもんだな――」
それに対してリファリウスは態度を改めて話した。
「そう、私も知りたいもんだよ。
彼らは私が生まれるよりも前から存在している。
でも、彼らについては何もわかっていないというのが実際のところなんだよ。
だから彼らはこう呼ばれたんだ、”インフェリア・デザイア”って。
世界を脅かす存在として現れた、それだけが向こうの世界でも通説だ。
これについては公開してある通りだけど、これ以上のことは本当に何もわかっていない。
だからこそ、向こうの世界に行って確かめなければならないんだ。」
さらにリファリウスは話を続けた。
「で、そのうえでプライベートな話になるんだけど、
私が向こうの世界でやっていたことっていうのはまさに”インフェリア・デザイア”に対抗するために旅に出たってことだよ。
できるかどうかもわからない――ただ、それが私の目的だよ。」
クラフォードは頭を掻きながら言った。
「それはなんだか妙な話なんだがな。
だいたいお前の戦いの力ってクリエイター由来なんだろ?
まさか”最強の敵”を倒すべくっていう、その”最強の敵”ってのが”インフェリア・デザイア”のことなのかもしれないが、
今の話だと、その”インフェリア・デザイア”を斃すこと自体が目的だって聞こえるんだがそれは?」
リファリウスは頷いた。
「どうやらその通りだ。何故かそう言われるとそうである気がする。
無論、私としては、自身の行動原理自体はクリエイター由来であるというところに変わりはない。
それで出来た武器がこれだからね――」
リファリウスはおもむろに”兵器”を取り出した。
「”インフェリア・デザイア”に対抗せよ、私はとある人にそう教えられ、そして戦いの腕を鍛えられた。
でも、私はそもそもクリエイター志望であることに変わりはないもんでね、
だから、戦いの腕を鍛えられながらクリエイターとしての腕を鍛えていった、
自分からやろうって考えていったのはあくまでクリエイターとしての腕、
戦いの腕は他人から言われて鍛えることにした、そういうことなんだよ。
見てきた通り、あの世界は”インフェリア・デザイア”っていうのがいるし、
エンブリア同様に魔物もつきものだからね、旅をするのなら戦いの腕はどこかで必然的に備えていかないといけないわけなんだけどさ。」
クラフォードは頭をふたたび掻いていた。
「なるほどな、そういうことか。
いずれにせよ、そもそも”インフェリア・デザイア”というのがいて、
そいつは斃さないといけないっていう話でしかないってわけか。
これはどうやら本当にこれ以上は何も知らなさそうだな――」
「うん、理解してもらえたようで何よりだよ。」
リファリウスの何か知っているんじゃないか論だが、ついにそんな話題もなくなり、
本当に何も知らないんだということで話が落ち着きつつある。
これまでいろいろと知っていたはずのこいつ、ここへきて、
特に向こうの世界アンブラシアのことになると、あいつはなんでも知らないと言いはる。
いや、向こうの住人なんだろ? そうは思うのだが、
じゃあ、エンブリア民がエンブリアのことを1から10まで知っているかと訊かれればぐうの音も出ない、
つまりはそれと同じことで、これ以上を求めることが野暮ってもんだ。
それにアンブラシア民は他にもいるはずなんだ、そもそもお前知らないのかよとガルヴィスにも訊いたクラフォード、
あいつはリファリウスかリリアリスに訊けとしか言わないが、
クラフォードは思いっきり「俺はお前に聞いている」と言って力づくで訊いたこともあった。
それには流石のガルヴィスも驚いていたが、結局ガルヴィスも何も知らず、
いずれにせよ、向こうの世界に行って確かめるしか道はなさそうだと改めて考えるに至った。
「何かつかめたのか?」
ティレックスは訊くとクラフォードは答えた。
「ああ、確かなことは一つだけ。
それは誰かに聞くよりも、直接現地に行って確かめたほうがいいってことだ。
リファリウスにも何度か掛け合ったが、あれは本当に何も知らなさそうだ」
イールアーズが言った。
「んだよ、てぇことは、なんだかわからんのに俺らの世界が脅かされているってことか?」
そんな彼に対してディスティアが言った。
「なんだかわからんのに私らの世界が――そんなに強いのに脅かされていると考えればイールにとっては面白いことになるんじゃないか?」
そう言われると――
「へっ! いいじゃねえか! やってやるぜ――」
イールアーズは闘志を燃やしていた。
「どのネームレ……いや、アンブラシア民に訊いてもさっぱりって感じだ。
ともかく、あの回帰の先に行って真相を確かめる以外にやりようがないってことだな」
怖気づいたか? クラフォードはそう訊くとティレックスは答えた。
「いや、むしろやる気になったな。
アンブラシア民――ましてやあのリファリウスさえ知らないとくれば、なんだか特殊なものを感じるな。
いや、それは今まではまさにあいつに頼りっぱなしだった、だから次は何、次は何と訊いていた気がする。
でも、今回はそれが通用しない相手だってこと、自分たちがこれまで培ってきたものが生かされる時が来たってことだな」
ディスティアは頷いた。
「そのようですね。
あっ、でもリリアさんですが、知っている情報があれば逐一教えると言っていましたね。
確かに情報量が多いというのなら小出しのほうが助かりますし。
そもそもあのアンブラシアという世界ですが、相当に広いようです。
ですから一度に聞くよりはそっちのほうがいいでしょう――」
そうだ、世界は広いんだ、その場にいたものはそう思って納得していた。