エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第3部 果てしなき旅の節目にて 第8章 幻想を抱いたまま死ね

第153節 幻想を抱いた魔人、その末路

「貴様、本当に皇帝か!?」
 クラフォードらは剣を構えてそう訊くと、そいつは答えた。
「皇帝だと? ……ああ、そういえばそんなこともあったな。いずれにせよ、過去の話だ。忘れてくれ――」
 すると、特攻隊長イールアーズがそいつをめがけて突きを放った!
「つべこべ言ってんじゃねえ!」
 しかし案の定、弾き飛ばされた――
「虫ケラが……這えずりまわっておればよいものを――。 だが、ここまで来たからにはどうもこの私を倒したいらしい。 いいだろう、それなら相手をしてやろう……」
 すると皇帝は身体を宙に浮かせ、玉座の裏にある大きな穴の上へと身を移動した――
「待て! お前、何のためにこんなものを! 竜巻を作り出したんだ!  何故セラフィック・ランドを襲うんだ!」
 ティレックスはそう言うと、皇帝は答えた。
「ふっ、それは私の理想を叶えるためだよ。 セラフィック・ランドが何かはわからぬが、最近復活しているらしい土地があるというものでな、 ならばその土地を再び陥れたらどうなるか――そう考えたまでだよ」
 周囲の魔力が集中し、皇帝を覆いつくした!
「こいつ……狂ってやがる――」
 アーシェリスがそう言うとクラフォードは注意を促した――
「デカイのがくるぞ! 気をつけろ!」
 その場にものすごい衝撃が走る! 全員、慌ててその場を退避!
「我が野望の邪魔をするやつは何人たりとも許さぬ。 お前たちには我が理想のための生贄となってもらおう――」
 皇帝は異形の者へと変貌しており、その大きさはまるで魔人のごとく、 いつぞやのイーガネスとも勝るとも劣らないような大きさの魔人へと変わっていた!
 しかしそれに対してリファリウスは真正面へと立ちふさがると、”兵器”の先を向けたまま言った。
「何が野望だ、何が理想だ、そんなくだらない幻想に付き合うつもりなんかさらさらないな。 そんなに幻想ばかり抱いているんだったら人の迷惑にならないようにするべきだね。 そうだ、おとなしく――幻想を抱いたまま死ね。」

 幻想を抱いた魔人は流石に相手が多人数だということもあってか、そこまで強くはなかった。
「俺たちはこんなやつに踊らされていたってわけか――」
 と、イールアーズは言った。皇帝はガルヴィスの馬鹿力の剣の一突きを妨げることもかなわず、あっさりと死んでしまった。
「こいつ――本当に”ネームレス”か?」
 ガルヴィスは首をかしげていると、リファリウスは言った。
「間違いないさ、魔力だけはね。 現に彼の魔力はまだ生きている、余程力が強いんだっていう証拠だよ。 ただ――腕力はキミの力にかなわなかった、純粋に腕っぷしの強さがモノをいう世界だったようだ。 私もいろいろと準備だけはしてきたのに、こうもあっさりだと拍子抜けだね。 まあ――でも、倒せればそれに越したことはないから私としてはどんな結末だってかまわないよ。」
「俺は不服だ。だが――こんなに弱いやつを相手するのはもっと嫌だがな――」
 イールアーズは言うとディスティアは頭を掻いていた。
「できれば自分で倒してから……。 魔力はまだ生きているというのはこの竜巻のことですね?  ということはそのうち消えますか――」
 リファリウスは頷くとアリエーラの隣に来た。
「そういうわけだから早いところ脱出しよう。 魔法であるとはいえ竜巻は竜巻、主がいなくなったら今度は自然現象と同じような末路を辿ることとなる。 だから進路的にはどうなるか予想もつかなくなる。 でもその前にここが滅茶苦茶になると思うから早いところ脱出するんだ――」
 そう言うとリファリウスはディスティアに向かって右手を差し伸べた。 左手はアリエーラの右手をしっかりとつないでいた。
「なるほど、何らかの準備をしていたってことですね?」
 ディスティアもリファリウスのその手を握った。 なんか意味深に手を握っているところを見るに、それぞれ手をつないで1つの輪になっていた。
「よさそうだね。さあアリエーラさん、ブクマしたところに行こう。」
「はい! それではみなさん、行きますよ!」
 いやいや、ブクマって……。 リファリウスとアリエーラの2人は何か呪文を唱えると――気が付いたら、そこはドラゴンの目の前だった。
「なんだここは、どうなっている!?」
 クラフォードが訊くとアリエーラは答えた。
「これだけ魔力が濃密な空間ですからね、もしかしたら行けるんじゃないかと思ってこういう用意だけはしておいたんですよ、ねっ、リファリウスさん!」
「そういうことだね。さあ早く脱出しようか。」

 なんともあっけない幕切れだったが相手のやろうとしたこと、 そしてそいつを倒すまでの過程や準備などを考えると、とてつもない相手だったことを改めて実感させられた一行だった。
 あっけないのは、その直前に戦っていた大ボスがあの”イーガネス”だったこと、それ比べたら雲泥の差である。 だいたいあの破壊兵器を動かしていた張本人が強いという保証はそもそもなかった、 それがたとえ”ネームレス”――たとえあっちの世界の住人だとしてもこちらにはそれが大勢いる、結果は火を見るよりも明らかだったというわけだ。 むしろ直前の”イーガネス”が飛びぬけて強かっただけという見方もできる、現にほかの”インフェリア・デザイア”は”イーガネス”ほど強くはなかったし。
 そして、竜巻の末路についてはリファリウス・アリエーラ・フロレンティーナ、 そしてユーシェリアらが例の魔力を吸収する技を使いながらあの場を脱出したこともあって、威力もだいぶ衰え、数時間後には消滅した。 だが、それによる問題は内部にあった要塞である。 さらには連合国内ではやはりまだ資源管理の件についての騒動が落ち着いておらず、 当然のことながら、皇帝がたどったルート上での取引や物資の流通など、 とにかく討伐対象をどうこうするよりも事後処理のほうが大変な案件で、これはしばらく終わりそうにない。
 また、ドラゴンについてはそのままライトニング・リュースまで戻ってくると身体も小さくなり、元の大きさへと戻っていた。