エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第3部 果てしなき旅の節目にて 第7章 クラウディアスの英断

第139節 被害の状況、ディフェンスとオフェンス

 その日の夕方、ディスタード両国とクラウディアス、 アルディアスとルシルメア、そしてルーティスとグレート・グランドの7か国でリモート会議が行われていた。
「うちは特に問題はなく、被害らしい被害は出ませんでした。 無論、エスハイネ邸も異常はありません」
 ディスタードのヘルメイズのグラントがそう言うと、 リモート会議に出ていたエスハイネ家のフェラルとフラウディアは安心していた。
「つまりは使用人たちは無事だということですね! それはよかった――」
「よかった、みんな無事で……」
 当然、フロレンティーナの母であるカリュアも気になるところだが、 彼女はリモート会議に出ているので、それだけで無事が確認できていた。
「ガレアはどう?」
 フロレンティーナが訊くと、ジェレイアとラミキュリアが答えた。
「この通り、無事です。 大波による被害について、 ガレアの北沖側は多少の浸水被害が出ておりますが予め対策をしておりましたので被害は最小限といったところです。 風害では3棟ほど倒壊した建物もありますがいずれも演習に使用予定だったプレハブのみですので特に問題ではありません」
「マウナ地区については浸水および倒壊した建物についてはいずれも北岸に面していて、 現在も風よけに置いてある旧マウナ軍舎のみであり、現在は住居として使用されていない状態ですので特に問題はありません。 なお、旧本土島はほぼ壊滅です。 ただ、旧本土島にあった町については現状は元々無人のハズですし、 先住民族ピレストネーロについても既にアルディアスへ避難させておりますのでこちらも問題ありません。 ですが――旧本土島にあった町が今はどのような姿になっているかについてはちょっと気になるところですね――」
 さらにティレックスが言った。
「念のためだけど、アルディアスは大丈夫?」
 アルディアスに戻っていたオルザードが答えた。
「はい、こちらは特に異常はありません。 アルディアス、ルダトーラ、いずれの都も被害には及んでいません。 高潮については既に警報を発令していたこともあり、人命への影響は今のところ発表はありません」

 ということで、まずは竜巻の被害についての話題だった。 だが、ある意味本番はここからである、完全投棄による無人のディスタード旧本土島や脇をかすめていく隣国よりも、 竜巻が直撃する、住人のいるクラウディアスがどう対処するか――そこが肝心要なのである。
「こちらはとりあえずすべての準備は万端だ。 言ったように今回はデッド・アラート・クラスの問題だから、 すでにクラウディアスの住人についてはルーティスやグレート・グランド、 はてはアルディアスとルシルメアにもお願いして既に避難してもらっている状況だ。」
 リファリウスがそう言うと、そこへルーティスに一時舞い戻ってきたナミスが訊いた。
「竜巻に立ち向かうために残られたのですよね!  そちらの準備は出来ている状態でしょうか?」
 リファリウスは得意げに答えた。
「ああ、おかげさまでゆっくりと入念な準備ができたよ。 まずはフィールド・システムの改良だけど、完全に風害対策用に強化させておいた。 そのうえで魔法の使い手を中心にフィールドのエーテルを増大させ、より強固な力を以て竜巻の被害から守ることを考えている。 で、ここまでがディフェンス対策だけど、オフェンス対策として竜巻の中に魔力の源がないのかを特別なアンカースパイクを打ち込んで確認する。 報告ではやたらと力自慢たちが頑張ってくれたらしく、現状で30本も誂えてくれた。 厳しいのは承知だけど、あんな竜巻相手にどれかが刺さってくれれば嬉しいね。 さらにフィールド・システム上を通過することで魔力の性質から何から何まで解析も可能だ。 これだけの要因があれば破壊兵器の発動源も特定できるだろう、犯人の割り出しも容易だね。」
 するとそれに対してラミキュリアが言った。
「あっ、あの、リファリウス様――」
 なんだろう、リファリウスは訊いた。
「いえ、気のせいだとは思うのですが――あの竜巻、尋常ではないほどのパワーを感じるのです。 その、あの、なんと言いますか――」
 それに対してリファリウスは言った。
「うん、何が言いたいのかわかるよ。 あれだけの竜巻の規模だ、だからもしかしたら犯人は”ネームレス”か何かじゃないかってことでしょう?」
 えっ、まさか! それには何人かが驚いていたがラミキュリアは頷いていた。 するとリファリウスは――
「いや、結構長い距離を移動しているのにあれだけの大きなパワーを持った破壊兵器なんだ、 それこそ、いつぞやのガリアスみたいな”ネームレス”か、 または例の”インフェリア・デザイア”の仕業かとしか思えないのが私の印象で、ラミキュリアさんの女のカンとも一致する。 それにそもそもエンブリアの民の規模だけであれだけの力が作れるということは考えにくい―― 逆を言えば、それが実現可能だったら既にエンブリアの民の誰かがそれをやっていて、この世界を我が物顔で陥れているハズだからね。 ということはつまり、その手の連中が関与していることはまず間違いないと見ていいだろう。 今回デッド・アラートで危険度84%をたたき出していることからも、それはある程度想定の上でやっているよ。」
 なんだかのっぴきならない事態が起きているようだ、何人かはそれを改めて覚悟していた。

「なんでそういうことを先に言わないんだ?」
 会議後、ティレックスはリファリウスにクレームをつけていた。
「なんでって、わざわざ言う必要ある? それとも先に言ってたら、尻込みしてアルディアスに帰っていたのに……とか?」
 そう言われるとぐうの音も出ない。
「俺はどっちでもいいな。 むしろ”ネームレス”とか、特に”インフェリア・デザイア”の仕業だとしたら、なおのこと放っておくことはできねえしな」
 クラフォードは燃えていた。
「へっ、上等だ! ”インフェリア・デザイア”は俺に寄越せ! 今度こそ白黒きっちりつけてやるぜ!」
 イールアーズはもっと燃えていた、それは何とも頼もしいことで……勝てた試しがないが。
「そのためにはまず、キミらの仕事は例のウォール・クラッシャー・ボウガンで正確に竜巻の中央を打ち抜くようにできるようになること、 それが出来れば犯人の特定も用意になる、それができないと犯人は雲隠れってことだね。」
 イールアーズは無茶苦茶頼もしい態度で言った。
「ふん、安心しろ、そんなヘマはしねえからな!  ”インフェリア・デザイア”め! 首を洗って待っていやがれ!」
 なんて単純なんだあいつ。
「妹が亡くなって、ますますって感じだな、あいつ……」
 クラフォードは頭を抱えていた。そう、イールアーズはこう見えて実は重症である。

 翌日――
「っはぁ! 10本出来たぜ! 」
 と、ロッカクが得意げに言った。
「あいつの腕力も大概だな――」
 クラフォードは呆然としながらそう言っていた。 ロッカクはハンマーを二刀流で持っていて、それを巧みに使って鋼を丹念に打ち込んでいたのである。
「ふん、鍛冶仕事は打てばいいってもんじゃねえんだけどな」
 と、イールアーズ、これは負け惜しみである。いや、そもそも勝ち負けとかないのだが。
「クラフォード君、これは十分だよ。次よろしく。」
「はいよ、次な」
 一方で、クラフォードはリファリウスの作業を手伝っていた、アンカーの仕上げである。
「刺さったはいいが抜けないように返しをつけているんだな」
 クラフォードが言うとリファリウスは答えた。
「うん、今回は特殊な返しがいると思って、鍛錬時に返しをつけることは考えなかった。 そもそもキミらにそれを注意して打てって言うのも難しいと思ったから、ただひたすら打つことだけを考えてもらうことにした。 にしても流石だね、こんなデカイのを簡単に何本も作れてしまうキミらの腕力、目を見張るものがあるね――」
 クラフォードは頭を掻きながら言った。
「まったくだ。特にイールのやつだが、思いのほかよくやってくれたぞ。 まあ、負けん気が強いだけとは思うがそれでもって感じだ」
 リファリウスは頷いた。
「イール君の手なずけ方がうまいね。 でも、利用している側が言うのもなんだけど、それってどうなんだろうって思うこともあるね――」
 クラフォードは答えた。
「思いのほか優しいよな、あんた。 でも心配するな、こういうのは時間でしか解決しない問題だから、何かをやらせていれば気も紛れていることだろう。 それにああいう人間だからな、むしろこのぐらいのがちょうどいいハズだ。 そうでなければ――あいつは本当の鬼になっていると思うぞ――」
 リファリウスは考えていた、時間か――。

 アクアレアの海岸付近、ディスティアはアンカーの発射台の位置を調整していた。
「竜巻の位置的にはこんな感じですかね?」
 ヒュウガは頷いた。
「ああ、恐らくそんな感じだろうな。 とにかく数打つしかない、向きさえある程度あっていれば大体OKだ。 それ以上は実物が来てから適宜調整してくれ」
 するとディスティアは海を指をさしながら言った。
「見てください、あんなところに――」
 それは竜巻だった、木の葉や海の水を巻き込み、何となく目視できるような姿だった。 それは相当大きな竜巻であることが窺える。
 ヒュウガは頷いた。
「このあたりでも風が出てきたな。 明日の朝、予定通りフィールド・システムの出力を上げるか――」
 それと同時にレイビスとシャアードがやってきた。
「こっちの調整は終わった。あとは?」
「うへえー、重たかったぜ……」
 だが、2人が眺めている竜巻のほうに目が行くと――
「何だありゃ、あれが兵器だってのか!? 世の中とんでもないやつがいるもんだな――」
「あれが噂の竜巻か、ひでえもん作るやつがいるもんだな……」
 呆気に取られていた。