エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第3部 果てしなき旅の節目にて 第7章 クラウディアスの英断

第134節 クラウディアスの大いなる守り、レガシーと未来との共演

 デッキの上での作業は続く。カスミはイチゴ大福を頬張りながらリファリウスのやっている作業をじっと見ていた。
「”セレスティアル・クラウン”が”クラウン・サーバー”にインストールされたみたいです。 フィールド・システムにもインストール完了です。 これで当初の目的は完成しましたが、問題は例の竜巻に抵抗できるのでしょうかね?」
 リファリウスは答えた。
「言ったように、これだけでは無理だね。 そこで今回することは”ハリケーン・エミュレート”によるフィールド・システムへの実証実験をやることにする。」
 ”ハリケーン・エミュレート”? ラトラは訊くとヒュウガが答えた。
「フィールド・システムはまさにある意味シェルターのようなものだ。 それゆえに災害対策についてはほぼ確実にしておかなければならない。 例えば今回の竜巻もそうだが、大嵐に洪水――海辺なんかだと津波の心配もしないといけないしな。 だから今回の対破壊兵器云々は別にして、基本機能として災害に対応できないことには始まらない。 で、今回は竜巻が来るわけだから、そもそも基本的な風害対策ができるかをやる必要がある。 それで行うのが”ハリケーン・エミュレート”で、 通常規模の竜巻を意図的に発生させてそれをぶつけても大丈夫かどうかを確認しておく必要があるってわけだ」
 リファリウスは続けた。
「そもそも基本機能がなっていないことには破壊兵器規模のそれに対応することもできないだろう、 だからまずは基本機能からのチェックをする必要があるってことだよ。まあ、簡単に言えば防災訓練みたいなものだね。 ということはつまり、この手のチェックは定期的に何度もしておいても損はないわけだ。」
 なるほど! ラトラはメモを必死に取っていた。
「通常チェックを行うんだったら適した場所は人の気がほとんどない”ガーディアンズ・ウォール”、 つまりは”幻界碑石”のゲート付近でやるべきがオススメだね。 防災訓練と称してどこでやってもいいけれど、無計画実施をするのならそれが一番だね。」
 確かに。
「システム・アップデートしたらまず必要なチェックですね。 その場合の手順は、と……管理コンソールから災害エミュレートを実行する、と。 そしてその中からどの災害をエミュレートするかを……」
 ラトラは勉強熱心だった。すると――
「地震もエミュレートできるんですか!?」
 ヒュウガが答えた。
「当然だろ、クラウディアスのパワー使えば可能っちゃ可能だ。 問題はそれ用の対策がないことだな。」
 ないって……
「なくたって平気だよ。 クラウディアスではエンブリア10,000年の歴史の中でこれまで地殻変動によるセラフィック・ランドからの大移動以降は1度も起こっていないみたいだから、 もともと地震が起きない土地柄なんだろう。 それでも可能性は完全にゼロとは言い切れないから、これについても追々対策を作っていくことにするよ。」
 で、それを作るやつも大概である。 これから来る破壊兵器の竜巻程度、どうってことないんじゃ? ラトラはこの2人を見ながらこっそりとその可能性に言及していた。

 一方で、アリエーラがまた別のところでミーティングをしていた。 場所は魔学研究室であり、データフロアの隣に新設されていた。 なお、昔の魔学研究室はお城の東棟にあったのだが、そこは現在会議室へと装いを変えており、そこはA会議室と呼ばれている。
 元々、データフロア自体があまりクラウディアスらしくないという理由で、特に魔導士からの反対意見が多かった。 クラウディアスらしくないというのは建前で、本音は召喚魔法王国もとい魔法王国という向きもあるとおり、 クラウディアスの魔導士たちの需要に危機を感じた当事者たちによる反対である。
 だが、そこは流石のR姉弟、この2人がそもそも魔法を蔑ろにするはずもなく、 むしろ、その魔法というかエーテルのエネルギーを流用することで通信産業に応用しているのである。 つまり、元々低迷気味だった魔法産業のほうはかえって発展していくことになったのである。
 話を戻そう。アリエーラのミーティングの話である。
「フィールド・システムの出力を上げるためですか、なるほど。 機械と密接になった世界になったとはいえ、魔法の需要は衰えないものですね」
 クラウディアスの魔学研究室長であり、 クラウディアスの重鎮でもある老魔導士のフォブネル、かつて名をはせたとされる彼がそう言うと、 アリエーラは笑顔で答えた。
「もちろんです。 リファリウスさんや私がいる限り、クラウディアスから魔法産業がなくなることは考えられません。」
 それに対してフォブネルは考えた。
「確かに技術者は精霊ということを伺ったので、その時は了承したのですが、 よもやこれほどにまでなるとは――クラウディアスの未来は明るいですな」
 そう言われてアリエーラは照れていた。
「ところで今回の仕事ですが、私はこれを機に引退しようと考えております」
 それは何故? アリエーラは訊いた。
「いやいや、この通り、私ももう歳ですので――流石にもう、疲れました。 ですから、今後は次代を担う者にお願いしようと考えたまでですよ。 つきましてはその者を紹介しようと思いまして――」
 すると誰かが部屋へと入ってきた。
「あっ、あのー、フォブネルさん、お呼びでしょうか?」
 そこへ、会議のメンバーのうちの誰かが――そいつはローサムという者だが、 その人が部屋に入ってきた者を2人の前へと促した。
「アリエーラさん、紹介しましょう。 こちらが今しがたお話した、新所長候補のアラウスです」
 そう言われてアラウスが驚いていた。
「えっ!? ぼっ、僕が新所長ですか!? えっ、ほかの2人はどうしたんです!?」
 ん、どういうことだろう、アリエーラは話をじっと聞いていた。
「ほかの2人だが、落選したよ。 とはいえ、ほかの2人についても要所に配属させることがすでに決まっている。 そして、今回この席に呼ばれたアラウス、お前が次のクラウディアスを先頭で引っ張っていく一員となるのだ」
 そう言われてアラウスは困惑していた。 まだ年齢的にもラシルやラトラなどと同じぐらいと年齢のローブ姿の男の子、この人が――アリエーラはそう考えた。
「いかがですか、アリエーラさん。確かに若いことは若いです。 この席に中にいるメンバーの中でもそれはそれは若いことでしょう。 しかし、今のクラウディアスの重鎮軍を見てもお分かりの通り、ほとんどが若いメンバーで構成されています。 そう言うこともありまして、今回はうちでも若い衆を起用することを考え、彼に決まったのですよ。 なぁに、若いですからね、汗水たらして頑張ってもらうことにしますよ。 それこそリリアさんの言うように、取りまとめ役は雑用みたいなもんです。 今後はうちもそういう方針にしましたので、じゃんじゃんこき使ってやってください! はっはっはっはっは!」
 そう言われ、アリエーラとアラウスの2人は苦笑いしていた。