翌日、ライトニング・リュースを稼働させると、そのままクラウディアス上空で待機していた。
「結局、この時期まで設置するのを忘れていたね――」
リファリウスが言うとヒュウガが言った。
「この際だ、それもやむ無しだろう、いろいろとありすぎたからな――」
この2人とラトラは甲板のデッキの上で話し合っていた。
「とはいえ、飛翔艇を使えるのは楽と言えば楽だな、ただ下に降ろすだけだからな」
何の話かというと、フィールド・システムのゲートを設置しようという試みである。
これまではアクアレア・ゲートをはじめ、グラエスタ・シールドやフェラント・ブレードといったゲートが各所に配置され、
クラウディアスの防御に役立っていたのだが、一つだけ設置ができていないゲートがあった、それは――
「でも、どうやって”セレスティアル・クラウン”を降ろすんだ? 傾いて縦になろうもんならそのまま下界に真っ逆さまだぞ?」
そう、クラウディアスの中央に浮かせて設置する、その名の通りの天に浮かぶ冠、”セレスティアル・クラウン”である。
いや、形状は輪っかなので、さしづめ天使の輪というべきか。
「傾かないように人力で降ろすのもできないですよ、あれはなかなかの重量です、人力で抑えるのも難しいと思います。
見たところそれらしい重機を積んでいるようにも見えませんし――」
ラトラがそう言うとリファリウスは答えた。
「簡単だよ、クラウンの設置は降ろすんじゃなくて落とすんだ、それしかないね。」
何だって!? 2人は驚いていた。
「やり方はこう――まず、既存のフィールドの出力を上げるんだ。
それにより、クラウンが落ちてもまた上に浮いてくるだろう。
そのためには下界の”クラウン・サーバー”の設置が確実でないといけないから、その連絡を待ってからしないといけない。」
”クラウン・サーバー”は”セレスティアル・クラウン”に浮力を与えるための装置である。
全部でクラウディアス内の4か所に設置されていて、場所は当然非公開である。
「でも、落とすタイミングはどうするんだ?
この飛翔艇からロープで4か所から吊っている、4人でいっせーのでほどくか?
タイミングがずれて結局下界に真っ逆さまの可能性は多分にあるが――」
ヒュウガがそう言うとリファリウスは得意げに言った。
「そんなことしないよ、もっと簡単な方法があるからね。」
簡単な方法? すると連絡が――
「”クラウン・サーバー”、4か所に設置が終わったみたいですよ」
ラトラがそう言うと、リファリウスは端末を操作していた。
「よしよし、”クラウン・サーバー”も全機インストールされたようだね。
ということで、フィールドの出力を上げるね――」
すると、下界からものすごいパワーが湧き上がってきた――
「すごい力です! これがクラウディアスが保有している力というわけですか……」
ラトラはあっけにとられていた。そして、ヒュウガも感想を言った。
「なるほどな、敵対国がクラウディアスを欲しがるわけだ――」
そして、リファリウスが言った。
「せんせぇ! 出番ですぜ!」
せんせぇ? ですぜ? 2人は首をかしげていると、デッキの下からカスミが飛び出してきた――どこにいたんだよ、2人はそう訊くと、
「クラウンの上乗ってた、見晴らしすごくいい」
そう言うことかよ、2人は納得した。するとリファリウスが――
「せんせぇ! おねげぇしやす!」
その言葉遣いなんだ――2人は疑問だった。
そしてリファリウスはおもむろに何かを取り出してカスミに渡すと、彼女はそれを自分の懐に入れた、心付けかよ。
すると――カスミは剣を構えた――おい、まさか――2人は息をのんだ――
「……殺す」
カスミは目をつむってしゃがみ込み、そして刀を引き抜いた後に目を見開いて物騒な一言を吐くと、
カスミはその場から瞬時に消え去った!
彼女は再びその場に戻ってきて刀を納めると、クラウンを吊っている4本のロープが一度に切れた! 嘘だろ――
2人は慌てて下界を見下ろすと、そこにはクラウンが下界に沈んだり上に浮いて来たりを何度か繰り返していた。
そして、その浮き沈みを何度か繰り返しているうちに次第に浮き沈みの反動が小さくなり、やがて一定の場所にとどまっていた。
「ほら、簡単だった。イチゴ大福一つで済む話だったでしょ?」
リファリウスはそう言いながらフィールドの出力をもとの値に戻していた、イチゴ大福一つって?
するとカスミは懐に入れたものを取り出すと、それを嬉々として食べ始めていた、イチゴ大福――
「こんなことで食べられるんだったらいくらでもやる」
……なるほど、それなら確かに簡単だな、2人は唖然としていた。
「いや、それならむしろ、あんた自分でやれないものなのか?」
ヒュウガは訊いた。
「この間のイーガネスを斬った後遺症がまだ残っているからね。
震えは止まっていてディア様たちと乱取りする分にはわけないけど、今のをやる分には少々不安だね。
とはいえ、いずれにしてもカスミ先生の手にかかれば一番簡単に終わることだから悩む必要はないね。」
リファリウスは得意げに言うと、カスミも得意げだった。
「仲のいい兄妹だな」