エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第3部 果てしなき旅の節目にて 第7章 クラウディアスの英断

第129節 リファリウスの秘密、職人の妙技

 ディスティアの快進撃により男性陣はディスティアを褒めたたえていた。
「やるじゃねえか! なんだなんだ、何がどうなっているんだ!?」
 クラフォードがそう訊くとディスティアが言った。
「そう言われましてもねえ、あれはあの人の真の実力ではありません――」
 えっ、嘘だろ? あのリファリウスのほうは今回結構必死だった、 それでいてなおまだまだ本気ではないなんてことないだろ、ティレックスが言うとディスティアは答えた。
「あの人はそもそも”ネームレス”です、つまりは真の実力というものが秘められているハズなんです。 それを無視してあの人の本気とは言えません」
 あっ、そうだった――アンブラシアからの迷い子で、記憶はおそらく完全ではない。 つまりは使用する力のほうも完全ではないということか、クラフォードは納得した。
「ちっ、ぬか喜びさせやがって、あの野郎――ぶっ飛ばす糸口が見えたかと思ったのに」
 アーシェリスはがっかりしながらそう言った。それに対してフェリオースは呆れていた。 ディスティアはさらに続けた。
「いえいえ、そもそもそれがたとえ”ネームレス”であることを抜きにしても、あの人からは常に手を抜かれていることになります。 そう――リファリウスさんに相手をしてもらうということは、手加減してもらっているということと同義なんですよ」
 なんだそれ――イールアーズはそう思いながら言った。
「だいたい、こっちは得物を両手で持っているのになんでやつは左手片手なんだ? つーか左手が利き腕なのか?」
 クラフォードが答えた。
「いや、あいつは右が利き腕だ。 だが、非利き腕で持っているというのは決して手加減ということではない。 そもそも論として、あいつは戦士である以前に作り手なんだ。 つまり、あいつの腕は戦士の腕ではなく職人の腕、特に利き腕である右腕は職人の命とも呼べる大事な部位と言える。 だからそれを守るために必然的に左腕で戦うようになったというのが正しい見方だろう、 故に両利きという表現のほうが本当は正しいのかもしれないけどな」
 そういえばそうだった、イールアーズは言った。
「右手と言えば、随分前に魔法を使うのなら右手って言ってたか?」
 ティレックスは頷いた。
「ああ。ただの鍛冶職人というだけでなく、エンチャント職人でもあるあいつのことだから、 主に魔法を発動するための右腕はなおのこと大事なんだろうな。 でも、この間なんかイーガネスをぶった斬ったじゃないか、あれは流石に両手だった。 俺は技使って意識がもうろうとしていたけど、あいつ、 あの反動で手が震えてたじゃないか、後になってちょっと心配だったよ。」
 それはそれでみんななんだか悩んだ様子で何も言えなかった―― なんだ、案外みんな、なんだかんだ言ってリファリウスのこと心配しているんじゃないか、ティレックスはそう思った。
「てか、両手で武器を握ること自体は珍しくないけどな。 例の”兵器”や大剣の類は大きさの問題か、両手で持ってやってる事のほうが多い、大剣は特にな。 刀も本来なら両手剣になるはずだが、デカイやつは両手で、そうでなければ左手で振っているな」
 じっと眺めていたガルヴィスにそう言われてクラフォードは言った。
「そうだ、訓練の時はだいたいこれぐらいの木刀だから片手だが、いざデカイ剣持たせると両手だったな。 でもあいつ――よくわからないのが、大剣なんだから力任せにぶったたけばいいと思うんだが、なぜそれをしないんだ?  そんな感じの使い方をしたのをあまり見たことがないんだが」
 ガルヴィスが答えた。
「そうでもない、俺はやったのは何度か見たことある。 だが、はっきり言ってあいつはひ弱なんだ、イーガネスの戦いのときにも言ってただろ?  力で押し込む戦い方は苦手で、技を以て切り刻むというのがあいつの戦い方だってな。 よくはわからんが、あいつの言うとおりなら純粋な腕力任せの戦いだけに縛ったらあいつに勝ち目はなくなるってことだろうな」
 するとそれに対し、ディスティアは妙に納得していた。
「なるほど――確かにそれはそうですね!  私らと同じように腕力を鍛えたところであの人は私らとは確実に差ができてしまう、 私らのほうに分があることになるのは必然だと思います!  それで技ですか、なるほど――それは当然と言えば当然ですね――」
 いきなりなんだよ、イールアーズは訊いた。
「あっ、いえいえ、ちょっと、妙に納得したもので。 ですが、それでもあれほどの腕力を持っているというのも逆にすごいなと思います。 アンブラシア民故ということかもしれませんが、その分かなり努力されたんだと思います!」
 いや、ますます意味が分からんのだが、かなり努力って――
「とにかく、そういう背景があるのはわかった。 大剣ほど大がかりな”兵器”だが、あえてあの大きさを生かさない重さをしているのもそれが理由なんだってことが大体わかった」
 クラフォードが言うとイールアーズは訊いた。
「大きさを生かさない重さ? なんだそりゃ?」
 ディスティアが答えた。
「あれ、見た目に反して想像の2~3割程度の重さしかないんですよ。 あの型の得物なら普通は3kg以上はあってもおかしくないハズですが、 持たせてもらったところ、あれはせいぜい400gぐらいしかありません」
 知らなかったものは至極驚いていた。
「……”兵器”とはよく言ったもんだが、それであんな武器でも軽々と使っていられるんだな。 だが――扱いやあいつのその戦い方から軽いとは思っていたが、そんなに軽いのか?」
 ガルヴィスも耳を疑っていた。