いつものテラスのところへとやってきたクラフォード、あれ、リファリウスかリリアさんは何処だろうか……
そう思っていると、リファリウスがテラスに並べられていたプランターを作業台の上に乗せて花の手入れをやっていた。
「お前さ、案外花好きだよな」
クラフォードはそう言うとリファリウスは手入れをしながら答えた。
「まあね。ちなみに今、間引きをしている。
品種改良をしてなるたけ大きく目立つ子だけをなんとか伸ばそうという試みだよ。」
クラフォードは呆れながら言った。
「どんな生物だろうと生存競争には必死だな、それがたとえ植物でもな」
「んー? よくわかんなかったな、皮肉のつもりだったのかなー?」
「いや、純粋に思ったことを口にしたまでだ、何でもかんでも勘ぐるんじゃねえ」
「そうだったんだ、なんか含んだような物言いだったからてっきりね。」
「それは俺が悪かった」
改めて、今度はリファリウスから話を切り出した。
「ところで里帰りしたんだよね、アンブラシアに修行に行ってしばらく帰ってくるなって言われたクセに。」
クラフォードは得意げな態度で答えた。
「ああ。でもそんな逆境の中で帰るのも修行の一つだ、精神が至極鍛えられる。
ついでを言うとやんなきゃいけないのは戦いだけじゃないんでな。
念のために断っておくが俺はティルアの自衛団団長だからな、やんなきゃいけないことはいろいろとあるんだ。
もっとも、俺を団長にしたのはしばらく帰ってくるなって言ったあのノンダクレオヤジなんだがな。
とにかく、今回はとりあえず仕事を片付けてきた、残っている分にはアトラストとかにとりあえず処理させるつもりで話をつけてきた、
これで心置きなくアンブラシア編に移行できるってわけだ」
リファリウスは得意げに頷いた。
「結構。グレート・グランド軍はその点、スマートに決まるからいいよね、見習いたいものだね。」
「いや、見習わないほうがいいぞ。
スマートというよりは権力が一番あるやつの一存だけで決まるからな、そいつが言ったらみんな”それでいいや”で即決しちまう。
それこそ、俺が下手なこと言っても”それでいいや”で即決するぐらいだからな、無性に腹が立ってくる。
仕方がないから”ごく限られた優秀な人材”の間で考えてから発言するということになっている。
”ごく限られた優秀な人材”だからな、その数もたかが知れている――苦労しなくていい者が一番割を食っているのがあの国の特徴だ」
クラフォードはつまりとても苦労しているようだ。お察しします。
「その点、お宅は推考が必ずなされている上で割と独断専行でもきちんとうまくいっているところだってあるじゃないか、見習いたいもんだよな」
リファリウスは腕を組んで得意げに話した。
「まあね、”あるべき”が成されていないとなると、そこははっきりと物言いをさせてもらうよ。
でも、それでも成されていないとなると、そこには何かしらの原因がある――そしたら今度はそこを徹底していくまでさ。」
その”あるべき”というのが何なのかがある意味重要だったりするわけだが。クラフォードは続けた。
「それだけじゃないだろ。
俺が言いたいのは、この国がどうしてここまで変わったかだ。
政治の改革までしているし、経済だって以前に比べたらとんでもないことになっている、
今やエンブリアの中でも1位2位を争う最大の経済都市として発展しているじゃないか、
スクエアですら目じゃないって感じだしな。
それは”あるべきを成した”という話だけではない気がするんだが?」
リファリウスは答えた。
「言っただろ、私の能力ではできることとできないことがあるって。
そもそも政治なんてのは苦手だし、正直なところ、そこまで興味はない。
ただ、私としてはやりたいことを主軸に掲げ、それの実現のためにロードマップを作成しているだけだ。
そのうえで足りないことやできないことがあれば、どうすれば実現できるかを改めて考えればいいだけで、
あとはひたすらそれを繰り返すことで極力ゴールへと近づけていくだけのことだよ。
私ではできないような政治関連の面倒な部分はそれの専門家に投げて決着させているしね。
ただ、こと経済については私も口出ししている、
知っての通り”資産管理”について各国に働きかけているのは私だし――つまりは”資産管理”といえば資金も対象になるしね。」
クラフォードは訊いた。
「そういえば随分前にそんな話をちらっと聞いたことがあったな、
しかもその内容はリリアリスも同じことを言っていた気が。
ちなみに特別執行官・経済部門を謳っているのはやっぱり経済学が得意だからってことか?」
リファリウスは首を振った。
「んなまさか。ただ、自分で作ったものを売る上で気にしないといけないものはある程度気にさせてもらうよ、
要はその延長ってことだね。」
やっぱりクリエイターならではの発想からきているところだったか、
それもまさに以前にどこかで聞かされたこと――クラフォードは悩んでいた。
「クリエイターはそこまで気にしないとやってられないのか、初めて知った。
てっきり頑固一徹の職人気質というだけのそれだと思ってたんだが――」
リファリウスは得意げに話した。
「ああその通り、職人は頑固一徹だよ。だから拘るところは徹底的に拘らせてもらうよ。
そのうえで気にするところ、考えないといけないところ、
マネジメントのレベルから採取・加工・製造・流通・販売まで通しで考慮させてもらった結果、
これこそが最善と思える完成形ができるまで、徹底的に追及させてもらうよ。」
こいつ、マジでヤバイ……。
わからんでもない気がするが、それは追い求めすぎなんじゃあ――
「それこそ、私の戦いの腕なんかも戦士になりたいとかそういうことではなく、
武器を作る上でどういう完成形を目指せばいいのかを実戦で確かめてみようというところに端を発する。」
は!? クラフォードは愕然としていた。
「嘘だろ!?
つまりはただの頑固一徹の職人が、武器の完成形を追い求めた結果に戦士になっただけだってのか!?
あんな技を振るう戦士に!?」
リファリウスはニヤっとしながら答えた。
「もちろん。
戦士1人とっても扱いが全く異なる、クセというやつだね。
だから市販の武器は間をとって万人受けするようなバランスであろう品物として販売されている。
私が不特定多数向けに作る武器についてもそうだ、そのあたりはきちんと考えて作っている。
といっても、オーダーメイドに関しても残念ながらその域からは出ていない。
理由は簡単、残念だけど他人のクセまでは理解しきれないからだ。
とはいえ、それでも精度を突き詰めようと努力はしている。そのためにはまずは少なくとも戦いの経験を積むこと。
とにかく実戦を重ねることでいろいろと試行錯誤をして、より柔軟に扱えるような代物として提供できるようになっていくってわけだ。」
聞けば聞くほどますますヤバイやつだった。
いや、考え方は素晴らしいのだが、その結果に二足の草鞋というか多足の草鞋というか、二刀流というか多刀流というか――
「でも、武器職人が武器を作ってさらに品質を追及するために武術を嗜んだ末にあの腕って相当におかしい気がするんだが――」
「そうかな? 私としてはそれこそ究極系へと突き詰める上では至極真っ当な考え方だと思うんだけど。
だから武術を”嗜む”程度じゃあ足りない。
それこそ、いわゆる”最強の敵”を倒すのに耐えうる品を作るのであればいわゆる”最強の敵”に挑んで確かめる必要もあるよね。
つまり、私としては武器職人の武術は”嗜む”ものではなく”ガチで取り組むもの”だと考えている。
どうかな、どこかおかしいこと言っているかな?」
……クラフォードはもはや何を言い返していいのかさえ分からずにいた。
「なるほどな、あんたの行動原理と持っている能力のそれについては1から10までクリエイターとしての能力を高めた結果の副産物だったってわけか――」
リファリウスは得意げに答えた。
「うん、理解してもらえたようで何よりだよ。」
冗談で皮肉を言ったつもりなのに! クラフォードは頭を抱えていた。
何度も言うことになるが、こんな変わったやつ初めてだ――究極のクリエイター、恐るべしである。
「こいつ……バケモンだ……」
「あははっ、久しぶりに言われたなあ、そのセリフ。」
……だろうな。てか、久しぶりというのは……よく言われるの間違いでは――。