そのうち、いつの間にかあの集団がそこへと集まり、リファリウスとアリエーラもその輪の中に加わっていた。
「”幻界碑石”、この国のルーツか――」
ティレックスは碑石に手をつき、その石からものすごいパワーを感じ取った。
「というか、一体なんなんだ、”幻界碑石”って。
いや、わかってはいるつもりなんだけど、具体的にはあまりよくわかっていないんだよな」
アーシェリスは訊いた。
「幻界碑石、向こうの私の世界とつなぐ、大きな力通り道、その”標”。
戦闘や私生活で”魔法”などが使える、その通り道のお陰」
カスミが小さな声でそう言った。
「ど、どういうこと? ”標”ってことは、あの精神トンネルのあれと同じ考え方でいいのかな?」
オリエンネストがそういうと、ティレックスが答えた。
「要するに、この石は平たく言うと”幻界”っていう世界とつながっていて、
石自体はこの世界とをつなぐトンネルの役割をしているんだよ」
「てか、この石のトンネルが解放されたのって、比較的つい最近って話だろ?
その前からも”魔法”とか、普通に使われていたと思うんだが、
何故この石の力が必要不可欠になるんだ?」
ガルヴィスは疑問をぶつけてきた。
「いや、必要かどうかと言われれば、むしろ必須ではないというのが正式らしいな。
実は、昔に比べたら魔法の力というのは強化されている。
つまり、解放前に使えなかったスゴイ魔法が、今の時代なら普通に使えたりするというのが真相らしい。
俺が知っているのはせいぜいこの程度だ」
アーシェリスは淡々と答えた。まさに精神世界の中枢とも言えそうな幻界という世界、
魔法に与える影響は計り知れないものがあったということらしい。
「そうか、カスミさんって召喚獣だから、つまりはそのトンネルを通ってきたってわけだね!」
オリエンネストはそう言うとカスミは頷いた。すると、彼女に対し、ティレックスが言った。
「それにしても――カスミさんって、まさに見かけによらないよな。
最初は本当に見たままの子供って印象でしかなかったんだけど、
そのあとすぐにとんでもない剣術を見せられ、
実は思いのほか長い間生きてるとか、最初のイメージからまたずいぶんと変わったよ、もはや人生の先輩か……」
カスミはなんだか得意げな様子だった。
「おねーちゃんの言うことはちゃんと聞きなさい」
……例のあの人のまねはしなくていいんだが。
すると、オリエンネストが言った。
「……うーん、僕としては、そもそも話が複雑すぎてよくわからないところがあるんだけど……。
言うなれば、僕なんかは途中参加で案外わからないところが多かったりするんだ。
なんか、理解するのに手っ取り早い方法ってないかな?」
オリエンネストはティレックスに訊いたが、ティレックスは前向きに答えた。
「そいつはいい質問だ、というのも、実は恐らく早い段階で参加している俺ですらまだ理解が追い付いていないことが多い。
今のところ、とりあえず同道してみるのがいいかもしれないと踏んでこそいるけれども、
実のところ、結局、何がどうなってここにいるのか全然わからずにいるっていう状態なんだ」
それに対し、オリエンネストはがっくりとした様子で言った。
「”ネームレス”? 確かに、どうして僕はここにいるんだろう、”ネームレス”、いや、僕は一体……」
ティレックスはなだめるよう用に言った。
「だっ、大丈夫か? ま、まあ、気を落とすなよ――」
ティレックスは話題を変えて言った。
「言ってもあれだ、ここにいる連中の何人かは結構何かしらの事情を抱えて望んでいるやつが多いからな、
オリのような”ネームレス”に限らずな。
例えばそう――あそこにいるあいつなんかもそのうちの1人だ――」
それは、アーシェリスのことだった。
「ん? 俺? まあ、そうだな、悲惨と言えば悲惨、いろいろとあったけど、
前に比べたら丸くなったと思う、以前はずっと尖っていたからな。
まあ、復讐の話なんだからそもそもが暗いエピソード、あのときは仕方がなかった気がする」
丸いか? あのリファリウスに対する激しい当たりよう、丸いとは到底思えないんだが――ティレックスは密かにそう思っていた。
ともかく、ティレックスは話をした。
「復讐か。
実は俺自身も本当はちょっとカタキみたいなのもあってさ、その延長で結果的にここにきているようなもんだ」
そこへオリエンネストが話をしてきた。
「そう、そうだよね、何だかんだあったけどさ、こうして僕達は知り合えたんだ、
なんだろう、なんだかすごいよね、まあ、ボクはリファリウス君に知り合えたことでここにいるんだけどさ」
ティレックスは言った。
「そういえばそうだったな、リファつながり……いや、リリアさん繋がりだったと思うんだが、ま、あの2人のことだからどっちでもいいか。
というか、言ってしまうと、実はここにいる連中はだいたいあの人たちつながりなんだけどな」
オリエンネストは驚いた。
「えっ、それっていうのは、つまりティレックス君もなの?」
「ああ、それこそ、俺はほとんど初めからあいつに世話になっていた感もあるぐらいだけどな」
アーシェリスも話に参加した。
「俺も実はほぼ初めから感があるな。
あいつにはいろいろと世話になったな、なんていうか、自分の無力さを感じるぐらいにな……」
だからこそのリファリウスに対する反骨精神が働いているのか……ティレックスは少し悩んでいた、この先そんなんで大丈夫か?
しかし、無力と言えば――ガルヴィスが話題に入ってきた。
「無力か、お前らが無力っつってもな、そもそもあのリファリウスのやつが自分を無力と語っている。
やつがそうなら、お前らは何なんだろうな。それこそ、俺自身も……ふん、嫌な話だぜ」
そういえばそうだった、例の”フェニックシアの孤児”のエピソードを聞かされるといろいろと辛いが、
それで一番つらくなっているのが当のリファリウス本人である。
あれは確かに、誰しもがその話を避けたいほどの内容である、
話そうものならリファリウスが半日落ち込むようなもの、
そんなリファリウスを見ている側としても非常につらいものがあり、
故に今ではフェニックシアも無事に復帰を果たしたこともあってタブーとされている。
ところで、そのリファリウスだが、今は――
「で、問題はあれだよな――」
ティレックスはリファリウスのいる方向を指さした。
アーシェリス、ティレックス、ガルヴィスの3人は周囲女子ばっかり……と心の中で叫んだ。
「……あの優男め、いい加減にしろ」
アーシェリスはそう言った。それに対してティレックスが言う。
「……いや、俺としてはあれこそが普通に思えてきたな。
むしろ、あれが成立しないほうがおかしい。
なんていうか、普通に滅茶苦茶馴染んでいる、妙な光景と言えば妙な光景だが、
それがリファリウスだってことになると――なんかまったく違和感を感じなくなったな」
そうか? アーシェリスはそう突き返してきた、やはり彼は納得がいかない様子だ、それなりの事情もあるわけだが。
一方で、話を抜け出してオリエンネストはリファリウスのほうへ向かっていた。
「リファリウス君!」
「あ、オリ君か、どうしたのかな?」
そんな様子を見ていたアーシェリスは言った。
「それにしても、オリエンネストもよくわからないやつだよな」
ティレックスは頷いた。
「俺もそう思った。
なんつーか、リファリウスって女性には対応が甘い反面、男に対する塩対応っぷりにすっかり定評があるやつだけど――
なんでオリには甘いんだろうなって思って。なあガルヴィス、あれってどういうこと?」
「知るか、俺に訊くな」
ガルヴィスは迷惑そうに答えた。そうか、知らないのか……ティレックスは首をかしげていると、ガルヴィスは続けた。
すると、リファリウスがその男3人に向かって得意げに言った。
「こらこら、何をそんなアリエーラさんはキレイだからお付き合いしたとか結婚したいだとかいう話をしているのかな?
言っとくけど、アリエーラさんには指一本触れさせやしないからねー♪」
「んな話してねーよ」
ガルヴィスは答えた。
「つーか、お前が指一本触れんじゃねーよ!」
アーシェリスは付け加えた。
「まあ、それよりも、キミらもこっちにきなよ、ちょうど昔話をしていたところだったんだ。」
昔話?
「はいはいはーい、殿方もこっちに集まれー!」
エミーリアがそういうと、殿方もそこへと集まった。
「何の話?」
「いやね、女王陛下がいろいろと聴いてみたいっていうからさ、
もしだったらキミらもどうかなーと思ってさ。」
「聴いてみたーい!」
すると、殿方も納得した。
「ちょうどよかった、僕、いろいろと知らないことが多いんだよね!」
オリエンネストが答えた。
「そうだよな、このあたりで話しておくのもありか」
ティレックスは言った。
「まあ、この際だからそれもいいだろう」
ガルヴィスが言った。
「そうだな、それもいいな、話が複雑になってきているし」
そうアーシェリスが言うと、リファリウスが言った。
「んじゃあ、そうだなと言ったキミが一番手ね。」
「はっ!? なんでそうなるんだよ! ふざけんな――」
しかし、周囲はもうすでに拍手していた。アーシェリスは仕方なく話をし始めた。