エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第2部 果てしなき旅へと連なる試練 第5章 天使の再起動・最終章

第118節 簡単な答え合わせ、攻め手の真実

 イーガネスは二度と起き上がることはなかった。
「どうやら、今度こそくたばったようだな。それにしてもとんでもない敵だった――」
 イールアーズはその場で項垂れていた。
「にしても、おぜん立てするのも楽なもんじゃないな。 もし、あれで外そうものなら――ま、外すわけねえか」
 ガルヴィスは下界へと降り注いできたそいつに対してそう言った、 そう、下界へと降り注いできたもの、そいつはリファリウスだった。
「ああ、責任重大だね。 にしてもディア様、休んでいるといいよって言ったじゃないか。」
 えっ、ディア様? そういえばディア様の姿が見当たらない。 するとそれに対し、もう一人のリファリウスが言った。
「何を言っているのかな、ディア様なんてどこにもいないだろ?  私は私、それ以外の何者でもないよ。」
 そう言えばそうだ、何がどうなっている!?  よくわからなかった者は首をかしげていた。するとイールアーズが言った。
「さっき、あいつに剣閃飛ばした時の動作でわかった。お前、ディルフォードだろ。 あれができるやつ――ほかにできるヤツを俺は知らない、 リファもできるってんなら話は別だがな」
 すると、彼は変身を解いた。やはりイールアーズのにらんだ通り、 ディルフォードことディスティアだったのか。
「少し前に変身術とやらをやっていたことも考えると――まあ、そうだろうなと思っただけだ」
 と、イールアーズは言った。するとディスティアは言った。
「そう言うことですね。 というか、リファリウスさんだったらもっととんでもない体勢でとんでもない技が使えそうな気がしますが。 でも、戦ったのはあくまでリファリウスさんであり、私ではありません。 もっとも、そのせいでリファリウスさんが2人いることになってしまいましたが――」
 それに対してクラフォードが言った。
「いや――でも、地上にリファがいたことで空から降ってくるハズのリファの存在が完全に消えたよな、 つまりはそういうことだったのか――」
 ディスティアは笑顔で答えた。
「ええ、そのほうが効果的ですしね。 それにリファリウスさんは私には戦わないで休んでろって念押しで言うもんですから、 リファリウスさんに扮してなんかやれってことだとすぐに思いました。 せっかくなのでおっしゃる通り、リファリウスさんがずっと地上にいることをアピールすれば、 天空からの一閃も決めやすいかと思いまして――」
 直接言えばいいんだが。まあ、そこがリファリウスらしいと言えばその通りなんだが。フィリスは頷いた。
「それに、背中をなんとかとるのもだいぶ大変だったけど、ずいぶんとうまくいったもんだね」
 ヒュウガは傍らでティレックスが完全にダウンしている隣に座っていた。 ティレックスは月読式破壊魔法剣を使用したときの反動で体力を大きく消耗し、身動きが取れなかった。 その隣にはユーシェリアが彼の頭を優しくなでていた。
「イールが突き飛ばしたのもだいぶ利いているしな。 そのせいで、あいつにとっても一見すると有利な位置に移動したことになる」
 イーガネスは建物の隅に立っていた。確かに後ろは壁、一見すると背後を取りにくい場所だが――
「背筋のツボを刺されて痛いところ、なんとか我慢して剣をふるえば勝てるだろう、 しかもここは都合がいいことに背後がとられにくい隅っこ……それで安心したのが運の尽きね。 残念ながらこの上は吹き抜けの構造、空からの攻撃に気を付けていなければ同じことよね」
 と、フロレンティーナが言った。だが、そのうえで問題は――
「地の利を得てまず動かないだろうポジションに追い込んだはいいが、 あとは如何にして、背中刺されて下を眺めて戦う猫背の魔人の背中を安定して上空に向けさせるようにおぜん立てするかだな」
 と、クラフォードが言った。さらに続けた。
「とにかく挑発はどんどん続けろってことだな、アタッカーとディフェンダーの関係、まさに基本に忠実ってわけか」
 アタッカーが攻撃を行い、ディフェンダーが敵の攻撃を肩代わりするという基本戦術。 だが、そのディフェンダーがディフェンダーとして機能しなければ意味がない、アタッカーに攻撃が向いてはならないのだ。 そこでディフェンダーに如何にして注意を向けさせるか、そこがポイントとなる。
「……エンブリアでは結構好き勝手に戦ってきましたが、アンブラシアの敵は強いですね。 こと、”インフェリア・デザイア”が相手となると、みんなでフォーメーションを組んで基本忠実にして戦っていかなければ勝ち目はなさそうです――」
 と、ディスティアが言うと、イールアーズが「そうか?」と訊いてきた。 確かに下層で戦った”インフェリア・デザイア”についてはそこまで強くはなかったが――
「それはそうだろうな、確か”インフェリア・デザイア”ってやつは派閥みたいなものがあって”協力関係”を結んでいる、 でも、その中でもイーガネス一派の”猛攻派閥”ってのは”インフェリア・デザイア”でも実力は最下位、 だから、ほかにもいるその”インフェリア・デザイア”はこいつらよりももっと強いってわけだからな、 イーガネスでここまで苦戦しているようだと戦い方を改めて考える必要があるって話になりそうだ」
 と、クラフォードは難しい顔をしながら言ったが、しかしそういえばこういう場合に限って何か言うはずのやつが一言も発しない。
「どうしたのです、リファリウスさん?」
 ディスティアがそう訊くとリファリウスは言った。
「いや、いくら何でも硬すぎだろあいつ――と思ってね。 確かに力に頼らなくても重力加速度を利用することで相手の防御を確実に貫いて攻撃できるとは考えたけど―― 見てよほら、ものすごい勢いで引き裂けたけどその反動で手が震えてるよ。 これじゃあ剣を握るのもままならないかもね――」
 その手はアリエーラが両手で優しく握りしめていた、いいなぁ……。 リファリウスの言うように、”兵器”はそのまま地面へと思いっきり突き刺さっており、自分で拾うに拾えないでいたようだ。 地面にはあっさりと食い込んだようだがそれよりもイーガネスのほうが硬かったということか。
 フィリスは立ち上がり、”兵器”を抜き取った。
「これは私が持ってるよ。さて、それよりも問題は長居は無用ってこと。 異世界に来たはいいんだけど戻り方は――」