難なく精神世界を進んできた一行はいよいよラストスパートを迎えることになった。
「塔って言っていたが、ただの大きな一枚扉じゃないか」
ティレックスはそう言うとリファリウスは頷いた。
「いずれにせよ、出口ってわけだね。ただ問題が一つ――これ、どこに出るんだろう?」
確かにそれが問題だった。だがしかし――
「どこでもいい、さっさと出てさっさと”イーガネス”ってやつをぶっ飛ばそうぜ」
イールアーズは前に出て、扉に手をかけた――
「おっ、おい! イール!」
クラフォードがそう言うとガルヴィスも――
「まあ、それしかねえな。
ここまで来て準備も何もあったもんじゃない、行ってから考えるほかねえな――」
するとガルヴィスは扉の右側に手をかけた。
イールアーズは左側に手をかけると、2人で力強く扉を開けようとしていた。
「あいつら、マジか――」
ヒュウガは悩んでいた。
「やれやれ、せっかちだな」
フィリスは呆れていた。
しかし扉を開けた途端、そこは――
「あれ? 私たちいつの間に外へ!?」
アリエーラは気が付いた、そこは何処からどう見ても精神世界ではなく、現実世界である。
「ど、どうなっているんだ!? というかここは何処だよ!?」
イールアーズは慌てふためいていた。
「だが、少なくともフェニックシアというわけではなさそうだ。
見ろよ、この轍――少なくともどこかの街道のようだ――」
クラフォードはその場にしゃがんで確かめていた。
「おい、リファリウス! ここ、どこだ!? 本当にここは異世界……いや、”アンブラシア”で間違いないんだな?」
ガルヴィスはそう訊くとリファリウスは悩んでいた。
「うーん、これだけの情報量じゃあなんとも。
とにかく、まずはここがどこなのか確かめる必要がありそうだ。」
自分たちの身体はどうやら実体に戻っているようだった。
おまけに身の回りの携行品もそのままだった。
「お宅ら”ネームレス”が無事にエンブリアについているから心配はなかったんだが、
身の回りの品もそのまま精神トンネルを通ってきているのもやっぱりあくまで半精神体であったが故のことなんだよな?」
クラフォードはそう言いながら改めて自分の持ち物をチェックしていた。
彼に続いてほかの者もチェックをしていた。だが、そんなことをしている暇はなかった。
「気をつけろ、魔物がいるぞ!」
ディスティアは注意を促すと、全員、注意を向けていた。
しかしその魔物は――
「なんだあれ? 犬か? 犬にしては二足歩行とか見たことのない魔物だな、やっぱりここは――」
と、イールアーズが言うと、リファリウスはとっさに背後を向いた。
「みんな気を付けて! こいつら”コボルト”だ!」
”コボルト”だって!? まさか!? エンブリア勢は驚いていた。
「”コボルト”ってあのコボルト!? 半人半獣で犬のような獣の姿をしているっていう、あの幻にして伝説のモンスター!?」
ティレックスはそう言うとアーシェリスが言った。
「まさか空想世界の魔物がいるとは――いや、ここが別の世界――つまりアンブラシアだからいると言われれば……つまりはやっぱりここは――」
すると、リファリウスは何かに気が付いて上を見上げていた。
リファリウスの向いている方向には山があり、さらに別の方向を向くと、そこには海があるようだった。
「あの山とあの海の位置関係に、そしてコボルトの出る街道ということはつまり――」
アリエーラが答えた。
「なるほどです、つまりここは”ハルメア”の西に延びている街道のどこかということですか――」
”ハルメア”!? 何人かはそう訊こうとしたが、
「説明は後! それより、こいつらを退けるのが先決!」
フィリスにそう一喝され、全員は戦闘態勢に入った。
「それにしても挟み撃ちか――アンブラシアに戻ってきて早々こんな目に合うなんて――」
リファリウスはゆっくりと”兵器”を取り出しながら言った。
一行は果敢にコボルトと戦いを繰り広げていた。だがしかし――
「くそっ! 魔物のクセにずいぶんとやるじゃねえか――」
イールアーズは剣を持っているコボルトと激闘を繰り広げていた。
「にしても魔物が得物を持っているというだけでも驚きだが、同じコボルトなのに持っている得物も別々なんだな――っ!」
クラフォードはコボルトの射た矢をかわしながら言った。
「そうだ、私らが感じた違和感の一つ、エンブリアには知恵のある魔物が一切いなかったことがあげられる――」
リファリウスは敵の攻撃をスイスイとかわしながら次々とコボルトをいなしていく。
「てことは何か!? こいつらはまさにその知恵のある魔物ってところか!?」
アーシェリスは驚きながら訊いた。
「うっ、技決まらない――このままじゃあマズイ――」
カスミはぐずったようにそう言った。すると――
「面倒。適当にあしらってずらかる」
カスミが大技を発動! リファリウスよろしく、一斉に風の刃を投射して敵をひるませていた!
「なかなかやるな――」
ガルヴィスがそう言うと、リファリウスが言った。
「ありがとうカスミん! さあ、今のうちに逃げよう!」
逃げるって――イールアーズが言った。
「はあ!? 冗談じゃねえ! 敵とあらばすべて倒すまでだ!」
しかし――
「るっせえ! 言ってる場合か! 目的はそれじゃねえんだよ! いいから黙ってさっさときやがれ!」
ガルヴィスは堪忍袋の緒が切れ、イールアーズを思いっきり殴り飛ばすと、彼は気を失った。
そして彼を担ぎ上げると、全員はそのままその場を離脱した。