エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第2部 果てしなき旅へと連なる試練 第5章 天使の再起動・最終章

第109節 新たなる世界観、標の道

 そして、一行はすべての準備を整えた。
「どうだった?」
 リファリウスはエレメンタル試し切り勢に訊いた。
「ええ、なんていうか、普通の敵を切るときには困りますが、 まさにエレメンタル・キラーですね、そういう相手をする場合はストレスなく切り刻めます、世界観が変わるほどですね!」
「まったくだ、あまりに楽に切れるもんだから目を疑うようなレベルだな。 あれ、俺って誰を相手にしているんだっけって感じだ。 まあ――普通の敵を切る分には今までの得物を使ってりゃ十分なワケだが」
「ふん、面白いものを作るじゃねえか。 これで俺の技を叩きこめる相手が増えたってワケだ――」
 エンブリアの強豪である元・万人斬り、万人狩り、そして鬼人の剣からお墨付きをもらえたようだ。
 一方で、精神トンネル試し切り勢は――
「なーんか、ほとんど俺の出る幕がなかったな……」
 ヒュウガが呆れながら言うと、フィリスが言った。
「ちょっと、さぼらないでよ、あの数相手にするのって結構大変なんだからさ」
「でも、それにしてもフィリスさんってすごいです! 普通の武器なのに軽々あの魔物を斃してしまうなんて!」
 アリエーラも興奮しながら言うが、フィリスは――
「私よりもアリのその武器のほうが絶対におかしい……すごいと思うよ――」
 呆れていた。それに対してリファリウスは言った。
「その様子だとみんなうまい具合に行ったようだね!」
 オリエンネストが答えた。
「リファリウス君のおかげで精神トンネルの通り抜けができそうだよ!」
「俺も素材を作ったんだが――」
「も、もちろんだよ!」
 ヒュウガとオリエンネストのそのやり取り、アリエーラは口を手で押さえて笑っていたが、ガルヴィスは冷静に見ていた。
「おかげっちゃおかげなんだが、金とっているんだよな――」

 ということで、精神トンネルへと進むことにした一行。 これが精神の世界か、初めて見た者はその光景に圧倒されていた。 確かにその光景はまるで森のようでもあった、これが”アルフラドの森”の正体か。
 精神世界というのはこの世界の、エンブリアの根幹でありこの上にエンブリアが成立していると言われてもよくはわからないが、 でも、それはぬぐえない事実――なんていうか、温かいものを感じた。
 自分たちの身体は明らかに透けており、今の自分たちはまさに精神体というわけか。 そんな身体でとても広く、とても温かい魂たちの世界、まさに幻想的なその光景はやはり現実世界エンブリアとは違うものであることを感じさせた。
 だが、精神世界という割には伸びている道が一本道というのがよくわからなかった。 精神世界というからにはもっとこう、魂が自由に行き来できるような世界だと思うのだが――
 それについてはリファリウスが言った。
「残念ながら、私らには物理的な体があるからね。今のこれもほとんど疑似的なもので、さしづめ半精神体といったところだろう。 つまりは物理的な体というのがあることで、精神だけの世界では制約というのができてしまうんだ、自由に行き来できないという制約がね。 精神だけの世界では半精神体は移動することができないんだ、本来ならね。」
 それについてはヒュウガが話した。
「それってあれだろ、エンブリス・プロジェクトのやつだろ? 俺も読んだことあるぞ。 半精神体は物理的な体があるがゆえに精神だけの世界では移動ができなくなってしまう。 では何故、物理的な体を疑似的に有するもの、つまりはエレメンタルやその辺の幽霊は移動が可能なのか、 そう、彼らは”標”というものに向かって移動しているからということが分かったのである、と――」
 ”エンブリス・プロジェクトのやつ”と”読んだことある”…… どうやら”エンブリス・プロジェクト”というものが実際にあったということは確実のようだ。 なるほど、思い出したんだな。まあ、その話はこの際後回しにしよう。 ともかく、その”標”とは? 何人かが訊いた。
「”エンブリス・プロジェクト”の肝は”異なる世界に入る方法”と”半精神体の移動方法”の2つが軸にある、まずは”異なる世界に入る方法”から説明しようか。 これは簡単だ、異なる世界に入る方法も家とかと同じで入り口からしか入れない。 問題はその入り口が何かっていうところだけれども、2本の柱を”ゲート”に見立てることで異世界への扉が開くということらしい。 どう開くのかについてはともかく、最低でもその下準備がいることだけは確実のようだ。」
 そして次に”半精神体の移動方法”だが、クラフォードは思い出した。
「そういや、お宅ら”ネームレス”がエンブリアに引っ張られた理由も含めて”標”の話を聞いたことがあったな。 ”エンブリス・プロジェクト”について思い出しているみたいからこの際訊くが、 その2つの軸を検証するためにエンブリアが作られたんじゃないかって言ってたか。 その考えは思い出した今でも変わらないか?」
 リファリウスは頷いた。
「我ながらよくわからないもんだ。 思い出したのか、それとも再びそう考えたのかもはっきりしないことだ。 そう、エンブリアは検証の場――”アンブラシア”からエンブリアを生み出し、 ”異世界エンブリア”へと精神世界を経て移動可能かどうかを検証するために作ったのが始まりだった。 そのためには”異世界エンブリア”へと赴くための”標”が必要で、 赴くということは当然”アンブラシア”に帰るための”標”も必要だった。 つまりはこの道はその当時に2つの”標”によって形成された道であり、 ”エンブリス・プロジェクト”の際に作られた道であるということだ。 だから我々が移動可能な精神世界の範囲は現状プロジェクトで生み出された2つの”標”によって作られたこの道だけということになりそうだね。」
 現状? ガルヴィスらが訊こうとすると、オリエンネストが先に言った。
「そっか、またエンブリスみたいな人が現れれば、その分僕らが進める道も増えるということだね!」
 ああ、そういうことか――ガルヴィスらは納得した。

 しかしその時――
「なんか対流が――」
 と、クラフォードが言った。道の真ん中に竜巻のようなものが発生していた、精神の流れが激しい状態のようである。
「ああいう精神の流れに異常をきたしているところに魔物が現れるって傾向のようだな」
 ヒュウガはそう言うと剣を構えた。それに続いて大勢の者が得物を取り出して構えていた。
「精神の流れに異常をきたしているところに魔物が現れるのは現実世界でも起こっていることだからね。 ただそれが視覚的に見えるか見えないか、それだけの違いでしかない」
 カイトはそう言うとガルヴィスが言った。
「なるほど、つまりは現実世界だろうと精神世界だろうと変わんねぇってワケか」