ということでリファリウス率いる制作チームと、クラフォード率いる”アルフラドの森”再捜索チームの二手に分かれて事に当たっていた。
それぞれにセラフィック・ランドの役人たちがサポートまでしており、結構にぎやかな状態だった。
「ねえティレックス♪ なんだかデートみたいで楽しいね♪」
ユーシェリアはその状況を楽しんでいた。
「楽しいって――」
「だって、最近忙しくしていたじゃん? だから、こういうのもたまにはいいかなって――」
そう言われてティレックスは考え直した。
「確かにそうだな、最近こんなことってなかなかないことだったな。
なあ、どうするユーシィ? このまま異世界での問題に首を突っ込むもよし、
異世界の問題は”ネームレス”たちほかの連中に任せて俺らはこのままエンブリアの平和を守るためにこっちで鎮座するのもよし、
もちろん、こっちでやることも大変なことと言えば大変なことだが――向こうに行けばもっと大変だと思うぞ。
だから――」
すると、ユーシェリアは即答えた。
「だからって、お姉様たちだけに任せるっていうわけにはいかないでしょ?
私はお姉様たちに助けてもらったの、これはその恩返しのつもり。
それに――お姉様のいない世界なんて私には考えられない。
お姉様にも同じことを訊かれたけど、私はこのまま引き下がるつもりはないよ!」
そうか、そういえばそうだった、愚問だったな――ティレックスは反省していた。
「こらティレックス! いつまでもイチャついてないでさっさとしなさい!」
と、ユーシェリアはそう言うと、ティレックスは安心したかのような表情で頷いた。
「わかったよ。行こうか、ユーシィ!」
一方、制作チームは――
「とりあえず、アリヴァール・メタルからこれだけの量の”ホロウ・ストーン”が生成できたね。
メタルの部分をロストさせてしまうのは惜しいけど背に腹は代えられない、
ここから”マインド貫通”特性を持った武器を作ることとしよう――」
それに対して役人が訊いた。
「参考まででいいのですが、武器はともかく、防具のほうはいいのでしょうか?」
ヒュウガが答えた。
「”マインド・クリーチャー”の性質的には問題ないだろう。
そもそもこちらを攻撃する際には一定の思念を持って殴ってくるからな。
その分には物理的な影響を受けるから、精神体専用のそれは必要なく、個人個人の体力で十分賄える。
一方で、じゃあ何故武器が必要なのかというと、
純粋にその、向こうが一定の思念を持って受けてくれるわけじゃあないからどうしても物理の影響力は小さくなるってことだ。
クリーンヒットさせてくれるように思念を持って受けてくれるというのなら話は変わってくるわけだが――」
それがいわゆる、現世に霊などとして出てきている存在ということらしい。
「なるほど! ヒュウガ様も流石にお詳しいですね!」
アリエーラは言った。
「ヒュウガさんは”メンタライド”について研究してらっしゃいますからね!」
”メンタライド”とは?
「いわゆる精神生命体というものだ。
俺の本業は機械分野なんだが、機械と魔法の融合というのが軸にあってだな。
だが、その分野については、そこにいるリファリウスってやつが最も得意とする分野ということで被っちまった。
とはいえ、被ったからってやらないという選択肢はなく、幅を広げて機械と精神の融合というものを考えた末に始まったってワケだ。
”マインド・クリーチャー”についてもその副産物だな」
「では、”メンタライド”と”マインド・クリーチャー”、何が違うのでしょうか?」
と、リファリウスは意地悪く訊いてきた。
「何が違うって……お前知ってるだろうが。
まあいい、この際知らないやつもいるだろうから説明しておこう――」
その違いというのは大分類小分類的な違いでしかなく、広義の意味では”メンタライド”という大きなくくりに当てはまるという。
つまりは精神生命体といいつつ、案外物理的な体をなしている存在がいることもあるのだという。
あの女戦士やカスミはそのくくりに当てはまるということか。
しかし、”マインド・クリーチャー”は”メンタライド”の一種だが、名前が示す通りまさに精神体、
つまりは物理的な体を成さない存在がそれに当てはまるのだという。
ただし物理的な体を成す存在ということは、形がある存在ということである。
逆に言えば、形があるということは物理的な体を成す存在に他ならない。
つまりは”マインド・クリーチャー”自身も物理的な体を成す存在の一種である。
要は、”マインド・クリーチャー”はそれだけに非常に不安定な存在と言えるのである。
じゃあ結局どういう違いなのだろうか、それはこの後の話を聞いていればある程度見えてくるだろう。
「だから、案外目の前にいるそいつが実は”メンタライド”だったって可能性もあったりするんだぞ」
えっ、そう言われると――役人はビビった、まさかこの人――だが、ヒュウガは軽く否定した。
「安心しろ、俺は違うからな。
”メンタライド”ってのはいわば、精神生命体が物理的な体を手に入れることに成功した奇跡の存在なんだ。
もっとも、それを言うと実は俺もあんたも、アリエーラさんも全員それに当てはまる可能性があるかもしれないが――」
そう、生物はみな精神世界の上に物理的な体を成して存在している可能性があるという話があるが、
つまりは生きているものはみんな”メンタライド”である可能性が高いということである。
「そういう飛躍した話とは別に、”専門的な用語でいうところのメンタライド”でなくて+”一般的ないわゆるメンタライド”ってのは俺らとは違うんだ。
何が違うのか、”メンタライド”は前提として物理的な体についてはそもそも保証されていないということだ。
じゃあ、物理的な体を手に入れた”メンタライド”はどうなるのか?」
アリエーラは臆せず答えた。
「えっと、精神生命体が物理的な体を手に入れることに成功した奇跡の存在ということは――
その奇跡によって得られた自分の身体を大事にする、とかですかね?」
と、アリエーラはにっこりとしながら冗談交じりに言ったが――
「マジかよ――、流石はアリエーラさんだな、見事に当てちまった……」
えぇーっ!? あたりですかあー!? 言った本人が一番驚いていた。
「そういうことだ。
ともかく、”メンタライド”っていうのはその物理的な体に対する執着心がものすごく強いということだ。
そう、まさに自分が物理的な体を得られたら、そりゃあ大事にしようという行為がにじみ出ることだろう、まさにそれだ。
無論、それ自身は俺らにも当てはまると思うが、”メンタライド”のそれはもはや病気と言っていいほどのレベルだ。
例えば紋章とかファッションとかで身体にタトゥーの類を入れるとか……平気でするやつもいるだろうが、
”メンタライド”の場合はもはや御法度とか、そんなレベルだ。
それこそあんたらなんか、魔法を行使するのに身体に文様のごとくマナが浮き出てくるだろう?
”メンタライド”はそれすらも抵抗がある、たとえ死の危険が付きまとっていなくてもだ」
すると、ヒュウガはメタルからうまく”ホロウ・ストーン”の塊を生成していた。
「ほらよ、これを誰に預ければいいんだ?」
運搬係のフィリスが手を出した。
「今の面白い話だったわね、また面白い話があったら聞かせてよ」
ヒュウガは少々得意げな態度で言った。
「これぐらいの話でよければな」
すると、ヒュウガは後ろを向いて言った。
「って……話題を振ってきたハズのやつの姿が見えないのはどういうことだろうか」
リファリウスは鍛冶作業に集中していた。ヒュウガのさまに対してアリエーラとフィリスは顔を見合わせると笑っていた。