引き続き鍛冶現場にて。
「で、あんたは何故剣を打っているんだ?」
ガルヴィスはうつむいたまま顔を両手で抑えながら言った。
「まったくだ、この嬢ちゃんもお前と同じ状況のハズなんだぜ?
でも、なんかしていりゃあ気が紛れるとかなんとか言って聞きやしねえんだ。
つってもこの嬢ちゃんの腕、相当のもんだから俺としてはまったくもって大助かりなんだけどよお。
でも、そう言われてみれば嬢ちゃん、あのリファリウスって坊主に似ているなあ、
顔も何となくそんな気がするし、鍛冶の腕がいいところまで似てるぜ――」
それに対してガルヴィスが答えた。
「似てて当然だ。その女、リファリウスの姉貴なんだそうだ」
なんと! それにはおやっさんもおっかさんも驚いていた。
しかしリリアリスは表情を一つ変えず、ずっと剣を打ち続けていた。
もはや誰の声も聞こえていない――精密機械のごとく、剣を一生懸命叩き続けているのみだった。
その様子にガルヴィスは唖然としていた。
「その女、剣作り続けたまま気を失っているぞ――」
おやっさんは驚いていた。
「何っ!? この嬢ちゃんもか!?
あの坊主もそうだったよな、眠い目をこすりながら作っていると思えば気ぃ失ったまま一心不乱に剣を打ち続けているんだ、
どうなっているんだこの姉弟は!?」
リリアリスはただひたすらに――鋼に火入れをし、
鋼が程よい温度になると鋼をひたすら打ち続け、最後に研磨によって加工を施すと見事な業の剣を完成させていた。
そしてそれを繰り返すこと3時間、気が付いたら作業場で倒れており、完全に気を失っていた。
「恐るべき職人魂ね、こんなことができるなんて――」
おっかさんはリリアリスを抱え、彼女を自分の部屋のベッドの上へと寝かせると、戻ってきた。
「あんた! あの子に手伝ってもらった分はしっかりとお礼するんだよ!
あの子の腕はあんた以上だって言うじゃないか、ちゃんと弾んであげるんだよ!」
おっかさんにそう言われたおやっさんは心中複雑な思いだった。
「そりゃあ……まあ……。
で、でもよお、気ぃ失ったままこんな業物の剣作れるのってちょっと反則じゃねえか……?」
時を改めて。
主に”フェニックシアの孤児”勢が一堂に会し、そこへクラフォードとティレックスが話を聞いていた。
「で、理解が追い付かないんだが、結局何があったんだって?」
ヒュウガは訊くとリリアリスが答えた。
「さあ、私もさっぱりよ。
言った通り、あの倒れていた女戦士を助けたらなんか全部終わらせてくれたってとこ。
なんであの人があんな風にしていたのかもさっぱりだし、正直、私としても腑に落ちないってところよ。
ただ、言えることは私があのメルターバーグのパワーを枯渇させようと狙ったことぐらいで、
それ以外は特段何もしていないわよ。」
枯渇って――
「絶大な魔力を一気に放出する能力を持つが故の弱点かしら。
言ってもすぐに魔力をためていくやつだからあんまりうかうかしてらんないのもまた事実なんだけどね。」
クラフォードは頷いた。
「継続的に攻撃していけば間違いないってことか。
何でもいいが、お疲れさんだな」
だが、ガルヴィスは腑に落ちなかった。
「良くねえだろ、なんでその女戦士ってのが助けてくれたんだ? 大体その女戦士って誰だよ――」
リリアリスは答えた。
「さぁて、それはわからない。
けど、あそこに倒れていたんだから少なくとも”インフェリア・デザイア”に挑もうと考えていたのはおよそ間違いないわね。」
「それに、倒れていたじゃないか、そもそもそんなヤツに”インフェリア・デザイア”が倒せるとは思えないのだが?」
ガルヴィスは言うが――
「そんなもん、やってみなきゃわからないでしょ。
だいたい私らは異世界からの迷い子、自分の能力もちゃんとわかっていないやつよりも自分の能力をちゃんと把握している異世界の戦士のほうがよっぽどあてにならない?」
そう言われるとその通りだが――リリアリスは続けた。
「でも、私も驚きなのがあの戦士が起き上がってからというものの、すぐに助っ人として名乗りを上げてくれたことよ。
何度も言うけれども、それが何故なのかはさっぱりわからない。
とにかく、真相を確かめるためには異世界に行くしかないってことだけよ。」
ティレックスは悩みながら言った。
「なるほど――やっぱりまさにそういうことだな」
クラフォードは頷いた。
「ああ、これまではいろいろと知っていたような感じだから黙ってついてこいのスタンスだったのに、
今後は知らないからとりあえずやってみる、だから黙ってついてこいのスタンスだってことだ」
その場は散会すると、ヒュウガはリリアリスとアリエーラの元へやってきた。
「よう、なんか隠してるよな、教えてくれよ」
ヒュウガがそう言うとリリアリスとアリエーラは顔を見合わせていた。
「リファリウスの記憶をたどって……女戦士の話を聞こうか」
ヒュウガはさらにそう言うと、こっそりと話を始めていた。
「あいつの耳に入ると面倒が増えるからここだけの話にしといてね。
フェニックシアが墜ちるときの神殿の中で見慣れない戦士がいたって話したじゃない?」
ヒュウガは頷いた。
「なるほど、彼女はその時にもいた戦士だったということか。何となくだがそんな気はしていた。
あの時の件だもんな、それは確かにガルヴィスには触れてほしくないところか。
でも、それこそ、あんたこそ大丈夫か?
あの場がつらいのも、その時のそれがつらいのも、それはむしろあんたのほうのハズだが――」
リリアリスはにっこりしながら言った。
「やっぱり優しいわね、ヒー様ってば。
とりあえずは大丈夫よ、恐らく仇はとれていないだろうけれども、
それでもあの子の悲願だけは果たした、私はそう願いたいわね――」
仇じゃないのか、ヒュウガは悩んでいた。
「てことはつまり、あの時には違うやつがあの神殿にいたんだな。
そいつを見つけない限りは無念を晴らすというにはほど遠いってわけか――」
ヒュウガはリリアリスの悲しそうな顔を察して話を変えた。
「それよりもその女戦士だが、よく加勢してくれたもんだな」
リリアリスは頷いた。
「ちなみに言うと、あの子どこかで見たことがあるのよ。
というよりも、そもそも知り合いである可能性が高いわね――」
知り合いだって!? するとアリエーラが言った。
「はい、どうも向こうは私たちのことをよくご存じでして、
気さくに名前で呼んでくださっているのですが――」
例によってこちらからはさっぱりわからないと――ヒュウガは悩んだ。
「なるほどな。
それならそれでいいや、真相は異世界にてってところか。
いずれにせよ、あのガルヴィスに話すとトラブルの元になるからな、ここだけの話にしとくぞ」
と、ヒュウガはそう言いながらその場を去って行った。
「ねえ、どういうことだと思う?
あの子は私らのことを知っていた、確かに見たことがある気がするけどさ――」
リリアリスはアリエーラにそう訊いた。
「どうなんでしょう、確かめないことにはなんといってみようもありませんね――」
「これまであってきた”ネームレス”については面識があったと思う人とは何となく肌で感じていたじゃない? 彼女は?」
「肌で感じていたということは、物理的な肉体があって初めて成せることですからね――」
あっ、そうか――リリアリスは考えた、彼女は精神体だった。
でも、なんで精神体なのだろうか、それもイマイチはっきりしなかった。