神殿上部、ガルヴィスは部屋の扉を開けると……
「なんだ、何がどうなってやがる――」
ガルヴィスは部屋の中の様子を見ていた。その忌々しい場は何もなく、ただただ静寂に包まれていた。
しかしそこには何者かが倒れており、リリアリスとアリエーラは慌てて駆け寄った。
「大丈夫!? どうしたの!?」
「大丈夫ですか!? しっかり!」
だがしかし、その存在には異変が――
「これは――」
リリアリスはその人の身体を触りながら確かめていた。
「精神体!? 物理的な肉体こそ備わっていますが、一体どういう――」
アリエーラは首をかしげていた。
「騒がしいな、一体何がどうしたというのだ――」
と、今度は部屋の上から何かがすっと降りてきた!
「ん、なんだお前たちは? どこからどうやって入ってきたのだ、この封印されている土地に?」
すると、そいつは気が付いた。
「ん? ほう、お前たちがあれか、つまりは新進気鋭の”エンブリア勢”とやらか。
まあ、その”エンブリア”というのがなんだかわからんが――恐らく”エンブリス”の手の者ということだろう。
いずれにせよ、ただのイミテーション以外の何物でもないハズなのだが――”イーガネス”は何を焦っているのだ?」
すると、そいつはリリアリスのほうへと目を向けた。
「なんだと!? ”アナ・メサイア”がいるというのか!? どうなっている!?」
いや、だから”アナ・メサイア”では――と説明するのも面倒くさかったリリアリスは答えた。
「あんたの知るところじゃないのよ。
うるさいやつね、何でもいいけど”メルターバーグ”をさっさと倒すわよ。」
それがコイツの名前? ガルヴィスは訊いた。
「おい、こいつを知っているのか?」
リリアリスは首を振った。
「思い出しただけ。
”イーガネス”は”インフェリア・デザイア”の中では”猛攻派閥”と言われる集団のヘッドで、こいつはその手下の”メルターバーグ”。
さらに思い出したんだけど、その”猛攻派閥”ってのは”インフェリア・デザイア”の中での実力は最下位で、
首領”イーガネス”を筆頭に”インフェリア・デザイア”弱者が集まってできたっていう派閥なんですって。
だから協力関係というよりはほとんど上下関係ってところかしら?」
そう言われた”メルターバーグ”は”アナ・メサイア”こと、リリアリスをにらめつけていた。
するとガルヴィスも――
「思い出した。言われてみれば確かにそうだった気がする。
つまりはこいつは大したことがないってワケだ。
”インフェリア・デザイア”……いや、”下等生物”さんよ!」
ガルヴィスは調子に乗ってそう言った。
”インフェリア・デザイア”、”デザイア”というのはこれは訛っただけで本来の呼び名は”インフェリア・ディザスター”、
つまりは”小さな災いたち”――それがこの言葉の意図するものである。
各地で災いを起こしては世界を恐怖に貶めんとするのだが個体個体はさほど大きな存在ではない、
故にそのような名前が付けられたのだという。
だが、”インフェリア・ディザスター”を直訳すると下等な災いたち、転じてガルヴィスが言うように”下等生物”と呼ぶ者も多く、
それゆえか”インフェリア・デザイア”と呼ばれること自体嫌っている者も多いのである。
当然、直に”下等生物”と呼ばれようものなら逆鱗に触れることは確実である。
すると、メルターバーグは――
「ほほう、たかだかイミテーションの中での出来事にも拘わらず、ここまでバカにされるとは思ってもみなかったぞ。
いいだろう、そこまで言うのであれば――全力でかかってこい!」
どこかで聞いたようなセリフだが。
メルターバーグはもはやほとんど顔と手だけの存在だった――こいつ、どうなっているんだ!?
すると――
「うおおおおおおっ!」
両手を後ろに構え、そして、エネルギーを蓄え始めた!
だが、それに対してリリアリスは”兵器”で切りつけた!
「させるかっ! このっ!」
さらに追い打ちをかける!
「ぐはっ! おのれ”アナ・メサイア”め!」
リリアリスは果敢に攻撃を仕掛けながら言った。
「気を付けて! こいつのチャージはこの部屋程度なら全体に攻撃を与えるものだから全力で阻止して!」
なんだって!? ガルヴィスは驚いていた。
「だったら、この技で――」
ガルヴィスは構えると――
「ガル君、遠距離攻撃はNGだ。
リリアリス女史が珍しくあえて接近戦闘を繰り出しているところから察するに、直接攻撃で叩くしかなさそうだ」
と、カイトが言うと、ガルヴィスは構えるのをやめた。
「ちっ、そう言うことかよ! だったら直接ぶん殴ってやるぜ!」
ガルヴィスは剣を持ち出して襲い掛かった!
「ふっ、我の技を把握しているとは。
だが、だからと言って我に勝ったと思い込むのは早計だな――」
一方、イールアーズ班もとい、エンブリア勢は――
「こいつ、勘弁しろよ。
いきり立って突っ込んだはいいが、あとまで続かねえじゃねえかよ――」
クラフォードは頭を抱えていた、それもそのハズ、イールアーズは既に倒れていた。
「あいつ、敵殲滅力だけは無茶苦茶高いくせして防御能力がイマイチ弱いな。
あんな両極端なバーサーカー、見たことないぞ」
「俺も始めて見た。どうなっているんだ?」
アーシェリスとフェリオースがそれぞれそう言うと、ディスティアが言った。
「攻撃は最大の防御、そういう風に教えられて育っていますからね、まさに文字通りになってしまったということです。
確かに殲滅力で言えばシェトランドの強豪に比肩する、もしくはそれ以上の使い手と言っても過言ではありませんが、
あいつのアレについては親であるリオーンも頭を抱えているほどです。
まあ、そんな親も同じように育てられているんですけどね――」
血は争えないということか。ディスティアは続けた。
「これを機に考え方を改めてくれることでしょう。
自分の力一撃でノックアウトできない敵がいるとなるとなおさらですね――」
「自分の力一撃でノックアウトできない敵がいるとなると、なおのこと一撃で倒せるように考えるんじゃあ――」
フェリオースが言うとディスティアは冷や汗を垂らしていた、それだけが心残りだそうだ。
「世の中、そんなにうまくはいかねえからな。
そういうことなら俺も手伝ってやる、一発ヤキを入れる程度のことだけどな。
最近のあいつの戦い方の傾向を見るに、ほとんど欠点の塊みたいなもんだ。
能力自体はいいと思うんだがなんかもったいない――」
と、クラフォードが言うとディスティアは嬉しそうだった。
「あいつは幸せものですね、こんなに思ってくれる仲間がいるとは――」
「まったくだ。たまには素直に言うことを聞いてほしいもんだ」
クラフォードは得意げに言った。
「まあでも、それはそれでちょっと気味が悪いんだが――」
「同感」
と、アーシェリスとフェリオースが言った。確かにそれはそれで――
「なあ、イールアーズが目を覚ましたみたいだぞ、行こうか……」
ティレックスが言うとほかの者は気が付いた。
「なんだ、意外としぶとい野郎じゃないか。
なら、突っ立ってないでさっさといけって言われないうちにさっさと行こうか――」
と、クラフォードが呆れ気味にそう言った。