一方でアリエーラはカスミと共に”ライトニング・リュース”に搭乗していた。
外から持ち運ばれたいろんなデバイスがインストールされていて、現場は慌ただしい状態だった。
そこにナミスも一緒に来て話をしていた。
「なるほど、これがずっと温めていた”飛翔艇ライトニング・リュース”ですか。
まさに夢のような乗り物ですが、いろいろと不便なところがあるんですね――」
アリエーラは頷いた。
「ええ、まさに夢物語というような乗り物であることは否めませんが現実は結構大変なんですよ。
特にエネルギーの確保ですね、これができないと飛び立つことすらままなりません。
技術提供元のフローナスさんのほうでも大変苦慮されているところだと聞いています。
もちろん、これについてはリリアさんの独自の技術を積んでいますので――」
ナミスは頷いた。
「マダム・ダルジャンのそれと考え方は一緒ですね、
戦争の道具になる可能性があるからあまり広めたくないという。
無論、空飛ぶ乗り物というものはそもそも昔の大戦によって生み出されたものなので、
それ自身が戦争の道具になる可能性があるという点は否めませんが、
開発したエネルギーを利用するアルゴリズム部分まではそうであってほしくないということですか。
もちろんその気持ちはわかりますし、私個人としてもそれについては尊重したいところです。
でも、技術提供元のフローナスさんのほうはそれで大丈夫なのでしょうか?」
アリエーラは頷いた。
「自分たちで下手に扱えない力を用いることは避けたいとおっしゃっていました。
無論、本当なら使えるものなら使いたいですがほかの国も使っておらず、
この乗り物はあくまで個人所有の代物ですのでその前提でお話したら、
だったら聞かなかったことにしようとおっしゃってくださいました。
元々フローナスさんは飛行技術についてはある程度開発を続けていることからエネルギーについてもある程度は当てがあるそうです。
ですから動力部分についてはあくまで独自路線で開発していくみたいですね。」
ナミスは頷いた。
「フローナスさんも戦争は避けたいということの表れのようですね。
とはいえ、共用部分については共同開発していくというスタンスというわけですか、いいですね。
あと、これを利用して各地で積極的に教育支援をしていきたいのですが、実現は可能でしょうか?」
アリエーラは悩んでいた。
「それはなんとも……。
それよりも、各国のエンジニアがこぞって見学希望を出されている状況ですので――」
すると、ナミスが前向きに答えた。
「エンジニアですか! それ、私のほうに話を回していただくことは可能ですか!?」
えっ、アリエーラはキョトンとしていた。
「ただの見学ではないですよね、ずばり、学術的な見地からのそれだと思うのです。
技術の粋を集めた”ライトニング・リュース”自身から学ぶべきところはたくさんあるハズですので、
まずはそれをメインにしていこうと考えています。
そして、世界的に航空産業が成立すれば各国へ飛び回るのも自由となります。
そうなったら学生たちは勉強したいところで勉強するのも自由になります」
ナミスの熱の入れようときたらアリエーラも絶句ものだった。
「昔は戦争の道具でしたが今は如何に平和利用すべきであるかと、まさにこの船のそれにも表れているようです。
私はそういうことを多くの学生たちに知ってもらいたいのです」
ナミスの話は大きくなっていき、リリアリスの耳に入った時に事態は急転した。
とある席でナミスが堂々と話をしている中、周りの者はただひたすら静かにその話を聞いていた。
「質問はございますか?」
ナミスは質問タイムを設けていた。その場はそう、会議の場である。
しかもクラウディアスの会議室の席で、いわゆる学術支援に関する議題であった。
そのため参加者は学校関係者や大学教授なんていう人もいた。
何人かが彼女に対して質問している中、リリアリスは配布された資料をさらっと眺めているだけで何も聞かなかった。
「いいんですか?」
アリエーラはそっと訊くとリリアリスは答えた。
「まあ、ほとんど想像可能な範囲の質問が出てくるだろうし、それ以外では私から言うことは特にないかな。
それ以上にこの案はよくできているし、足りないところは追々でいい気がする。
それに――今推進中の例の資源ルールの問題、国際間となるとあれと同じ問題があるのは確定的、
違うのは流通するのがモノか技術またはヒトかの違いだけ。
それを考えると同時並行で問題を解決していく必要があるから、この会の問題として提起するのはちょっと違うわね。」
なるほど、アリエーラは頷いた。
「あちらでは技術面も同等に扱い、”資産”という形で話が進行していますからね。
あちらの問題を解消していけば、こちらはそれに乗っかる形でルールを決めていけばいいだけですね!」
「ま、そんなとこ。それ以外の点については私らで考えることはないわよ。
そのあたりは流石はナミスね。以前からずっと案を温めていただけのことはあるわね。」