そしてそのまま2人は連絡船に乗り込むと、船室にこもった。
「ふう、まったく……とんでもない目に遭ったなぁ――」
アリエーラは申し訳なさそうに言った。
「す、すみません――」
リファリウスは首を振った。
「悪いのはアリエーラさんじゃないよ、そもそも本当に人違いなのにさ。
それに、さっき薬草を見つけたときにも連中と出くわした、まだ探しているんだね――」
リファリウスは説明していた。
「例の聖女様の件ですね、しつこく探し回っているわけですか――」
アリエーラさんが心配そうに言うとリファリウスは頷いた。
「元々高額な報酬が付いているけど最近また吊り上がったっていうじゃないか、本当に迷惑な話だよ。
言っても、それでもやっぱり乗り気じゃないハンターズ・ギルドもたくさんあるし、
フィルフォンドでもそのうち事態は収束していくんだろう。」
アリエーラさんは頷いた。
「それより、どうして私が聖女様に間違えられるのでしょう――」
それは、アリエーラさんのポテンシャルがだね……リファリウスは何度もその手の説明をしていたことがあるが、流石にもう言うことはなかった。
「それに聖女様のお膝元であるフィルフォンドにまで――」
アリエーラさんはさらに心配そうに言うとリファリウスは頷いた。
「どうやら最近は手口が巧妙で、
例の聖女様を探したいという話をする上で本来の目的は伝えたりせず、
適当な理由で指名手配させるような感じになっているらしい。
それに、捕まえたいのは聖女様であるとは明言していない場合もあって今回のはまさにそう、
標的を”それらしい人物”で濁している感じらしい。」
アリエーラさんは頷いた。
「そもそも聖女様が間違いなど犯すはずはありません……そう考えている勢力も多数派なわけですし。
それで標的が聖女であることと犯行理由を誤魔化してまで捕まえようというつもりなんですね――」
リファリウスは頷いた。
「それに、元々コートアライブ(生け捕り)案件だったハズなのに、
いつの間にかデッドオアアライブ(生死を問わず)案件になってるし。
本当にひどいことを考える連中だね――」
さらにリファリウスは考えた、なんです? アリエーラさんはそう訊いた。
「何故、連中はそうまでして彼女を捕まえたいのか、それが気になってしまってね。」
確かに異様なまでの執念、どういうことだろうか、アリエーラさんは考えた。
「彼女が禁忌とされることをやってしまったというのが言い分みたいですが、
彼女はそんなことしていないということですよね。
第一、悪いことをするような人には見えませんし。」
リファリウスはテーブルの上に飲み物を用意しながら言った。
「まったくもってその通り。
それにデッドオアアライブ案件になっているのも気がかりだ。
このことから察するに、聖女様は見てはいけないものを見てしまった、
それは連中にとって都合の悪いことを見てしまった、
だから口封じのためなら手段を択ばないと考えるのが自然だろう。」
そんな! アリエーラさんは驚いた。
「でも彼女、そんな感じのこと言っていませんでしたよ?」
リファリウスは考えた。
「恐らく、他人に言うべきではないと考えてのことだと思う。
彼女の性格上、他人を極力巻き込みたくないっていう考えがにじみ出ている。
初見がまさにそうで、うちを使用してほしいって説得するのも一苦労だった。
聖女様相手なんだから本来ならこちらが折れるべきなんだろうけど、私も放っておけないタチだからね――」
アリエーラさんは苦笑いしていた。
「あれは説得というより……そもそも聖女様相手に一戦交えていると思いますが、それは――。
どうしてもこのまま行くのなら私を倒してからにしろって、ものすごい剣幕で言ったのを覚えていますよ。」
どういうこっちゃ。だが、リファリウスは頷いた。
「そう。それだけ彼女を見過ごすことができなかったんだ。
でも、そのあとは随分とうちを気に入ってくれたみたいで、なんだかんだで良かったと思うよ。」
リファリウスとアリエーラさんは船の上で一晩明かし、そして着いた港で再び話をしていた。
「あれっ、”エルカトーネ”です?」
アリエーラさんがそう言うと、リファリウスも言った。
「そういえば行き先も確認せずに飛び乗ったからね、うっかりしてたよ。
どうしようかな、向こう側に渡るのなら再び船に乗るしかなさそうだけど――」
アリエーラさんは左右を見渡していた。
「そう言えば向こうに渡る方法ってほかにありませんでしたっけ――」
「なさそうだね、今は確か”ブリッジ”もメンテナンス中だったハズだ――」
するとリファリウスは考えていた、何だろう、アリエーラさんはリファリウスのことをじっと見ていた。
「そういえば”ラベンダー・エディード”の話、聞いてなかったね。
今後のことを含めて話したいことがあるんだ。だからちょっといいかな?」
アリエーラさんは頷いた。
「確かに忘れていましたね。
ここでは何ですし、場所を変えましょうか?」
リファリウスも頷いた。
「場所は”ドミナント”でしたい。いいかな?」
アリエーラさんは嬉しそうだった。
「ということは船の上でもたくさん話ができますね!」
「そうだね、久しぶりにいろいろと話ができそうだね。」
しかしその時――
「ん? なんだろう、誰かが私に話しかけてきたような?」
リファリウスがそう言うとアリエーラさんも左右を見渡して言った。
「私にも聞こえました、東のどこかに来てほしい、みたいな――。」
するとリファリウスは目をつむって考えていた。
「これは……映像が見えるね……。」
そう言われてアリエーラさんも目をつむってみた。
「確かに――なんでしょう……。
もしかして、お告げというものでしょうか?」
「わからない――けど、何だろう、どうしても行かないといけないような気がする。
この場所は……水上都市がある場所を高いところから見下ろしているということは……」
「水上都市と言えばあそこしか知りませんし、
それに……こんなお告げがありそうなところを考えてもやはりあそこぐらいしかありませんね。
つまり、少なくともまた船に乗ることになりそうです。」
「だね、そういうことなら行こよ! いずれにせよ長い船旅、たくさん話ができそうだね!」
「そうですね!」
ティレックスはリファリウスに話をしにテラスへと来ると――
「なっ、なんだ!?」
とても驚いていた。
そこにはリファリウスとアリエーラさんの2人が西向きのベンチに座っており、
なんだか仲睦まじく手をつないで座っていて、何故か目を瞑っていた。
「寝ているのか……?」
すると、リファリウスがティレックスの気配に気が付いた。
「おや、嵐に巻き込まれて意識不明だって聞いたんだけどもう大丈夫なのか。」
そう言われたティレックスは呆れていた。
「その情け容赦ない嵐があまりに激しすぎてな。
けど、プリズム族の人たちに助けられた結果、この通りってところだ。
あの人たち、普通に癒しの精霊様っていう感じで意外だったよ。
前は魔性の種族とかなんとか聞いていたけど――」
そう聞いてリファリウスは立ち上がった。アリエーラは2人の話を聞いていた。
「なるほど、当人たちが心配するほどではなかったようだね。」
何の心配なのか言いたいことが予想できたティレックスだが、リファリウスはさらに続けた。
「こう見えて意外とヘンタイのティレックス君が素面でいるぐらいだから大丈夫ってわけか。」
それは予想外! ティレックスはリファリウスを睨めつけていた。
「おいおい、アリエーラさんを睨めつけるとはどういう了見の所業だろうか。」
オメーだよ! ティレックスはそう訴えた。
まあでも、ティレックスはどうやら大丈夫そうだ――このやり取りで判断するんじゃねえとは彼の弁だが。