リファリウスはカスミとティオに促されるままにフェラントの港へとやってくると、
そこにはアルディアス軍とルシルメア軍、そしてグレート・グランド軍とデュロンド軍が一堂に結集していた。
「あれ? 帰ったんじゃなかったの?」
それぞれの軍の責任者である者がリファリウスの前にやって来ると、デュロンドの人が言った。
「おお! リファリウス様! この度は貴重なお時間をいただいてまでお話いたしましたのに、本当に不甲斐なく存じます!
申し訳ござませんでした!」
ホントだよ、リファリウスは即答すると、一同は狼狽えていた。
そこへグレート・グランドの人が言った。
「あっ、あの、そこで……大変おこがましいのですが、1つだけお願いがございます!」
本当におこがましいやつだな、リファリウスはそう言うとアルディアスの人が話を続けた。
「はい! 大変申し訳ございません!
つきましては、どこか都合の良いところで我らが連合軍の軍隊に戦闘訓練をさせてもらえないかと思いまして――」
んだよ、なんで私が訓練に付き合わされなきゃいけないのだろうか、
リファリウスはイラつきながらそう言うとルシルメアの人が言った。
「おっ、おっしゃる通り! ですが――万が一、その”インフェリア・デザイア”という者が突如として現れた際、
どう立ち向かうか考えたのですがまるで見当もつかないのです!
ですから、おそらく”ネームレス”の中でも1位2位を争うリファリウス様のお力を借りて訓練させてはいただけないだろうかと――」
さらにグレート・グランドの人が言った。
「あっ、で、その――訓練の内容ですが、模擬戦闘などはいかがでしょうか、ということです。
無論、リファリウス様が一方的に無双していただいて構いません、
これは”インフェリア・デザイア”という者からの襲撃を想定していますので、
リファリウス様のご自由にしていただいて結構です――」
待てよ、つまりそれというのは――リファリウスはどういうつもりなのかをすぐに察した。
「なるほど、そういうことならいいよ、相手してやろう。」
リファリウスは”兵器”を取り出すと、その形状を長い棍へと変化させた。
「もう一度確認するけど、”インフェリア・デザイア”との実戦想定だから何をしたって構わないってことだよね?」
責任者たちは冷や汗をかきながらも頷いていた。すると、リファリウスはニヤっとしていた。
「いいだろう。さあみんな、息吸って歯食いしばれ――」
その後、フェラントの港ではとてつもない大嵐に見舞われることとなったのである――。
「なあ、今、フェラントの港に行くともれなくやばいことに巻き込まれるらしい――」
お城の3階にてスレアがそう言うと、ヒュウガが言った。
「ああ、現場では犯行が現在進行形で行われているらしい。
とはいえ、それが不思議なことに公的行事だから犯人の検挙はできないみたいだ」
するとガルヴィスはつまんなそうに言った。
「羨ましいことしてるじゃねえか、リファリウスのやつ――」
それに対してスレアとヒュウガは冷や汗をかいていた、こいつ――。
大嵐が晴れた後、テラスに戻ってきていたリファリウスはものすごく上機嫌、
ただし、フェラントでは死体処理に追われて――いや、みんな生きてるし。
「痛ってぇ……ったく、加減しろよな、クソっ……」
クラフォードは右腕を抑えて愚痴をこぼしながらリファリウスの元へとやってきていた。
「やあ、クラフォード君♪ 何かあったの!?」
こいつ、殴りてぇ……が、クラフォードは堪えていた。
「大嵐に巻き込まれてケガしただけだ。
もっとも、ただの大嵐と呼ぶにはちょっと表現が足りないほどの大嵐なんだがな」
クラフォードはリファリウスをにらめつけながらそう言った。
「あれ? ご自慢の剣は?」
「置いてきた。残念だがこの腕では持ち上げるのも困難、大使館に送るよう伝えてある」
それは相当ひどい目にあったことは容易に想像がつく。
するとリファリウスは立ち上がり、クラフォードに座るように促すと、
リファリウスは乱暴にクラフォードをベンチめがけて突き飛ばした。
「痛って! おい! 何するんだ!?」
しかしリファリウスは一切気にせず、クラフォードの身体を触っていた。
「ふんふんふん、話じゃあずいぶんすごい大嵐だったみたいだね、しょうがないな、治してやるか――」
他人事かよ――クラフォードはそう思っていた。だが――
「痛って! なあ! やるんだったらもうちょっと丁寧にできないか!」
リファリウスは痛そうにしていたクラフォードの右腕を乱暴につかんで診ていた。
「そんな大げさな。ただの骨折じゃないか。」
ただのって――骨折だから酷いんだろうが、クラフォードはそう思った。
「だいたいなんでわざわざ酷い状況だと自覚していて5階まで登ってくるんだろうね、キミは。
つまりはドMなんでしょ? そう思ったから雑な対応をしてあげているんじゃん、ありがたく思いなよ。」
ああ、それもそうか、それは気が付かなくて悪かったな、クラフォードはそう言った。
いや、よくよく考えればリファリウスの言う通りなんだが。
なんで満身創痍の状態で平然とこんなところまで来れるんだこいつ、そう思われても仕方がない。
しかしそれには裏があり、
「あまりにひどい風だったんで足りないベッド数をルダトーラの団長に譲ってきただけだ」
ティレックスは意識不明だったが生きてはいるようだ。
ともかくけが人が多すぎるため、クラフォードは直接首謀者……じゃなくて、
リファリウスのもとに来て助けを求めていたのである。
「幸い意識もあれば足だけは動くんでな、こうしてクラウディアス特別執行官様のお力を借りようと思ったまでだ」
ふーん、リファリウスはそう言いつつ、クラフォードの腕を治療していた。
「ほら、これで骨はつながったんじゃないかなっ!」
リファリウスは思いっきりクラフォードの右腕を引っ張った……。
「痛ぇー!! だからなんでだよ! なんでこんなことするんだよ!」
リファリウスは得意げに言った。
「魔法で患部を治療したし、とりあえず引っ張って骨をつなげば大丈夫だということが分かった。
引っ張って治したからとりあえず大丈夫だろう。さあ、今度はその炎症を抑えよう。」
ほ、ほんとかよ――クラフォードは目に涙を浮かべながら言った。
「なんつー荒療治だよ、魔法使えるんだろ、魔法の力で治せよ……」
「そんな非効率なことするわけないだろ。
確かに魔法の力だけでやることは可能だけど、それって無茶苦茶手間もかかるし、無茶苦茶時間もかかる。
物理的に治せるんだったら極力そのほうがいい、そうすれば治りも早く済むってもんだ、違うかい?」
……くそっ、こいつ――確かに、エンブリアでの常識ではある。
魔法の力もなくはないが、リファリウスの言うようにかかる時間は膨大だ。
それなら確かに……その通りなんだが……
「なんで医術の心得持っててこんな治療方法なんだ……」
クラフォードは右腕をリファリウスに預けつつ、がっくりとしながらそう言った。
「骨だからね、正しく接合させるのなら力づくも辞さないってワケだよ。
しばらく痛みは残るけれどもそのうち元通りになるハズだ。
キミは回復呪文系に氷魔法系も持っているから痛むと思ったら利用してみるのがオススメだよ。
炎症はすぐに抑えられるし、痛みも抑えられる。」
「ああ! そうだな! それはそれはご親切にどうもありがとうございました! おかげでなんとか早く治りそうです!」
クラフォードはヤケクソだった。