翌日、メンバーはマダム・ダルジャンに乗り込み、スクエア島跡へと向かっていた。
今回は非常に豪華なラインナップで、”ネームレス”だらけのメンツである。
「なあクラウディアス特別執行官様、夕べは大問題が発生していたんだろ? こんなところにいていいのか?」
ガルヴィスが冷やかすかのようにリファリウスにそう訊いた。
「確かにうちが絡んでいることは疑いようのない事実だけど、
直接問題を起こした本人ではないし、そもそもセラフ・リスタート計画のほうが優先すべきこともあって、
向こうで全面的に対応しますって解答ももらっているからね、私らが直接介入することではないよ。
もっとも、私はアドバイスは可だけど直接手を出せるわけでもないから、
話すだけ話したらあとは経過待ち、やれることはないよ。」
ヒュウガがさらに言った。
「問題を押し付けているように聞こえるかもしれないが、
残念だが他所の国に資源が入ったら、こちらとしてはそれ以上見える状況ではないからな、
受け取った国の判断に委ねられるってことだ、そうなると問題はうちではないということにしかならない。
それだとやっぱりよろしくないってことで、今後は保管状況と流通状況と用途の見える化をしようって決めたってわけだ」
シャディアスは愕然としながら言った。
「お前らさ、なんか知らないうちにすごいことしているよな――」
それに対してヒュウガが呆れ気味に言った。
「まったくだ、我ながらなんでこんなことまでしているのかがさっぱりわからん」
一方でリファリウス。
「確かに、なんでお国の仕事をマジメにこなしているんだろうか。
言っても私は行政なんかはさっぱりで、アドバイス程度のものを大雑把にしかやっていないからね。」
「大雑把にしてはずいぶんと的確じゃないか? 特に今回の取り組みとかな。
万が一戦争の道具に利用されようものなら……の件とか、関係各所にはずいぶんと響いてたみたいだぞ」
クラフォードは言うとリファリウスは言った。
「いやいやいや、別に大したことじゃあないよ。
要は簡単なことで、自分が作ったものがどのように使われているのか?
まさか、よからぬことに使われているんじゃないだろうなって思うとぞっとする――
ということを国単位で完成品以前の資源レベルの段階で考えてもらおうということだよ。」
発想はクリエイターである自身の考えによるものだった。
そこからの転用ぶりはまさに複雑な思考回路を備えているこいつならではと言える。
恐らく、ほかについても似たようなところから着想を得ているのだろう――クリエイター、恐るべしである。
だからこそ、できることとできないことがはっきりしているともいえる。
当然、アドバイスとはいっても計算はこいつの得意技、
アドバイスする内容の時点で案をしっかりと具体化するのも得意。
足りないところは専門家を交えてやればいいだけのことなので、
それだけの環境がそろっているクラウディアス特別執行官は案を実現させるうえで障害はほとんどなさそうだ。
「なんか、難しい話をしているんだな――」
ロッカクの頭はパンク寸前だった。いや、そこまで難しくはない――ハズ……。
そして、スクエア島跡を目前に迎えた一行。
今回の目的を具体的に把握していない者もいたため、ここでおさらいである。
「そういや今更なんだが、セラフ・リスタート計画ってやつか? セラフィック・ランドを復活させるんだよな?
そしてその先に、俺ら”ネームレス”の世界っていうのがあるかもしれないんだよな?」
ロッカクはそう言った、大変よくできました。
とは言ってもいずれにせよ、結果論を見てイエスとしか言えないような状況のため、正直何とも言えない。
そもそもその”ネームレス”の世界にたどり着くのかも不透明と、実は何とも言えないのである。
とはいえ、それらしいことをずっと示唆されてきてはいるので、試す価値はあるという結論であるのが実際のところである。
ロッカクはさらに続けた。
「で、これから行くのはそのセラフィック・ランドの第3都市のスクエア島の跡なんだよな?
そこでちょっと気になったんだが――」
ロッカクは考えながら訊いた。
「第3都市? 前のフェアリシアってところが第4都市だって言ったよな?
で、セラフィック・ランドが出来てから第1都市、第2都市の順にできたからそう言うんだよな?
そこまでは何となくわかったんだが、なんで第3都市のここが重要な都市扱いなんだ?
聞くところによると、第2都市のエンブリスってのが一番重要そうな気がするんだが……」
確かに世界の名はエンブリア、つまりはその聖地エンブリスこそが重要という言い分はもっともである。
するとリファリウスは周りの反応を見ながら言った。
「知っていそうな人は……いなそうだね。
言っても私もあくまで想像の域を超えないから何とも言えないんだけれど、
世界の名はエンブリア、その聖地、エンブリス。
でも、聖地というザ・ホーリー・フィールドの恩恵にあやかるために多くの人が集まったはいいが、
聖地というネームバリューゆえに新たな建物を作ることが禁忌とされた。
じゃあ、だったら聖地から外れて建物を建てればいいじゃんと考え、
たまたま聖地の隣にあるスクエアに建物を作るとそこに人々が集まり、経済都市となった。
もちろん、そういう歴史背景があることから経済都市のほうが人々が集中し、大発展を遂げることは明らか。
そのため、確かに神さびた土地として重要視されるのはエンブリアだけれども、
このセラフィック・ランド地方の経済をはじめ、政治に関する中枢もスクエアに集中していることから、
セラフィック・ランド自治区内のみならず、
外の国の人にとっても政治経済という観点で見ればまずはスクエアっていう見方になることだろうね。」
こいつ、いつものことながら感心するが、さも見てきたかのようにぬけぬけと。
だが、ガルヴィスは同調していた。
「確かに、神頼みよりも飯の種だしな」
なるほど、こいつは単に現実主義なだけのようだ、そう考えるとこれまでの発言の説明も簡単につきそうだ。
しかし、そう説明されるとシャディアスも気になっていた。
「ん? そういやフェニックシアも聖地とか言われてなかったっけ?」
それに対してはヒュウガが答えた。
「そりゃそうだ、第1都市だからな。
セラフィック・ランドで最初ってことは、まさにこの世界ができて一番最初にできた土地ってことだ、
それだけに扱いは第2都市のエンブリア以上なのは容易に想像がつくだろう」
それに対してリファリウスは言った。
「だね。思い出せばフェニックシアって未開の土地だらけなのはもちろんだけど、
あまり開けた土地がない田舎……というか集落ばかりだった気がする。
だからエンブリス神殿の建築なんて計画にも上がらなかっただろうし、
そもそも浮遊大陸ということもあってか物資の流通が不便な土地だ。
そして、その眼下のエンブリス島はまさに神の見下ろす地という感じ、
かたや、フェニックシアは神……いや、天使が最初に降りた土地――2つの聖なる島はそういう背景なのだろう。」
まあ、いずれにせよ、神話ベースの話になりそうである。
このあたりは神学者が解明してくれるに違いない、オルザード辺りが。
いや、既に答えを握っている可能性さえあるか。