エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第2部 果てしなき旅へと連なる試練 第4章 脅威たちの襲来

第75節 貫禄の女剣士、もう立ち止まらない

 そしてシオラとカスミ、ディアナリスとローナフィオル、そしてリファリウスたちは合流した。
「あれ、クラちゃん夫婦は?」
 お前もクラちゃん言うんかい――ティレックスは項垂れながらそう思った、先ほどの健全なティレックスの件がまだ利いているようだ。
「ま、デートなら邪魔しちゃ悪いわよねえ?」
 と、何故かユーシェリアが言った、まるでリリアリスのようだ。 それにリファリウスが得意げになって頷いた。
「確かにそれはマズイ、ほっておくしかないな。ところでシオりん、もう大丈夫?」
 リファリウスはシオラにそう訊くと、彼女は明るい顔で答えた。
「ええ、おかげさまで。心配かけたみたいでごめんなさい。 でも、”カスミさん”のおかげでなんかすっきりしました!」
 リファリウスは頷いた。
「カスミんはね、見た目もちょうどこんな感じだし、 それに見た目のわりに年齢的にはお姉さんだからね、だからちょうどいいかなと思ってね。」
 しかし、そんなカスミはリファリウスにくっついていた。
「でもリファリウスお兄ちゃんよりは年下。お兄ちゃん抱っこする――」
 お前のほうこそ本当に何歳だよ、ティレックスはリファリウスに対してそう思った。
「んもー♪ しょうがないなー、カスミんったらー♪」
 リファリウスはカスミを抱きかかえると、そのまま愛でていた。 それを見て、シオラもなんだか安心したような様子だった。
「あははっ! やっぱりカスミさんって可愛いですよね!  こんなに可愛いのにきちんとお話を聞いてもらえてとても嬉しいです!」

 シオラは泣きじゃくっていた。カスミはただただひたすら泣き続ける彼女を優しく支えているだけだった。

 しばらくするとシオラは泣き止み、カスミと一緒に海のほうに向かって座りなおした。
「ごめんねカスミちゃん。でも、泣いたらちょっとすっきりしました――」
 カスミは頷いた。
「泣き足りなかったらいつでも来る。 私でよければいつでも胸貸してあげる」
 シオラは頷いた。
「うん、そうだよね、リリアさんやアリエーラさんもそうだけど、 みんな優しいから貸してくれるんだよね。 カスミちゃんも貸してくれるんだね……」
「遠慮しない。私にしかできないことある、話も聞く」
 話……シオラは少々遠慮がちに言った。
「でも――そうだね、言ってみるだけ言ってみるのもありだよね、じゃあ聞いてくれる?」

 シオラは無我夢中でティランドの話をしていた。 それをカスミはただにっこりとした顔で聞いているだけだった。 そして、そのうち――
「ごめん、やっぱりカスミちゃんにはちょっと早かったかな、結局私一人で話していただけだった――」
 すると、カスミはにっこりとしながら言った。
「ううん、こういう時なんでも話したくなる、だから私全部聞いてた。 ティランドのこと好きなんだね」
 その反応にはシオラも驚いていた。カスミは話を続けた。
「私、幻獣、でもそれ以前に一人の女。私も好きな人いた。でも、親しい人みんな亡くなった――」
 えっ、そうなの!? シオラは訊いた。
「召喚獣でも召喚された先でそんなにあっさりと死んじゃうものなの?」
 カスミは頷いた。
「私みたく未熟な存在、精神の使い方上手くない、だから弱ければ召喚先でもすぐ死ぬ。 そうじゃないの、”大いなる存在”呼ばれるごく一握りだけ」
 そうだったんだ、シオラは反省していた。
「ごめんねカスミちゃん、そんなことも知らないで”獣”を召喚したりして」
 カスミは首を振った。
「私、ここに呼び出され、エミリアに呼び出され、すごくうれしい。 エミリアに出会えた、リリアお姉ちゃんに出会えた、アリエーラお姉ちゃんに出会えた、 シオラにも出会えた――」
 シオラはカスミのほうに向き直った。
「うん! 私も、カスミちゃんに出会えてすごくうれしい!」
 カスミは答えた。
「うん、だからシオラ、その日その日を大事にする。 私と一緒にいるこの瞬間も、リリアお姉ちゃんたちと一緒にいる瞬間も、 ティランドと一緒にいた瞬間も――ううん、シオラはティランドと一緒にいた時間も大事にしてた。 だから私にティランドのことたくさん話してくれた。 話してた時のシオラとても嬉しそう、ティランドのこと好き、とてもよく伝わる」
 そっ、そうかな? シオラはそう訊くとカスミは言った。
「私も同じ、好きな人いた、亡くなった。 私、ずっと泣いてた。それからずっと、好きな人のこと忘れられなかった。 でも私、お姉ちゃんも亡くなって話す相手いなくなった、誰もいないところで叫んでた」
 そんなことが――シオラは呆気に取られていた。カスミは続けた。
「でも私決めた、吹っ切れた」
 シオラはさらに話を訊いた。
「その時の時間大事にする。思い出の中の人、戻ってこない。 思い出は思い出、未来は未来、思い出にとらわれてたらきっと思い出の中の人がっかりする。 思い出の中の人、自分足枷――思われたくない。 だから前向いて歩く、思い出のために未来向く、思い出の中の人安心する」
 そう言われてシオラも吹っ切れた。
「なーんだ、カスミちゃんって思った以上に経験豊富なんだね!  召喚獣だから見た目以上なのかなって思ったけど、思った以上に女子やってたんだ!」
 カスミは得意げに答えた。
「私もお父様お母様のために生きる、お姉ちゃんのために生きる、彼のため精一杯生きる、そう決めた」
 シオラは頷いた。
「うん、そうだね、そのほうがティランドも喜ぶか――」
「絶対に喜ぶ。ティランドの好きなの、いつものシオラ。 ティランドはシオラ好き、いつものシオラ好き、ならばいつものシオラやる、それしかない。 楽しいとき好きなだけ笑う、嬉しいとき好きなだけ喜ぶ、腹が立つとき思いっきり怒る、悲しいとき思いっきり泣く。 それ全部シオラ、どのシオラもシオラ自身。ティランド、どのシオラも好き、いつものシオラ好き」
 シオラはにっこりとしていた。
「あーあ、カスミちゃんにはかなわないな、まさに人生の先輩だよ。 だから今度からは”カスミちゃん”じゃなくて”カスミさん”って言わないとダメだね」
「どっちでもいい、どっちも好き」
「ふふっ、カスミさん!」
「シオラ、私についてきなさい」
「はいっ! カスミ先輩っ!」
 その時のカスミの眼差しはリリアリスのそれを彷彿させるものだった。 いや、むしろその眼差しは、実姉のオウカのものなのかもしれない。

 まさかのカスミのとんでもないエピソードと共にシオラは決心していた。 彼女は森のほうへと振り向いた。
「そう――私は決めたの、私は私らしく生きる、そう決めたの。 ティランド! 私、あなたのこと忘れないわ、あなたと一緒にいられてとっても楽しかったから!  ありがとうティランド! 大切な思い出をありがとう!  だから……そろそろ行くね、ずっと立ち止まっているのは私じゃないからね!」
 そして――シオラは涙をぬぐいつつ、リファリウスの元へと駆け寄った。
「きっと、想いは伝わったと思うよ、それなら彼も安心してシオラさんのことを見届けられるね。」
「ええ! そうだといいですね! でも――リリアさんだったらこういう時どうするんだろ?」
 シオラはそう訊くと、リファリウスは言った。
「姉様の場合か、姉様の場合は――」
 するとそれに対して女性陣は全員注目していた――リファリウスだろ、何故……ティレックスは不思議に思っていた。
「姉様の場合は――まあ、どちらかというと職人気質な人だからねぇ、 だからそうなったら恋よりも仕事に打ち込んで嫌なことは忘れるってスタンスだろうね、きっと。 それこそ別に恋人に限らず、そういうことはあったハズだ。 でも、そういう時は必ず決まって何かはしていた、何かをしていないとすぐに悲しみが襲ってくるからね。」
 行動することで気を紛らわすか、なるほど――それにはティレックスも頷いていた。 それ自身はティレックスにも覚えがあった、以前は仲間が次々と倒れていく中、 何かをやっていなければ精神を保つのは困難だった、それと同じようなことである。 そうか、そういえばリファリウスやリリアリスも親しい人を失ったことがあるんだったっけ――
「そして、そのうち慣れてくるってわけか――いや、強くなっていくんだな、きっと」
 ティレックスはそう言うとリファリウスは頷いた。
「ああ、その通りだよ。最初は誰だって弱いし、一生弱いままということもありうる。 でも、いずれかはそういうことが起こったっておかしくはない、そんな背景でどうケジメをつけるか?  そんなものに正解なんてない、ただ日常をひたすら過ごすだけさ。明日は我が身っていうでしょ?  だから今度は自分の番と思って、先に逝った人にも顔向けできるような生き方と、 残された人のことを思いながら生きることしかないね。」
 こいつ、わけわからんキャラのクセにこういういいことを平気で語るからよくわからん。 言っていることは至極真っ当で見習いたいなって素直に思える内容なのだが、このキャラだけが実に惜しい――