一方でリファリウスはティレックスとユーシェリアの夫婦と合流、フェアリシアのカフェで夕食を楽しんでいた。
「癒しの妖獣というのは伊達ではないからね、カスミんは。」
「確かに、カスミちゃんぐらいの子がいてくれるといいですよね!
まあ、私としてはリリアお姉様でもいいんですけど♪」
ユーシェリアは調子よくそう言った。
「カスミんはあの見た目とは裏腹に、経験のほうはなかなか侮れないものがあるからねぇ、
まさに人は見かけによらないってこのことだよ。」
えっ、そんな? ユーシェリアは訊いた。
「うん、不覚にも私も舌を巻いてしまうほどだ。恋に悩んだら彼女にも相談してみよう。」
そうなのか、それはすごい――ユーシェリアは舌を巻いていた。
「一方、ティレックス君は断然、巨乳のリリアお姉様のほうが嬉しいよね!」
リファリウスはいきなりそう言うとティレックスは焦っていた。
「なっ、なんで!?」
「なんでって野暮なこと訊くんじゃないよ、
ティレックス君の大好きな大好きな巨乳でセクシーで美人のリリアお姉様だよ! 憧れのお姉様でしょ?」
ユーシェリアも攻撃した。
「そうそう! ティレックスってば、リリアお姉様みたいなのが好みなんだよね!」
だからなんでだよ……ティレックスは悩んでいた。
「それに、私はリリアお姉様見習っているんだもん!」
だからそれはあれほど辞めておけと何度も以下略で。
それはともかく、ティレックスはそう言われて思考が停止していた。
するとリファリウスが言った。
「ユーシィさんは巨乳のセクシー美女だからねぇ!
こんな彼女がいるなんて、ティレックス君ってば隅にはおけないよねぇ♪」
「ほんとにさぁ♪ ティレックスったらやるゥ♪」
やるゥじゃねえ、なんで他人事なんだよ、お前の話だろ――ティレックスはユーシェリアにそう言った。
でも、こういうところはまさにリリアリスである、ティレックスは悩んでいた、
本当にこのままリリアリスになるんじゃないだろうな、と。
「そんなに悩まなくたってさ、リリアお姉様、いい人だよー?
本当はリリア姉様みたいになるっていうのはおこがましいって感じだけど、
でも、ああいうのいいなーって思うんだ――」
どこがいいんだ、ティレックスは言った。
「確かにリリアさんっていい人だとは思う。
それこそ俺やユーシィなんかは昔からずっと面倒を見てくれていたし、ユーシィなんて俺よりももっとだろ?
それどころか、たくさんの人どころか国一つ面倒を見てくれてもいる、アリエーラさんたちとな。
でも、それってなかなかマネできないことだと思うし、とてもすごいことで偉大なことだと思う。
面倒見がいいと言えばその通りなんだろうけど、なんだかすごいものを見た気がするよ――」
というのは今さっき初めて言ったことではなかったティレックスだった。
それに対してリファリウスはコーヒーをすすりつつ答えた。
「そうかな? そうでもないと思うけどな。
というか姉さまの場合、むしろあまり物事を深く考えずにやっているだけだよ。
無論、私の場合もだけど、それが気が付いたらいつの間にか話が大きくなっていただけで、
後には引けなくなった以上、腹をくくることにしただけなんじゃないかな?」
物事を深く考えずってそんなこと言うか、ティレックスはそう言うとユーシェリアも言った。
「ううん、リファお兄様が言うんだから間違いないよ。
それに……お兄様もお姉様も基本的には面倒くさがりじゃん?
だから話が大きくなるぐらいだったらそもそも手出しするわけないもんね!」
おいおいおい、本人の目の前で……ティレックスは頭を抱えていた。
でも、確かにあのヒュウガを思い出してほしい、血縁関係があるのなら、あいつみたく面倒くさがりなのは何となく頷ける。
それに対してリファリウスは――
「っははははは! 言われちゃったよ! 確かに面倒くさがりだね!
まあ、自ら面倒ごとに首を突っ込んでいるっていうのは否めないけれども私にもやりたいことがあるんだ、”極力楽な方法”で。
そりゃあ人間だもん、楽であるに越したことはないさ、正確には精霊だけど。
だから目的の遂行のためには手段を選んだりはしないさ。」
というセリフ、もはやネタにしか聞こえない。
目的の遂行のためには手段を選ばないとは冷酷に聞こえそうだが、その本質は斜め上の手段である。
確かに案外その斜め上こそが意外と楽なルートを辿っているような気がしたティレックスだった。
それに人が死ぬのもあまり好ましくないということももちろん視野に入っているあたり、
こいつ、かなりの策士だ――改めてそれを思い知らされたティレックスである。
こんなやつがクラウディアスの重鎮群に含まれているんだ、
そりゃあクラウディアスの、さらには連合軍の安定は約束されたも同然だ、ティレックスは皮肉っぽくそう考えた。
「だからって、リリアさんが好みの女性かどうかは別の話だからな!」
と、ティレックスはそう言い放つと、ティレックスは反撃を考えた。
「じゃあさ、他人のことばかり言うけどさ、あんたはどんな女性が好みなんだ!?」
ティレックスはそう訊いた。こいつはいろんな女性と話をしているからな、だったら好みの女性はどんななのかぜひ聞きたいもんだ。
「えっ? 私の場合? そうだね――私が好きなのはずばりアリエーラさんだね!」
くっ、アリエーラさんを指名するとはこいつ……命知らずな。だがしかし――
「ですよね! やっぱりリファお兄様はアリお姉様をさらっていく白馬の王子様だもんね!」
と、何故かこのカップルを支持する女性のなんと多いことか。
いや、でも待てよ? これはあくまで”好みの女性”であって本命は違うということか!
男性諸君よ! 諦めるのはまだ早い! でもアリエーラさんは誰にも渡さないからな。
とまあそんな話についてはともかく、あまりにはっきりと言うこいつに対し、ティレックスはやっぱり訊くんじゃなかったと後悔した、
確かに訊いてどうなるわけでもなく目新しさもないため、なんか聞いて損した気分になったのである。
じゃ……じゃあ、これならどうだ! ティレックスは改めて訊いた。
「そっ、それならあんたのほうこそお姉さんのことをどう思っているんだ!?
身内は身内かもしれないけれども、それこそあんた自身が言ったようにリリアさんは巨乳でセクシーで美人なんだろ!?
そういう女性はどうなんだ!?」
よしっ、これなら! ティレックスは勝ち誇ったかのような顔でそう言った! が、しかし――
「ん? うん、もちろん好きだよ。例えばフロレンティーナさんとかねー。
彼女の場合、巨乳でセクシーで美人だけど、見た目とは裏腹に結構可愛いんだ。」
……まさか臆せずに答えるとは、それも楽しそうに。
しかもフロレンティーナさんを言うとはこいつ……やはり命知らずなやつだ。
もとい、実はフロレンティーナさんについては一瞬頭をよぎったティレックスだった。
だが、彼女をこの流れで言うと、逆にお前のほうこそ気になっているんだろうと言われて誤爆する恐れがあったため、あえて話題に出さなかったのである。
そのハズだったがそこは流石にリファリウス、ニヤっとしながら反撃を開始。
「ふふっ、なるほど。
フロレンティーナさんの名前で面食らったようだね、その顔はまさにそれを言っている。
そっかぁー、ティレックス君は彼女みたいなのも好みのタイプなんだー!
彼女はラミア族でまさに巨乳でセクシーで美人、とっても色っぽいし、男性陣はたまんないもんね!
ティレックス君もやっぱり男の子だね!」
ティレックスは焦っていた。
「なっ!? なんでそうなるんだ!? おかしいだろ!?」
「はい確定。そんなひた隠しにしなくたって大丈夫、男の子でしょ、ああいう女性に憧れるのも無理ないって。
つまり、ティレックス君は健全な証だよ。」
「だ、だから! そうじゃなくって!
確かにフロレンティーナさんもなかなかのプロポーションだから彼女はどうだって聞こうと思ったけど!」
それに対してリファリウスはニヤっとしながら言った。
「ふっ、青二才め、まんまと引っかかったな。
そうか――キミもフロレンティーナさんは巨乳でセクシーで美人だと思っていたんだね!」
しまった! ティレックスはトラップにかかってしまった! こうもあっさりと!
「そんなに騒ぐことのほどじゃないでしょ。
そもそも試しにフロレンティーナさんの話題でカマかけてみただけなのにこうも過敏に反応するとは――」
リファリウスは余裕の態度でコーヒーをすすりながらそう言った、。
カマかけるとは完全にハメられた……ティレックスはがっくりと肩を落としていた――
「安心するといいよ、キミは健全な男子そのものだ。それにユーシィさんはとにかく可愛い。
それこそこないだの通り、彼女も一応ラミア族気質な血の持ち主、キミなんて一瞬で虜になってしまうほどだ。
このこの、憎いねえ。羨ましいじゃないかあ。ヒューヒュー。」
と、最後までコーヒーをすすりながら棒読み気味に安っぽい内容でティレックスを冷やかしてきた。
もはやティレックスは項垂れているしかない。
そして、そんなやり取りに対してユーシィはずっと笑っていた。
「ティレックスって意外とエッチだね! あはははははっ!」
「そうかな? 意外かな? って言わないと! 健全なティレックス君!」
「あはははははっ!」
頼むからやめてくれ……ティレックスは切に願っていた。
「他人のこと言うけどあんただって同じじゃないか!」
「私? そうかな?」
「リファお兄様は特別だよ! ティレックスとは違うもんね!」
「だってさ。キミと一緒にされるとは心外だな。」
「何が違うんだよ!」