話は続く。
「あくまでイーガネスがヘッドということか。
ということはつまり、いわゆる下っ端にはそんな情報を教えられていないのか、
それとも知ったこっちゃないって感じなのかな?」
ティレックスはそう言うとローナフィオルが答えた。
「ゼロ・ブレンダルは”協力していただけ”って話だったっけ。
ということはつまり、後者だね」
知ったこっちゃないってこと? ティレックスは訊くと、ローナフィオルは頷いた。
「思い出したことがあるんだけど、言われてみれば確かに、
”インフェリア・デザイア”っていうのがいたような気がするんだよね。
それが突然どうして出てきたかはさっぱりわかんないんだけど、
それぞれが別々の目的を持っていたような気がするんだ」
そう言われてリファリウスは頷いた。
「言われてみればそうだった気がするね。
別々の目的……確かにそうでなければ行動に一貫性がないのも説明がつく。」
それに対してクラフォードは言い返した。
「一貫性はあるだろ、明確に、このエンブリアを脅かそうというのは共通していると思うが」
ウィーニアは気が付いた。
「そうだよ! だからゼロ・ブレンダルは”協力”なんだよ!
イーガネスがヘッドというか、ドメイナスよりも強いんでしょ!
強いんだったら弱いのは従ったほうが間違いないよね!
強いのを利用して行動すれば自分の目的も達成できるって、そういうことなんじゃない?」
あっ、なるほど――そういうことか、クラフォードは気が付いた。それに対してリファリウスが言った。
「そうだ、”インフェリア・デザイア”はあくまで自らの目的を達成するために行動をする連中だ。
だから、自分の目的を成就するために協力関係を結ぶこともあるということ、まあ……私らも似たようなものだね。
だけど、”インフェリア・デザイア”はそれ以上に自らの目的を優先しようという傾向のほうが強い。
あのゼロ・ブレンダルの例を見ただろう?
あいつは姉さまに会うことが目的だったようだ、そのためには途中で味方を裏切ることも辞さない。
故に彼らは自分たちのことを”仲間関係”とは言わない、あくまで”協力関係”と表現する。」
ということはつまり――ドメイナスもゼロ・ブレンダルもそもそもエンブリアを脅かそうとしているのはあくまでイーガネスの意思であり、
自分たちはもののついでにやっているだけと言うわけなのか、そう思ったティレックスである。
「なんていうか、そういうのって腹が立ってくるよな。
もののついで程度にエンブリアにこうして襲撃しに来るなんて、何のつもりだよって思うな――」
イライラを募らせながらそう言った。それに対してリファリウスは考えながら言った。
「もののついで程度ならそんなに肩入れする程度でもないと思う。
特にどうだろうか、ドメイナスの場合とか。
冒頭のセリフの”イミテーションの世界を復活させようと目論む”っていうのは、
おそらくエンブリアという世界を消し去ろうとしている状況に私らが反発していること、
つまりはセラフィック・ランドの復活、”セラフ・リスタート計画”をこなすことを意味していると思われる。
で、それをしているのがつまりはエンブリスの子らとも言っていた。このあたりが妙だ――」
クラフォードは考えた。
「そう言えば毎度毎度”イミテーション”などと言っていたようだが、
時折エンブリアとか言ってみたりと表現のほうには一貫性がないような気がするな」
リファリウスは頷いた。
「ファースト・インプレッションだから可能性としては地が出てしまったという可能性もある。
それに、そんな我々がどうしても邪魔なんだそうだ、”セラフ・リスタート計画”をこなすから?
でも、それでもわざわざ世界間移動をしてまで計画阻止を狙っているんだよ? どうだろうか?」
それについてはティレックスが答えた。
「てか、異形の魔物も大量に流入しているからな、
案外、向こうからなら簡単にこっちの世界へ出入りできるんじゃないか、創造主側の世界なんだしな」
そう言われるとリファリウスは考え直した。
「言うねえ! 確かに、その通りだ!」
やった! ティレックスはちょっと嬉しかった、リファリウスを納得させたなんて。
すると、クラフォードは考えた。
「ん? 待てよ?
”インフェリア・デザイア”は俺らがどうしても邪魔で、
それをあえて邪魔しようとする”アナ・メサイア”という”インフェリア・デザイア”がいる。
つまりは――要するに、エンブリアには脅威がいると考える”インフェリア・デザイア”がいて、それがイーガネス一派だということか?」
今日はティレックスだけでなく、クラフォードも冴えていたようだ。さらに――
「ということは、エンブリアは存在していなければならないと考える”インフェリア・デザイア”がいて、”アナ・メサイア”がそうだということだろうか?」
ティレックスはそう続けた。それに対してリファリウスは言った。
「まあ、可能性としてはなくもないよね、イーガネス一派の”何の”計画を邪魔しているかにもよるけれども。」
あっ、”何の”計画か……男2人は少しがっかりしていた、リファリウスのほうが何枚も上手だったようだ。
「ま、でも、そういえばゼロ・ブレンダルの襲撃の時に俺が戦ったやつは、
イーガネスってやつも含めて”イミテーション”……このエンブリアの地にいる俺らを恐れているみたいなことを口にしていたな。
だから、そこだけははっきりしている、俺ら恐れているというのなら、そんな恐るべき俺らは連中に向かって全力で抗ってやれば間違いないってことだな」
クラフォードはそう言うと、全員がそれに賛同した。
門番は既に倒されていた、大きな剣で真っ二つにされた跡があるところから、おそらく、ドメイナスが倒したのだろう。
そして、例によってフェアリシアの祭壇で我を唱えると、フェアリシアは復活した。
フェアリシア……シオラをはじめとするフェアリシア留学勢にとっては忘れもしない懐かしの地である。