エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第2部 果てしなき旅へと連なる試練 第4章 脅威たちの襲来

第69節 精神を断つ術、回帰へのカギ

 リファリウスは話を続けた。
「私らは”回帰への道”を開くにはセラフィック・ランドが復活すればそれでよいと考えていたけれども、 問題はどうやって回帰するかについて全く言及してこなかったね。」
 確かにその通りだが、何か問題が?
「問題は道が開いたとて、それを通り抜けることが可能かどうかだ。 それこそ、幻獣の例を考えるとわかるだろう。」
 アリエーラ女史の研究によると、幻獣は精神の存在だけとなってトンネルを行き来しているということだ、要するに――
「トンネルを行き来する? 精神だけの存在となって!?」
 ということである。ティレックスはそう言うとリファリウスは頷いた。
「つまりは世界間移動をする際には精神だけの存在となる必要があるわけだ。 それは何故か? 通る場所がただのトンネルではない、精神だけが通れる”精神トンネル”だからだよ。」
 なんだか複雑な話になってきたな、クラフォードはそう言った。
「私もこれまでの知識から類推しただけに過ぎないから、複雑とは言ってもそもそもそういうものだという認識でしかないんだけれどもね。 でも、そんな精神の存在の中――つまりは精神空間の中にあるエンブリアの世界に移動するだなんて、 エンブリスらのプロジェクトは結構無理がある所業だったのかもしれないね。」
 そう考える根拠は? ティレックスは訊いた。
「そもそも精神だけの存在って何ってところだと思うけれども、 この場合、一番気にしなければいけないのは精神だけの存在となった場合に自律的な移動は困難であることだ。 ゆえに、幻獣たちは召喚主の意思に呼応し、召喚主を”標”――まあ、実際には召喚魔法で発動した印だかなんだかを目印にして移動を行うってわけだよ。 そう、精神が移動するには何かしらの”標”となるものが必要なんだ。 その”標”となる目標物に向かうことで、精神は初めて移動が可能になるんだ。」
 そう言われてシオラは考えた。
「それでクラウディアスには”幻界碑石”という”標”があるんですね!」
 リファリウスは頷いた。
「よく幽霊なんかが人の思いや思い入れのある場所にたまったり憑りついたりするのも、 まさにそういったことが1つの要因となっているんだよ。 逆に行き場もなく当てもなく彷徨っている場合は何を”標”にしていいのか道を失っているというパターンだね、 こういう場合は様々なものを”標”としているのかそうでないのか探っている状況……まさに文字通り彷徨っている状況だね。 まあ、話はそれてしまったけど――」
 でも……精神だけってことは物理的な肉体は置き去りなのか、そう訊くとリファリウスは少しだけ考え、はっきりと答えた。
「少なくとも、それはないな。 見ての通り召喚獣であるハズのカスミんはもちろん、私ら”ネームレス”も世界間移動をこなしてきているはずだが、 この通り物理的な肉体という器が備わっている…… メカニズムはわからないけど物理世界に出てきた際に精神を元にして肉体が復元されると考えてもいいのかもしれないね。 ということはつまり――なるほど、 もしかしたらエンブリスのプロジェクトは精神だけの存在となって無事に世界間移動ができるのかどうかを検証しようというのが発端だったのかもしれないな。」
 そして、エンブリアに移動ができたということか?
「今言ったように”標”という目標物がないと移動ができないからね、 つまりは”標”という目標となる対象物がないと世界間移動自体が成立しない。 だからエンブリスたちはどうしたかというと、すでに”標”という目標物を指定した世界をなんとかして精神世界に放り込み、 そして世界間移動の実現が可能かどうかを確かめたというのが実際のところなんじゃないかってことだよ。」
 そして、その世界こそがエンブリアだったということだろうか。
「だから向こうのエンブリスの故郷であるアンブラシアからの迷い子、 つまりは”ネームレス”はそのエンブリスらが設定した”標”に導かれて漏れなくエンブリアへと移動することになったと、そういうことだと考えられるね。 問題はあくまで導かれるようにエンブリアへと移動することになっただけだから、実際に”標”の元に行ったわけじゃないこと…… これが何かしらの不都合を生じる原因になっている可能性がありそうだね、例えば記憶障害や若返りとか――」
 それにしてもこいつ、まるですべてを見てきたかのように……。 確かに説得力はあるが、まさかエンブリス自身か、またはプロジェクト・メンバーの1人とかじゃあないだろうな?  いや、でもこれまでのことを考えると――本当にこいつの思考回路どうなっているんだ? よくその発想に至るもんだ。

 しかし、話はここで終わりではない、発見した”精神斬り”の武器についての話に移行する。
「で、あえて精神斬りを可能にする能力――この際だから”マインド貫通”特性とでも名付けておこう。 つまりは”マインド・クリーチャー”相手に戦う必要がありますっていう話だね。」
 マインド・クリーチャー、つまりは精神体を成す魔物ということである。
「精神世界のトンネルってことは様々な精神が渦巻いている、 それによって魔物さえも生み出すこともあり得るからバトルもあり得ると、そう言う理解でいいか?」
 クラフォードはそう言うとリファリウスは頷いた。
「まさにその通りだ、流石にそろそろわかるよね。 つまりこの剣はエンブリスらの贈り物、その意図はこれから先はこれが必要なんだよということを暗示しているってわけだ。」
 それに対してユーシェリアが訊いた。
「魔法は効かないんですか?」
 リファリウスは答えた。
「残念だけど、まだ実体に未練のある幽霊やこの現実世界にいるような精神体だったらともかく、 精神世界にいるような、より純粋な存在としてのマインド・クリーチャーについては魔法でも無理だよ。 魔法は精神エネルギーから物理的なものに対して影響を与えるようにと開発された力だから、 精神体に与える影響は物理攻撃ほど絶望的ではないにせよ、それでも効果は薄いほうだね。 だから”マインド貫通”特性の武器を媒介にして魔法を行使する必要がある。 さっきも言ったように精神の流れは”標”を目標にするからね、 だから”マインド貫通”特性の武器を”標”に見立て、コントロールするんだ。 幻界碑石のようなものは長い時間をかけてようやく”標”として成立させるに至った代物なんだろうけど、 武器などの即席品でやるのなら特殊な素材を使うことで直に叩くこともできるし、 魔法にも精神の力の部分が集中するようになって、より効率よくヒットすることになるんだよ。」
 なんだか面倒そうな話だが、とりあえずこの件についてはリファリウスに一任すれば問題なさそうである、というのも――
「ということは当然1人1本……これ1本だけあっても足りるハズがないということだね、量産が必要か。 ん、でも待てよ――なるほど、作るための材料は問題なさそうだね、これなら作れそうだけど―― そうだね、工程が少々大がかりになりそうだね、みんなに手伝ってもらえるといいかもだけど―― いや、必要になるのはフェニックシアまでが復活した後ってことになるから、フェニックシアの職人さんたちに協力してもらった方が手っ取り早いね。」
 作れるのか、そんな”マインド貫通”特性の武器まで――こいつ、つくづくだがやはり只者ではないな。
「その顔は作れるかって言いたいような顔だね。 もちろん作れるよ、作り方はわかってるからね。 だって――何を隠そう、私のこの”兵器”こそがまさに”マインド貫通”特性を持っているからね。」
 こら。そのオチ。もうお前ひとりで充分なんじゃないかな。絶対人数分要らんだろ。なんの茶番だったんだ。