エンドレス・ロード ~プレリュード~

最後の奇跡 第1部 光を求めて 第2章 再起への誓い

第41節 解決、そして帰郷

「痛いけど少しだけ我慢するのよ。」
 エレイアはあの後セイバルの南の研究島まで戻ってくると、リリアリスの手術を施されるに至る。 この研究島も後で爆破予定だ。
「麻酔みたいなものとかはしないのか?」
 イールアーズはそう訊くとリリアリスは頷いた。
「分かってるでしょ、そもそもシェトランド人にはそういうのはほとんど効果がないのよ。」
 あっ……そうか、敵から何度か麻酔銃や麻酔針の類を受けたことがあるイールアーズ、 言われてみれば確かに――
「大丈夫、私は上手だからうまくやってあげるわよ。」
 リリアリスはゴム手袋をした手をエレイアの傷口の中へと突っ込んだ、 ディスティアがうまい具合に切り付けてできた傷口である。
 エレイアは苦しそうだったのでディスティアは心配したが、 リリアリスならうまくやってくれると信じて祈っていた。
「エレイアの核を見つけたわ。 目視できないからはっきりとしたことは言えないけど、 恐らく正確に異物をぶっ飛ばしているのでしょうね。 この状態で再結合が起こればきっと――」
 普通なら身体のあちこちの器官を傷つけそうな行為だが、 恐らく魔法の力でも使っているのだろうか、うまくやっていると思われる。
「連中が残していたメリュジーヌの研究資料だけが頼りですからね、 切り出す箇所にも神経をすり減らしましたよ。 無論、核の異物ということですから、ある程度のあたりをつけて切っているハズですが――」
 ディスティアはそう言うとイールアーズは腕を組んで冷や汗をかいていた。
「にしても、意図的に核を傷つけて元に戻すとかとんでもない方法だな。 成功したからいいものの、でも、そこはきちんと正確な技を入れる当たり、流石と言うべきか――」
「”剣聖の心眼”ってやつね、でも、今は”賢者の心眼”というのが正しいかしらね、ほら見て――」
 リリアリスはエレイアの身体の中をいろいろと探っていると――
「見つけたよ、これがそうね――」
 彼女はそう言いながらゆっくりとエレイアの傷口から手を引っ込めた。 すると、彼女のその手には何やら変な物体をが――
「これでエレイアをコントロールしていたっていうの!?」
 ローナフィオルたちは驚いていた。 それについて、リリアリスはその物体を眺めながら答えた。
「恐らくだけど、異物の全体像を丸ごと切り離したようね、流石ディア様だわ。 一方のこっちの異物だけど、これはなかなかの精密な機械ね。 多分だけど、魔力を増幅して神経系統を支配するための機構が備わっているのかしら。 あっちの機械のほうはあくまでこいつの制御のみをしているだけで、 こっちはこっちでエレイア自身を支配していたみたいね。 ちなみに魔法生物を操るのにこの手のものが使われるケースもあるけど、 そういうものに比べると、これははるかに高度なものよ。 それはやっぱり、シェトランド人っていうヒューマノイドタイプの生物相手だから、 より精密かつ高度な技法や部品で作られているってことになるのかしら、ちょっと分析が必要ね――」
 エレイアはこんなもので――
「もしかしたら薬の力で解消する方法があるかもしれないわね、次の被害者が現れたらの話だけど――」
 機械に対してそんな対処法があるのか――でも、神経系統に作用するということなら意外とありなのかもしれない。 にしても、手術とか薬を作るとかそんなことまでできるとは、リリアリスの力もまた侮れないようである。
 そして最後にセイバルの研究島の施設も爆破すると彼らはその場を後にし、それぞれの島へと戻っていった。

 数日後、ディスティアの今の状態についてはいろいろと賛否両論あるようだが、 当の本人にしてみればそんな話など、ほぼどうでもよかった。 しかし、それでも彼にとって気になるのはエレイアのことである。
「賢者ディスティア様になったんだね、そう呼んだほうがいいのかな?」
 エレイアは彼にそう訊くとディスティアは優しく答えた。
「いいや、今まで通りに呼んでくれると嬉しいよ、キミにとっての私は私だ、それ以外の何物でもない。 もう身体は大丈夫なのか?」
 エレイアはまだ調子を取り戻せてはいないが、それでも普通に動けるまでには回復していた。
「うん! ディル! 多分だけど、再結合がうまくいったみたい!」
「そっか、それはよかった!」
 ところで、エレイアはディルに話があった、真剣な話である。
「私のこと、あんなに心配してくれて……ありがとう。やっぱり、私にはディルしかいない――」
 さらにエレイアは悩みながら話し始めた。
「でも私、今まであんなこと――とっても淫らなことをやってきた女なのよ?  それこそヴィーナス・メリュジーヌとかシュリーアとか名乗って、たくさんの男たちと……。 それなのに、今になっても私はディルと一緒にいたいだなんてどうかしてるよね、 こんな女、ただのアバズレ女が……」
 エレイアはとてもつらそうに言うが、ディルは何も言わずに彼女をそっと抱きしめた。
「私もかつては多くの人を殺し、万人斬りと呼ばれた身だからね。 もちろん、その過去は決して消えることはない。 だから、これからもそれに向き合って生きていくつもりだよ――」
 エレイアは感心していた。
「そっか、ディルは強いんだね、私なんかとは全然違う――」
 そんなエレイアに対してディルは優しく諭した。
「強いわけじゃないよ、私にはそれしかなかったんだから。 当然、そこから逃げて生きることを放棄できたハズだけど、私にはそれができなかったんだ。 だから今の私はここにいるんだ――」
 生きることを放棄できなかった? どうして? エレイアは訊くとディルは再び優しく答えた。
「それはエレイア、キミがいるからだ。 それだけのことと思うかもしれないけど、私がこうしていられるのはまさにキミのおかげだと思っている。 だからもしエレイアがいなければ、きっと私は変わることができず、あのまま生きることを放棄していたことだろう」
「私のおかげ?」
「そう、エレイアのおかげだ――」
 エレイアは少し考えた。
「ねえディル、私も変われるかな?」
 ディルは笑顔で答えた。
「もちろんだ、私でもできたのだ、それならエレイアにできないハズなどない。 これまで私のためなら何でもしてきたキミだから、キミにできないとは到底思えない、だから間違いないよ」
 エレイアは楽しそうに答えた。
「ふふっ、不思議ね……ディルに言われると本当にできそうな気がしてきた!」